甲陽軍鑑 / 品第四十八
此僧あわてゝ衣のひほを結ぶ男大きにいかり惣別にくしと存るに、如此のもやう共更に聞へぬ事なりと樣々口說を申かけ、おさへて坊主を縛りひとつの宗旨の僧達、近郷よりあまたきて重ねての爲なりとて、目安書て所のしゆごへあぐれば、乍假初出家の儀は、私しさばきならずして代官衆の人をそへ甲府の四奉行へあぐる、奉行聞給ひ出家の非におとさんとすれば、何にても證據なし百姓無理と申さんには樣子あやうし、是程少分成義に鐵火或はみたけの鐘と申にもあらず、色々ひはんせらるれ共、奉行四人の分別に不叶して無據上へ披露いたさるゝ、
新字:此僧あわてゝ衣のひほを結ぶ男大きにいかり惣別にくしと存るに、如此のもやう共更に聞へぬ事なりと様々口説を申かけ、おさへて坊主を縛りひとつの宗旨の僧達、近郷よりあまたきて重ねての為なりとて、目安書て所のしゆごへあぐれば、乍仮初出家の儀は、私しさばきならずして代官衆の人をそへ甲府の四奉行へあぐる、奉行聞給ひ出家の非におとさんとすれば、何にても証拠なし百姓無理と申さんには様子あやうし、是程少分成義に鉄火或はみたけの鐘と申にもあらず、色々ひはんせらるれ共、奉行四人の分別に不叶して無拠上へ披露いたさるゝ、
書き下し
此僧あわてゝ衣のひほを結ぶ男大きにいかり惣別にくしと存るに、如此のもやう共更に聞へぬ事なりと様々口説を申かけ、おさへて坊主を縛りひとつの宗旨の僧達、近郷よりあまたきて重ねての為なりとて、目安書て所のしゆごへあぐれば、乍仮初出家の儀は、私しさばきならずして代官衆の人をそへ甲府の四奉行へあぐる、奉行聞給ひ出家の非におとさんとすれば、何にても證拠なし百姓無理と申さんには様子あやうし、是程少分成義に鉄火或はみたけの鐘と申にもあらず、色々ひはんせらるれ共、奉行四人の分別に不叶して無拠上へ披露いたさるゝ、
現代語訳
この僧が慌てて衣の紐を結ぶ。男は大きに怒り、総別憎しと存ずるに、このとおりの模様どもは更に聞こえぬ事なりと、さまざま口説を申しかけ、押さえて坊主を縛る。一つの宗旨の僧達が近郷より数多来て、重ねてのためなりとて目安を書きて所の守護へ上ぐれば、かりそめながら出家の儀は私の裁きならずして、代官衆の人を添え甲府の四奉行へ上ぐる。奉行が聞き給い、出家の非に落とさんとすれば何にても証拠なし。百姓の無理と申さんには様子が危うし。これほど少分なる義に鉄火あるいは御嶽の鐘と申すにもあらず。色々批判せらるれども、奉行四人の分別に叶わずして、よんどころなく上へ披露いたさるる。
解説

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