甲陽軍鑑 / 品第四十八
扨又琳切申は師匠死去の後、寺退轉の建立は尤なれとも此琳切が近所に罷在、其方に跡を取おかせ、よき時分に寺をとらんと申さば何と連々師匠の約束にても寺とらんとは申にくき儀なれ共大和國へ參候へば何をも存ぜず候、其上此琳切が遠國へ參るも遊山にてはなし一宗の立派をも少は存て、出家道をたて此寺になをらんと思ふは人間まよひの塵埃なり、學問の眞似をも仕るはほんかうじやうにゐる事、存命の間はいかに出家にても各如此又前判を破る後判とある、是は尤の事なれど、我等遠國へ參り十ヶ年に及び便宜なき故死したると師匠も思ひ給へばこそ、其方へ手形を渡され候へ我等いきて有儀を知給はゞ圓藏院をいかで其方へゆづり給ふへき、それは我等死したると思ひての事なり、いくよりも申如く我等學問の儀仕候て師匠の死に目にあはぬ內の儀、一ツも役にたち申まじきと云ふ儀にて甲府へまいりめやすをあげ、
新字:扨又琳切申は師匠死去の後、寺退転の建立は尤なれとも此琳切が近所に罷在、其方に跡を取おかせ、よき時分に寺をとらんと申さば何と連々師匠の約束にても寺とらんとは申にくき儀なれ共大和国へ参候へば何をも存ぜず候、其上此琳切が遠国へ参るも遊山にてはなし一宗の立派をも少は存て、出家道をたて此寺になをらんと思ふは人間まよひの塵埃なり、学問の真似をも仕るはほんかうじやうにゐる事、存命の間はいかに出家にても各如此又前判を破る後判とある、是は尤の事なれど、我等遠国へ参り十ヶ年に及び便宜なき故死したると師匠も思ひ給へばこそ、其方へ手形を渡され候へ我等いきて有儀を知給はゞ円蔵院をいかで其方へゆづり給ふへき、それは我等死したると思ひての事なり、いくよりも申如く我等学問の儀仕候て師匠の死に目にあはぬ内の儀、一ツも役にたち申まじきと云ふ儀にて甲府へまいりめやすをあげ、
書き下し
扨又琳切申は師匠死去の後、寺退転の建立は尤なれとも此琳切が近所に罷在、其方に跡を取おかせ、よき時分に寺をとらんと申さば何と連々師匠の約束にても寺とらんとは申にくき儀なれ共大和国へ参候へば何をも存ぜず候、其上此琳切が遠国へ参るも遊山にてはなし一宗の立派をも少は存て、出家道をたて此寺になをらんと思ふは人間まよひの塵埃なり、学問の真似をも仕るはほんかうじやうにゐる事、存命の間はいかに出家にても各如此又前判を破る後判とある、是は尤の事なれど、我等遠国へ参り十ヶ年に及び便宜なき故死したると師匠も思ひ給へばこそ、其方へ手形を渡され候へ我等いきて有儀を知給はゞ円蔵院をいかで其方へゆづり給ふへき、それは我等死したると思ひての事なり、いくよりも申如く我等学問の儀仕候て師匠の死に目にあはぬ内の儀、一ツも役にたち申まじきと云ふ儀にて甲府へまいりめやすをあげ、
現代語訳
さてまた琳切が申すは、師匠死去の後、寺の退転の建立はもっともなれども、この琳切が近所に罷りあり、その方に跡を取り置かせ、よき時分に寺を取らんと申さば、何と連々の師匠の約束にても寺を取らんとは申しにくき儀なれども、大和国へ参り候えば何をも存ぜず候。そのうえ、この琳切が遠国へ参るも遊山にてはなし。一宗の立派をも少しは存じて、出家の道を立て、この寺に直らんと思うは人間迷いの塵埃なり。学問の真似をも仕るは本高上に居る事、存命のあいだは、いかに出家にても各このとおり。また前判を破る後判とある、これはもっともの事なれど、我らが遠国へ参り十か年に及び、便宜なきゆえに死したると師匠も思い給えばこそ、その方へ手形を渡され候え。我らが生きてある儀を知り給わば、円蔵院をいかでその方へ譲り給うべき。それは我らが死したると思うての事なり。行くよりも申すごとく、我らが学問の儀を仕り候て師匠の死に目に会わぬ内の儀は、一つも役に立ち申すまじきと言う儀にて、甲府へ参り目安を上ぐる。
解説
この章句が説くこと
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