甲陽軍鑑 / 品第四十一
如此よき軍法と云ふ此元を尋るに、大將のさいはいを能とり給ふ事肝要なり、よきさいはいの其もとはよき法度なり、よき法度の其元は五ツあり一大將の人を能目利して、其奉公人得物を見知て諸役を被仰付事一侍の事は申に及ばず大小·上下ともに武士たらん者の手抦上中下をよくわけて、又無手抦をも上中下をよく分て鏡にて物のみゆる樣に大將の私しなくなさるゝ事一右の兵手抦のうへ恩をあたへ給ふ事、手抦上中下のごとく被下、同言葉の情も其手抦に隨て大將のなさるべく候事一大將慈悲をなさるべき儀肝要なり一大將のいかり給ふ事餘になければ奉公人油斷ある物なり、油斷あれば自然に分別ある人も背き、上下共に費なり、又其嗔にも奉公人科の上中下によつてあそばし、
新字:如此よき軍法と云ふ此元を尋るに、大将のさいはいを能とり給ふ事肝要なり、よきさいはいの其もとはよき法度なり、よき法度の其元は五ツあり一大将の人を能目利して、其奉公人得物を見知て諸役を被仰付事一侍の事は申に及ばず大小·上下ともに武士たらん者の手抦上中下をよくわけて、又無手抦をも上中下をよく分て鏡にて物のみゆる様に大将の私しなくなさるゝ事一右の兵手抦のうへ恩をあたへ給ふ事、手抦上中下のごとく被下、同言葉の情も其手抦に随て大将のなさるべく候事一大将慈悲をなさるべき儀肝要なり一大将のいかり給ふ事余になければ奉公人油断ある物なり、油断あれば自然に分別ある人も背き、上下共に費なり、又其嗔にも奉公人科の上中下によつてあそばし、
書き下し
如此よき軍法と云ふ此元を尋るに、大将のさいはいを能とり給ふ事肝要なり、よきさいはいの其もとはよき法度なり、よき法度の其元は五ツあり一大将の人を能目利して、其奉公人得物を見知て諸役を被仰付事一侍の事は申に及ばず大小·上下ともに武士たらん者の手抦上中下をよくわけて、又無手抦をも上中下をよく分て鏡にて物のみゆる様に大将の私しなくなさるゝ事一右の兵手抦のうへ恩をあたへ給ふ事、手抦上中下のごとく被下、同言葉の情も其手抦に随て大将のなさるべく候事一大将慈悲をなさるべき儀肝要なり一大将のいかり給ふ事余になければ奉公人油断ある物なり、油断あれば自然に分別ある人も背き、上下共に費なり、又其嗔にも奉公人科の上中下によつてあそばし、
現代語訳
このようによき軍法という、この元を尋ねるに、大将が采配をよく取られる事が肝要である。よき采配のその元は、よき法度である。よき法度のその元は五つある。一、大将が人をよく目利きして、その奉公人の得物を見知って諸役を仰せ付けられる事。一、侍の事は申すに及ばず、大小・上下ともに武士たらん者の手柄の上中下をよく分けて、また無手柄をも上中下をよく分けて、鏡で物が見えるように大将が私なくなさる事。一、右の兵の手柄のうえに恩を与え給う事。手柄の上中下のごとく下され、同じく言葉の情けもその手柄に従って大将がなさるべく候事。一、大将が慈悲をなさるべき儀、肝要なり。一、大将が怒り給う事があまりになければ、奉公人に油断があるものなり。油断があれば自然に分別ある人も背き、上下ともに費えである。またその怒りにも、奉公人の科の上中下によってあそばし、また許す事もあるべき事。これが法度の元である。
解説
この章句が説くこと
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『甲陽軍鑑』品第四十二口伝おほし○大将三ツのさいはいは、第一につね〳〵自国·他国共に武土の手がら忠節·忠功·上中下共によき批判の事、第二に人を能みしり、それ〳〵に役を申付る事、第三に忠節·忠功の武士に手抦の上中下をよくせんさくして、三段に恩をくるゝ事、是右ともに三のさいはいなり、かくの通りあしければ諸侍の行義むさぼりて、下の手抦も己己が仕様にて上になると心得、戦塲のはたらきをばひかへ、軽薄計りにかゝりて大将のほこさきよわし、さるに付此三ケ条は国持大将のさいはいならん、又手にてさいはいふるは其下の侍大将、或は足軽大将の仕所なり如件一御旗奉行には、
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『甲陽軍鑑』品第四十一合戦·せり合に人なみよりうちにする奉公人多ければ法度聞べき様もなき事一第四に大将慈悲にましまさわば有為無常も知給はず、大身贔負の者ばかり何事に付てもよくきこへ、小身なる者の奉公いたすをば取あげず、不弁者·忠節·忠功仕るべきやうなくて総軍いさむ事なく、身を大事にしてとがにおつる事は小身者ばかりなると相心得、万づをひかへ、小身のよき者の仕出べき様なし、さて又むきひきのよき人々は、下の手抦を上にする意地なる故、いたつて善悪の沙汰をしらねば、慈悲をするとても罪科の悪きはたらきのせんさくもなく、主君へ逆心の侍をもあはれみ、道理非の二字にては非の方へ近く心むさくして義理を不存其身仕合よければ、主君の御かげ共思はず只をのれが仕り様にて立身する心得、大将のため存ぜざる侍おほく口をきゝ迴る故、
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『甲陽軍鑑』品第四十一又ゆるす事もあるべき事是法度のもと也右五ヶ条の理第一に人の目きゝあしき事を申すに、国持或は二郡·三郡とも人数を引廻す大将は、ひろくめぐみ給ふにより家老の内にも其品々有、是をくだ物にたとふるに、梅·桃などゝ云ふ物は先花さきてのち実なるなり又ざくろ·瓜などゝいふ物は先みなりて後花さくものなり、扨て又蓮花と云ふ物は花も実も一度にめぐむなり、此三様がいづれもすつるにあらず、如此に国持大将の人をつかひ給ふ事、国土の草木をやしなひ置ごとし、
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『甲陽軍鑑』品第四十二又作法に二ツ·一ツに序·二ツに破·三ツに急口伝有、是となへ失ひたる時のためしるす○侍大将·足軽大将詞のさいはい二ツの事○一ツに馬上にて敵·味方の批判よければ是にて味方いさむ也、〇二ツに見切なり、
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『甲陽軍鑑』品第四十三右三対六人の人陣の時大に嫌ふ人也△陣の時大将崇敬なさるゝ人一対づゝ五対合十人一才覚有りて勘定たけく、能き智恵深く、能く損徳の考して理非の二ツには理の方へ近く分別して、蔵よく賂ふ人の事、是一対二人也一心すくやかにて、まなこきゝて分別·才覚有て武道にさかしく、よく物いふ人の事一縦ひ無才覚なり共、分別なく共、物いふ事速かになく共、口わろく共、無能なり共、ねてもさめても武道心がくる人ありて左様のものを大将のみしり給ひ、念比なさるればことくく諸傍輩武篇を心がくる也、