甲陽軍鑑 / 品第四十八
則ち御藏の前にて侍衆訴へ、町人の申分非人の者の云ふ事、公事のさたありて武藤三河守·櫻井安藝守·今福淨閑此三奉行の中にても今福淨閑は物每のよき功者なれば此公事をさたいたさるゝ、先侍衆道理至極に候、又町人も代物かぎりに酒商賣の事なり、殊更御分國富貴の故、彼非人までもよろしきなりを仕り候は、是もつて萬事逆になく、順義の御仕置ゆへこと〳〵く安堵して、誠につたなき非人まで侍のごとく騎鞍馬にのる、さあれば町人のみそこなふたるも道理なり、扨非人が代物かぎりならば、謙に及ばぬと、
新字:則ち御蔵の前にて侍衆訴へ、町人の申分非人の者の云ふ事、公事のさたありて武藤三河守·桜井安芸守·今福浄閑此三奉行の中にても今福浄閑は物毎のよき功者なれば此公事をさたいたさるゝ、先侍衆道理至極に候、又町人も代物かぎりに酒商売の事なり、殊更御分国富貴の故、彼非人までもよろしきなりを仕り候は、是もつて万事逆になく、順義の御仕置ゆへこと〳〵く安堵して、誠につたなき非人まで侍のごとく騎鞍馬にのる、さあれば町人のみそこなふたるも道理なり、扨非人が代物かぎりならば、謙に及ばぬと、
書き下し
則ち御蔵の前にて侍衆訴へ、町人の申分非人の者の云ふ事、公事のさたありて武藤三河守·桜井安芸守·今福浄閑此三奉行の中にても今福浄閑は物毎のよき功者なれば此公事をさたいたさるゝ、先侍衆道理至極に候、又町人も代物かぎりに酒商売の事なり、殊更御分国富貴の故、彼非人までもよろしきなりを仕り候は、是もつて万事逆になく、順義の御仕置ゆへこと〳〵く安堵して、誠につたなき非人まで侍のごとく騎鞍馬にのる、さあれば町人のみそこなふたるも道理なり、扨非人が代物かぎりならば、謙に及ばぬと、
現代語訳
すなわち御蔵の前にて侍衆の訴え、町人の申し分、非人の者の言う事、公事の沙汰があって、武藤三河守・桜井安芸守・今福浄閑、この三奉行の中にても今福浄閑は物ごとのよき功者であれば、この公事を沙汰いたさるる。まず侍衆の道理は至極に候。また町人も代物限りに酒商売の事である。ことさら御分国が富貴のゆえに、かの非人までもよろしき形を仕り候うのは、これもって万事が逆になく、順義の御仕置きゆえにことごとく安堵して、まことに拙き非人まで侍のごとく騎鞍馬に乗る。さあれば町人が見そこなうたるも道理なり。さて非人が代物限りならば憚るに及ばぬと、至らぬ心より存ずる事は大非義の仕形なり。
解説
この章句が説くこと
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『甲陽軍鑑』品第四十八いたらぬ心より存ずる事大非義の仕形なり、乍去今迄改めて非人のもやう定まりなければ、上いかに乞食なり共、罪科にはなりがたし、子細はをしへずして、殺すを逆と云ふ時は功力左太夫殿·小宮山八左衛門殿此三人の奉行の真似に免じてこらへさせ給へ、扨又町人には、いかに商売代物かぎりなりとも歴々の侍たちに非人を見そこなふたる科おとしに両人の侍衆に巻物一ツづゝ持て玉屋権右衛門礼に参るべし、
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『甲陽軍鑑』品第四十八御蔵のまへにて弟子あに善万坊、弟子おとうと琳切両僧の公事有そのとき甲府の四奉行は、今井伊勢守·武藤三河守·桜井安芸守·今福浄閑さばきなり、四奉行一二三四の図とりにて今福浄閑一くじなるゆへ浄閑申さるゝは、おとうと弟子琳切が理なれば、此寺は弟でしの寺に仕候へ無智の僧いやと申さば寺を引出し縦へば還俗なりともくるしからず候とさばく、二のゝは桜井安芸守なれば桜井申さるゝ、いかに無智の僧成とも出家をさやうにあらくあてがふては慈悲結縁かくるなりとさばく、
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『甲陽軍鑑』品第四十七上下取さたには曲淵を御赦免候間、中々かやうには有まじきと存候外、如件事下々にてつもる事少も成がたき大将にて御座候、又各批判は惣別善があれば其次は悪事、悪事あれば其次善事なりと心得べしなどゝ皆申され候へども内藤修理申は、善の次には悪はいかほどもあれども、悪の次に善がまれなりと思へば、人は恥に遠しといふたは一段尤なり、かやうのことを長坂長閑老·跡部大炊介殿分別なさるべく候、
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『甲陽軍鑑』品第四十七扨て弥次郎·飯富三郎兵衛·原隼人両人を頼み、此事を内々にて御耳へいれて給はれと申す、両人曲淵を上様秘蔵なさるゝ者なればなるまじきとてうちおかる、又長坂長閑·跡部大炊介を頼みければ、両人申すは尤も申しあぐべし、今程人の形義·作法肝要になさるゝ間、申上るに付ては大略彼の曲淵は御成敗なるべし、板垣弥次郎申すは、飯富三郎兵衛·原隼人は曲淵上様御秘蔵の者なると申して、両所は請をはずといへば、
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『甲陽軍鑑』品第四十八扨又此公事の意趣は山県三郎兵衛同心小菅五郎兵衛には山県三郎兵衛従弟といひ、かた〳〵もつての儀なれば、駿河はじめて出張の時六年先にざいをゆるし給ふ、それは辰の年なり、さありて此度広瀨·みしな両人にも小菅なみに、ざいをゆるし下さるゝは六年後酉年なり、辻弥兵衛是れを聞て目安をかき広瀨·みしな両人をあひてにて武辺公事を仕る、奉行は真田喜兵衛·曽根内匠·三枝勘解由左衛門·今井新左衛門四人なり、
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『甲陽軍鑑』品第四十七四奉行腹立ち給ふ様に候へ共、三人は遠慮して其挨拶もなし、其中に小身にて候へ共桜井殿は、ちかき御親類の事なれば、いひかね之給ふ色もなく腹をたて御申し候は、曲淵殿は近来勿体なき事を承り候物かな、上義をかろしめ申すにこそ、さやうのさたもあるべきに、是程御法度つよき文·武二道のほまれ、誠に近国·他国までゆかしくまします御大将のしたにて、さやうのうしろぐろき事を仕るべく候や、重ねて公事をなされ候はゞ理屈を持ち参り候へ、無理なる事に候はゞ金銀·米銭を、たとへば車につみ持ち来り候とも、其方まけたるべしと御申し候へば、