甲陽軍鑑 / 品第四十一
第三に兵共手抦の儀に付て、贔負々々のさたを大將のせんさくなしに聞入、上の手抦を下にし、下を上にし、或は中を上にしてみだりに所領を下され、同し言葉の情も右の如く漫りなれば、よき者曲なく存知、忠功もうすくなる、此作法のうへは未練の人々は迯ても苦しからずとて、ぶせんさくなるを悅ぶ侍仕合よき故、萬事ぶあんないにて適々人をほむれ共、辻切·辻相撲にて血もつかざる喧嘩したる者共を、むだとほめて覺の者の樣に申たて、馳走してほむる事、武士のはたらき善惡無案內故也、左樣の者は本の事にてなき故、
新字:第三に兵共手抦の儀に付て、贔負々々のさたを大将のせんさくなしに聞入、上の手抦を下にし、下を上にし、或は中を上にしてみだりに所領を下され、同し言葉の情も右の如く漫りなれば、よき者曲なく存知、忠功もうすくなる、此作法のうへは未練の人々は迯ても苦しからずとて、ぶせんさくなるを悅ぶ侍仕合よき故、万事ぶあんないにて適々人をほむれ共、辻切·辻相撲にて血もつかざる喧嘩したる者共を、むだとほめて覚の者の様に申たて、馳走してほむる事、武士のはたらき善悪無案内故也、左様の者は本の事にてなき故、
書き下し
第三に兵共手抦の儀に付て、贔負々々のさたを大将のせんさくなしに聞入、上の手抦を下にし、下を上にし、或は中を上にしてみだりに所領を下され、同し言葉の情も右の如く漫りなれば、よき者曲なく存知、忠功もうすくなる、此作法のうへは未練の人々は迯ても苦しからずとて、ぶせんさくなるを悅ぶ侍仕合よき故、万事ぶあんないにて適々人をほむれ共、辻切·辻相撲にて血もつかざる喧嘩したる者共を、むだとほめて覚の者の様に申たて、馳走してほむる事、武士のはたらき善悪無案内故也、左様の者は本の事にてなき故、
現代語訳
第三に、兵どもの手柄の儀につき、贔屓贔屓の沙汰を大将が詮索なしに聞き入れ、上の手柄を下にし、下を上にし、あるいは中を上にして、みだりに所領を下され、同じく言葉の情けも右のごとくみだりであれば、よき者は曲なく存じ、忠功も薄くなる。この作法のうえは、未練の人々は逃げても苦しからずといって、無詮索なるを喜ぶ侍は仕合わせがよいゆえに、万事不案内にて、たまたま人を褒めても、辻斬り・辻相撲で血も付かない喧嘩をした者どもを、無駄に褒めて覚えの者のように申し立て、馳走して褒める事。武士の働きの善悪に無案内ゆえである。そのような者は本の事ではないゆえに、合戦・競り合いに人並みより内にする奉公人が多ければ、法度を聞くべき様もない事。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『韓非子』難一第三十六舜の敗を救うは、則ち是れ堯に失有ればなり。舜を賢とせば、則ち堯の明察を去る。堯を聖とせば、則ち舜の徳化を去る。両つながら得可からざるなり。
-
論語・子罕篇子曰く、法語の言は、能く従うこと無からんや。之を改むるを貴しと為す。巽与の言は、能く説ばざらんや。之を繹ぬるを貴しと為す。説びて繹ねず、従いて改めずんば、吾之を如何ともする末きのみ。
-
論語・子罕篇子曰く、「敝れたる縕袍を衣て、狐貉を衣たる者と立ちて、恥じざる者は、其れ由なるか。『忮わず求めず、何を用てか臧からざらん。』」子路終身之を誦す。子曰く、「是の道や、何ぞ以て臧しとするに足らん。」
-
『墨子』非攻中子墨子言いて曰く、「古者、王公大人の、政を國家に為す者は、情に之を譽むること審らかに、賞罰の當たり、刑政の過失せざるを欲す」と。
-
論語・公冶長篇子、子賤を謂いて曰く、『君子なるかな、若(か)の人!魯に君子無くんば、斯れ焉(いずく)んぞ斯れを取らんや。』
-
論語・先進篇子曰く、論の篤きに是れ与せば、君子者か、色荘者か。