甲陽軍鑑 / 品第四十三
一第二に大敵とは、國五ケ國·十ケ國も持たる大將の事也、大敵にも二ツ有、一ツには弱敵、二ツに若敵、弱敵とは未練にして我持來る國計り長久と存知、他國へ心をかけざるは、よそより其まゝおかぬものなり、但し大軍の中にはなき樣にても、弓矢の功者小身の家中よき侍の有と云ふより、大身の家中よき人のすくなきは遙々上也、子細は國を三ツとも取ば、いづれに一代弓矢の手抦ありたると相心得べきなり、如件手抦の後、末になりても前代の弓矢少し殘りて、其國を破るは必ず手間を取者也、大將弱くとも必らずあなづる事勿れ、
新字:一第二に大敵とは、国五ケ国·十ケ国も持たる大将の事也、大敵にも二ツ有、一ツには弱敵、二ツに若敵、弱敵とは未練にして我持来る国計り長久と存知、他国へ心をかけざるは、よそより其まゝおかぬものなり、但し大軍の中にはなき様にても、弓矢の功者小身の家中よき侍の有と云ふより、大身の家中よき人のすくなきは遥々上也、子細は国を三ツとも取ば、いづれに一代弓矢の手抦ありたると相心得べきなり、如件手抦の後、末になりても前代の弓矢少し残りて、其国を破るは必ず手間を取者也、大将弱くとも必らずあなづる事勿れ、
書き下し
一第二に大敵とは、国五ケ国·十ケ国も持たる大将の事也、大敵にも二ツ有、一ツには弱敵、二ツに若敵、弱敵とは未練にして我持来る国計り長久と存知、他国へ心をかけざるは、よそより其まゝおかぬものなり、但し大軍の中にはなき様にても、弓矢の功者小身の家中よき侍の有と云ふより、大身の家中よき人のすくなきは遥々上也、子細は国を三ツとも取ば、いづれに一代弓矢の手抦ありたると相心得べきなり、如件手抦の後、末になりても前代の弓矢少し残りて、其国を破るは必ず手間を取者也、大将弱くとも必らずあなづる事勿れ、
現代語訳
一、第二に大敵とは、国を五か国・十か国も持った大将の事である。大敵にも二つある。一つには弱敵、二つには若敵。弱敵とは、未練にして我が持ち来る国ばかりが長久と存じ、他国へ心を掛けないもので、よそから、そのままには置かないものである。ただし大軍の中にはない様でも、弓矢の功者は、小身の家中によき侍がいるというより、大身の家中によき人が少ないのは、はるかに上である。子細は、国を三つとも取ったならば、いずれに一代の弓矢の手柄があったと相心得るべきである。この件のごとき手柄の後、末になっても前代の弓矢が少し残っていて、その国を破るのは必ず手間を取る者である。大将が弱くとも、必ず侮る事なかれ。
解説
この章句が説くこと
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『甲陽軍鑑』品第四十三一第三に小敵の强きは能々弓矢强ければこそ、少身にて大軍と戦かはんと存るなれば是れもつてあなづるに及ばず、一第四に弱敵の小身なるが不随に何ぞあて処ありて如件と分別して、是をもつてあなづる事なかれ、一第五若敵のほまれなきは卒爾のはたらきを仕懸られ、是れに勝たるといふても、味方のよき者を失なひて、いかゞと遠慮尤も成ときんば必らず謾る事なかれ、小敵·若敵·弱敵に負て敵方に名をとらする故、一入工夫·思案の分別ある処也、
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『甲陽軍鑑』品第四十三扨又若敵とは年はいくつにもなり候へ、よはくもつよくも落つかず、一度もほまれなき大将は其わざ若き故、是若敵と云ふ、勿論年若く、てがらなきは若敵也、年寄て一度も誉れなき大将は世間のとなへ口惜存ぜられ、何様のはたらきこれ有べきもしらず、必らずあなづる事なかれ、其国より来る者によく尋ねて後ち国へ取かけ戦かふべきならし尤之事、
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『甲陽軍鑑』品第四十三横田十郎兵衛·日向藤九郎両人は鉄砲を用にたて候なり口伝○五敵一强敵一大敵一小敵一弱敵一若敵一第一に强敵とは無類に健やかにて人の目利よく上手にありて、我れにおとらぬ家老の、然かも大将御ため不浅存奉り、侍大将あまたもち、工夫·思案の分別すぐれて、せりあひ·合戦·城ぜめに度々勝利を得たる名大将を强敵と其名をとなふる、此强敵にも大身·小身の両人あり小身の一郡計持たるをば名人と申す、名大将とはいはず、一国からして上の大身にほまれありて、かけみちなきを名大将と申也、
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『甲陽軍鑑』品第四十三件の大将にも、破敵·随敵の二あり、破敵とはやぶる敵、随敵とはしたがふ敵、それをしる事其国より来る、諸牢人に彼大将の万づ行政一切の仕形の中に、侍のせんさく·ひはんの様子をよく尋て、能くきいてたゝかふべき、もくさんのならし尤もの事、
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『甲陽軍鑑』起巻ねてもさめても、或は食事の時も主へ忠節忠功を存すべき事一敵方にても、一国を持給ふ侍は、なに大将か大将と申さず、たゝ大将とばかり申物也、此大将をも、口きたなくいふ事、弱将の下にて、未練の人々の作法也、惣別一国の主をば、敵みかたともに、口にても、書付もうやまふて申事也、子細は日本国をあつめても、百人にたらず、六十六人の武士なり、さる程に、一国をもつ大将の中に、古来からの侍をば、家をたつとび、うやまふべし、しいでの国持侍をば、其人の智恵冥加を感じて思へば、是又口きたなふ申は非也、敵をそしるは、必弓矢ちとよはき家にての作法也、
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『甲陽軍鑑』品第四十爰におひて高坂弾正いはく、人をほむるも、そしるも我位ほどさたする時は被官といへども、よき者へは悪大将心ざし及ばさる故、めもさながらとゞかぬなり、惣別よき大将は三万·四万の人数をつれても五千の敵に気遣給ふ事、主の小人数にて大軍を引請、どこぞのつがひに切てとらんと思ふたる大身のむかしより、いかほど大きく成給ひて後までも気遣なさるゝ事、我意地にあてがひてかくの分なり、