宋名臣言行録 / 前集巻一・曹彬
太祖遣曹彬潘美征江南彬辭才力不迨乞别選能臣潘美盛言江南可取帝大言諭彬曰所謂大將者能斬出位犯分之副將則不難矣美汗下不敢仰視將行夜召彬入禁中帝親酌酒彬醉宮人以水沃其面既醒帝撫其背以遣曰㑹取㑹取他本無罪只是自家著他不得葢欲以恩徳來之也是故以彬之厚重美之明鋭更相為助令行禁止未嘗妄戮一人而江南平
新字:太祖遣曹彬潘美征江南彬辞才力不迨乞別選能臣潘美盛言江南可取帝大言諭彬曰所謂大将者能斬出位犯分之副将則不難矣美汗下不敢仰視将行夜召彬入禁中帝親酌酒彬酔宮人以水沃其面既醒帝撫其背以遣曰会取会取他本無罪只是自家著他不得葢欲以恩徳来之也是故以彬之厚重美之明鋭更相為助令行禁止未嘗妄戮一人而江南平
書き下し
太祖、曹彬・潘美を遣わして江南を征せしむ。彬辭して才力迨ばずとし、别に能臣を選ばんことを乞う。潘美盛んに江南取る可きを言う。帝大言して彬に諭して曰く、所謂る大將とは、能く位を出で分を犯すの副將を斬らば、則ち難からずと。美汗下りて敢えて仰ぎ視ず。將に行かんとし、夜彬を召して禁中に入らしむ。帝親ら酒を酌む。彬醉う。宮人水を以て其の面に沃ぐ。既に醒む。帝其の背を撫して以て遣りて曰く、㑹取㑹取、他本と罪無し。只だ是れ自家、他を著くること得ざるのみと。葢し恩徳を以て之を來さんと欲すればなり。是の故に彬の厚重、美の明鋭を以て、更々相い助を為す。令行われ禁止まりて、未だ嘗て妄りに一人をも戮せずして江南平らぐ。
現代語訳
太祖は曹彬と潘美を遣わして江南を征伐させた。曹彬は辞退して、自分の才も力も及ばないと言い、別に有能な臣を選んでほしいと願い出た。潘美は江南は取れると盛んに言った。太祖は大きな声で曹彬に諭した。「いわゆる大将というものは、持ち場を離れ分を越えた副将を斬ることができれば、それで難しくはない」。潘美は汗を流して顔を上げられなかった。出発の前夜、太祖は曹彬を宮中に召した。帝は自ら酒をついだ。曹彬は酔った。宮女が水をその顔に注いだ。目が覚めた。帝はその背をなでて送り出して言った。「うまく取れ、うまく取れ。あちらはもともと罪が無い。ただこちらが、あれを置いておくわけにいかないだけだ」。恩と徳をもって帰服させたいと思ったからである。こうして曹彬の重厚さと潘美の明敏さが、たがいに助け合った。命令は行われ、禁じたことは止み、ただの一人もみだりに殺すことなく江南は平定された。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
説苑・奉使蔡師強・王堅をして楚に使いせしむ。楚王之を聞きて曰く、「人の名章章たる者多し、獨り師強王堅と爲すか。」趣かに之に見えんとし、次を以てせず、其の人の狀を視るに、其の名を疑いて其の聲を醜しとし、又た其の形を惡む。楚王大いに怒りて曰く、「今蔡人無きか。國伐つべきなり。人有りて遣わさざるか。國伐つべきなり。端に此を以て寡人を誡むるか。國伐つべきなり。」故に二使を發するに、三たび伐たんと謀る者を見る、蔡なり。
-
尚書・立政今自り立政するに、其れ憸人を以てすること勿かれ、其れ惟れ吉士のみ。
-
尚書・冏命慎みて乃の僚を簡べ、巧言令色、便辟側媚を以てすること無かれ、其れ惟れ吉士なるべし。
-
牧民忠告・拜命今官を選ぶ者は大率(おおむ)ね内を重んじて外を軽んず、殊に知らず漢の宣帝の民を富ます所以、唐の太宗の家給し人足るる所以は、皆民を牧するの長を重んずるに由るが故なるを。嗚呼、民を牧するの長、其の重きこと此くの若し、乃ち泛焉(はんえん)として選び、懵焉(ぼうえん)として授く、奚(なん)為れぞ是れを慮らざるや。
-
尚書・咸有一德官に任ずるには惟れ賢材、左右には惟れ其の人。
-
『韓非子』説疑第四十四其の臣の意行を知らずして、之に任ずるに國を以てす。故に之を小にして名卑しく地削られ、之を大にして國亡び身死す。臣を用うるに明らかならざればなり。