甲陽軍鑑 / 品第四十七
縱へば猫と申す獸は取立てのぬしをもしらず奇麗なる爐中にも糞をなし、或は飼鳥をねらひ、惡儀のけだものなれども、ねずみをとるには一段といさぎよし、又鼠といふ物は大事の物の本をもきしり破り、障子の繪も遠慮なくくひさばく時は、何樣のことにても退治したけれ共、俄かに退治する事もならず彼の猫をかけて悉く取りつくす時は、あとのあしき事をば忘却し、たゞ猫は重寳とばかり思ふぞ、
新字:縦へば猫と申す獣は取立てのぬしをもしらず奇麗なる炉中にも糞をなし、或は飼鳥をねらひ、悪儀のけだものなれども、ねずみをとるには一段といさぎよし、又鼠といふ物は大事の物の本をもきしり破り、障子の絵も遠慮なくくひさばく時は、何様のことにても退治したけれ共、俄かに退治する事もならず彼の猫をかけて悉く取りつくす時は、あとのあしき事をば忘却し、たゞ猫は重寳とばかり思ふぞ、
書き下し
縦へば猫と申す獣は取立てのぬしをもしらず奇麗なる炉中にも糞をなし、或は飼鳥をねらひ、悪儀のけだものなれども、ねずみをとるには一段といさぎよし、又鼠といふ物は大事の物の本をもきしり破り、障子の絵も遠慮なくくひさばく時は、何様のことにても退治したけれ共、俄かに退治する事もならず彼の猫をかけて悉く取りつくす時は、あとのあしき事をば忘却し、たゞ猫は重寳とばかり思ふぞ、
現代語訳
たとえば猫と申す獣は、取り立ての主をも知らず、奇麗なる炉中にも糞をなし、あるいは飼鳥を狙い、悪儀のけだものであるけれども、鼠を取るには一段と潔よし。また鼠という物は、大事の物の本をもきしり破り、障子の絵も遠慮なく食い捌く時は、どのような事にても退治したけれども、俄かに退治する事もならず。かの猫をかけてことごとく取り尽くす時は、後の悪しき事をば忘却し、ただ猫は重宝とばかり思うぞ。
解説
猫は恩を知らず、炉に糞をし、飼鳥まで狙う。それでも鼠を取る時だけは見事である。鼠に手を焼いている間は、猫の悪事は忘れて重宝だとしか思わない。扱いにくい者をなぜ置くのかが、この一つのたとえで言い切られている。扱いにくい者をなぜ置くのかが、この一つのたとえで言い切られている。鼠に手を焼いているあいだは、猫の悪事は誰の目にも入らないということである。
この章句が説くこと
猫鼠譬え用いる欠点効用
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