甲陽軍鑑 / 品第四十七
男子が男子をすけだちするとて死ぬまじきと存ずる者誰かあるべき、十の物百と思はれよ、四人の內死したらば腹をきらんなどゝ云はるゝは、結句旁四人の用にも以來たちてくれまじきとの心か、それは日來申し合たる筋目僞なり、それほど只今ゆきあたり歸れと申す事ならば、何として日來近付て申し合たるぞ、縱ひ此四人皆死したりとも、かたきさへ討らすましたらば腹をきりて詮なき事、其方兄弟死し給ひ候共、思ふ敵さへしほしたるに付ては、此四人の者共も旁の追腹をきりても詮なし、若し敵を討ち損じて兩人計り死し給はゞ、それは我等ども身にかけ仕はすべしと申して中々歸るべきと申さず、
新字:男子が男子をすけだちするとて死ぬまじきと存ずる者誰かあるべき、十の物百と思はれよ、四人の内死したらば腹をきらんなどゝ云はるゝは、結句旁四人の用にも以来たちてくれまじきとの心か、それは日来申し合たる筋目偽なり、それほど只今ゆきあたり帰れと申す事ならば、何として日来近付て申し合たるぞ、縦ひ此四人皆死したりとも、かたきさへ討らすましたらば腹をきりて詮なき事、其方兄弟死し給ひ候共、思ふ敵さへしほしたるに付ては、此四人の者共も旁の追腹をきりても詮なし、若し敵を討ち損じて両人計り死し給はゞ、それは我等ども身にかけ仕はすべしと申して中々帰るべきと申さず、
書き下し
男子が男子をすけだちするとて死ぬまじきと存ずる者誰かあるべき、十の物百と思はれよ、四人の内死したらば腹をきらんなどゝ云はるゝは、結句旁四人の用にも以来たちてくれまじきとの心か、それは日来申し合たる筋目偽なり、それほど只今ゆきあたり帰れと申す事ならば、何として日来近付て申し合たるぞ、縦ひ此四人皆死したりとも、かたきさへ討らすましたらば腹をきりて詮なき事、其方兄弟死し給ひ候共、思ふ敵さへしほしたるに付ては、此四人の者共も旁の追腹をきりても詮なし、若し敵を討ち損じて両人計り死し給はゞ、それは我等ども身にかけ仕はすべしと申して中々帰るべきと申さず、
現代語訳
男子が男子を助太刀するとて、死ぬまじきと存ずる者が誰かあるべき。十の物を百と思われよ。四人の内が死したらば腹を切らんなどと言わるるは、結局は方々四人の用にも、以来立ちてくれまじきとの心か。それは日ごろ申し合わせたる筋目の偽りである。それほどに、ただ今行き当たって帰れと申す事ならば、何として日ごろ近づいて申し合わせたるぞ。たとえこの四人がみな死したりとも、敵さえ討ち済ましたらば、腹を切って詮なき事。その方の兄弟が死し給い候とも、思う敵さえ仕り倒したるにつきては、この四人の者どもも方々の追腹を切っても詮なし。もし敵を討ち損じて両人ばかり死し給わば、それは我らどもが身にかけ仕り果たすべしと申して、なかなか帰るべきとは申さず。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『甲陽軍鑑』品第四十七万にひとつ仕すましても各々四人の内に一人も死し給はゞ、そこにては、いやといふても追腹をきらぬならば、中々いきたる印し有まじ、必ず各々帰り給へ帰りましまさずば、此敵討を思ひとどまり候べしといひければ、
-
『甲陽軍鑑』品第四十七四人の者共懐より連判の起請を取りいだし、其上方兄弟がさやうに申すべきと思ひ、如此誓紙を仕たりとて、兄弟の者に見する其比様々両方申しけれ共、誓紙のうへなれば終に四人申し勝ち、四人の申すもことわりなり、是迄来り男をたてん者、本人の帰れと云ふとて、もどりて侍が何方にておとこせんや、
-
『甲陽軍鑑』品第四十七誠に右敵討の時、長助·長八兄弟は手前十分になき故喧嘩にいたしたるかと屋形様おぼしめすならば、跡にて誰もよく申しあげては有るまじ、さありてはかばねのうへの恥辱なり、さて又是は只の事にあらず、侍道の事なれば目安をもつて信玄公の御さばきに仕られ、それにてまけなば、それは両人次第と石田·矢崎·飯室三人長沼兄弟に異見いたす故、
-
『甲陽軍鑑』品第四十七其上四人の者誓紙を仕り、立退くまじきと申たれば神慮もいかゞなり、縦ひ誓紙を仕らず共、あれまでまいるほどならば長沼兄弟が帰れと申とて、尤と同じて帰る事はおのこ子にはあるまじ、それは武士道をたて、跡から行程ならば長沼為ばかりにてもなし、且はおのれか身の為なる所に、誓紙をして見つぐほどのちかづきを、何のとがもなきに我身をほめんとおもふばかりに、四人の中より一人ぬき出、
-
『甲陽軍鑑』品第四十七抑分別して御覧ぜよ、我等が生国甲州にてならば、討すます事も有るべし、他国にての事、まして敵の居所これよりは少し隔だゝりたれ共、信濃は先あひ手の本国なれば、うちすます事が十が一ツなるべし、さあり詮なき友達の命をうしなはせ申しては、かばねの上の恥なるべし、
-
『甲陽軍鑑』品第四十七分別よくて申は、今はたして死るならば、かばねのうへにて、むかさ与一郎が申ごとく誠に志村金ノ助が中間を一人しかねて、近付のむかさを頼み仕すまして、其儀あらはれて、はづかしきとて果したるとあれば、全体大身の上にせぬ、軍に負け給ふ名を取がごとくなり、左候はゞ又親の名までくだすといふて、目安を書、飯富兵部にきかせ、それにてもしかと理篇つかざるは、