宋名臣言行録 / 前集巻一・范質
舊制宰相早朝上殿命坐有軍國大事則議之從容賜茶而退自餘紙尾用御印可其奏謂之印畫降出奉行而已由唐五代不改其制國初范質王溥魏仁溥自以前朝舊相且憚太祖英睿具劄子面取進止朝退各疏其事所得上㫖臣等同署字以志之自是奏御寖多或至旰昃命坐啜茶之禮尋亦廢罷今遂為定式
新字:旧制宰相早朝上殿命坐有軍国大事則議之従容賜茶而退自余紙尾用御印可其奏謂之印画降出奉行而已由唐五代不改其制国初范質王溥魏仁溥自以前朝旧相且憚太祖英睿具劄子面取進止朝退各疏其事所得上旨臣等同署字以志之自是奏御寖多或至旰昃命坐啜茶之礼尋亦廃罷今遂為定式
書き下し
舊制、宰相早朝して殿に上れば、坐を命ぜらる。軍國の大事有らば則ち之を議す。從容として茶を賜いて退く。自餘は紙尾に御印を用いて其の奏を可とす。之を印畫と謂う。降し出だして奉行するのみ。唐・五代に由りて其の制を改めず。國初、范質・王溥・魏仁溥、自ら前朝の舊相を以てし、且つ太祖の英睿を憚る。劄子を具して面のあたり進止を取る。朝退けば各々其の事を疏し、得たる所の上㫖に臣等同じく字を署して以て之を志す。是れより奏御寖く多く、或いは旰昃に至る。坐を命じ茶を啜るの禮も尋いで亦た廢罷す。今遂に定式と為る。
現代語訳
古い制度では、宰相が早朝に殿に上ると、座ることを命じられた。軍国の大事があればそれを議し、ゆったりと茶を賜わって退いた。その他のことは、書面の末尾に御印を押してその奏上を認めた。これを印画といった。下げ渡して実行するだけである。唐から五代まで、その制度は変わらなかった。宋のはじめ、范質・王溥・魏仁溥は、自分たちが前王朝の旧宰相であることを思い、そのうえ太祖の英明さを憚った。そこで書面を用意して、面前で進退の指示を仰いだ。朝廷から退くと、それぞれその事を書き記し、得た上意に臣らが連署して記録した。これ以後、奏上はしだいに多くなり、日が傾くまでかかることもあった。座を命じ茶を喫する礼も、まもなく廃止された。いまではそれが定まった形になっている。
解説
宰相が座って茶を飲む慣行が消えた由来を書いた条です。**きっかけは、前王朝の旧宰相たちが遠慮して、いちいち書面を用意し面前で指示を仰いだこと**でした。しかも退出後に上意を書き取り、連署して記録に残す。丁寧すぎるほど丁寧なやり方です。ところがそれが定式になり、奏上は増え、日が傾くまでかかるようになり、座も茶も廃れました。一人の遠慮が制度を変えてしまう、その経路が記録されています。
この章句が説くこと
自ら前朝の旧相を以てし且つ太祖の英睿を憚る是れより奏御寖く多く或いは旰昃に至る坐を命じ茶を啜るの礼も尋いで亦た廃罷す慣行遠慮制度
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