甲陽軍鑑 / 品第六
中間の肩にめし五月菖蒲きり見物にいでさせ給ふ、一方に人三百ばかり一方に百五十ほどなり、見物の人々是をみて人のすくなきかた必ずまけんとて、大勢の方へ立よらざる者はなかりける、さるほどに竹千世殿を肩にのせ奉りたる中間も、大勢の方へ立よらむとす、其時竹千世仰らるゝは、何とて我を皆人の行方へつるゝぞ、今たゝきあふならばかならず人のすくなき方勝べし、あれほどすくなき者共が出張てゐたるは能々多勢の方を弱く思ふた者也、又は兩方討合時多勢にてすくなき方をすけむと思ふ事もあらん、いざすくなきかたへゆきて見物せんとのたまふ、御供の者共腹立してしらぬ事をばのたまふなとて、無理に大勢の方に留けり、
新字:中間の肩にめし五月菖蒲きり見物にいでさせ給ふ、一方に人三百ばかり一方に百五十ほどなり、見物の人々是をみて人のすくなきかた必ずまけんとて、大勢の方へ立よらざる者はなかりける、さるほどに竹千世殿を肩にのせ奉りたる中間も、大勢の方へ立よらむとす、其時竹千世仰らるゝは、何とて我を皆人の行方へつるゝぞ、今たゝきあふならばかならず人のすくなき方勝べし、あれほどすくなき者共が出張てゐたるは能々多勢の方を弱く思ふた者也、又は両方討合時多勢にてすくなき方をすけむと思ふ事もあらん、いざすくなきかたへゆきて見物せんとのたまふ、御供の者共腹立してしらぬ事をばのたまふなとて、無理に大勢の方に留けり、
書き下し
中間の肩にめし五月菖蒲きり見物にいでさせ給ふ、一方に人三百ばかり一方に百五十ほどなり、見物の人々是をみて人のすくなきかた必ずまけんとて、大勢の方へ立よらざる者はなかりける、さるほどに竹千世殿を肩にのせ奉りたる中間も、大勢の方へ立よらむとす、其時竹千世仰らるゝは、何とて我を皆人の行方へつるゝぞ、今たゝきあふならばかならず人のすくなき方勝べし、あれほどすくなき者共が出張てゐたるは能々多勢の方を弱く思ふた者也、又は両方討合時多勢にてすくなき方をすけむと思ふ事もあらん、いざすくなきかたへゆきて見物せんとのたまふ、御供の者共腹立してしらぬ事をばのたまふなとて、無理に大勢の方に留けり、
現代語訳
中間の肩に召され、五月の菖蒲切りを見物に出られた。一方に人が三百ばかり、一方に百五十ほどである。見物の人々はこれを見て、人の少ないほうが必ず負けようといって、大勢のほうへ立ち寄らない者はなかった。そうであるから、竹千代殿を肩に乗せ奉った中間も、大勢のほうへ立ち寄ろうとする。その時、竹千代が仰せられるには、どうして我を皆人の行く方へ連れて行くのか。今叩き合うならば、必ず人の少ないほうが勝つだろう。あれほど少ない者どもが出張っているのは、よくよく多勢のほうを弱いと思った者である。または両方が討ち合う時、多勢のほうで少ないほうを助けようと思う事もあろう。いざ、少ないほうへ行って見物しよう、と。御供の者どもは腹を立てて、知りもせぬ事を仰せられるな、といって、無理に大勢のほうに留めた。
解説

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