甲陽軍鑑 / 品第十三
定まりて未練なる大將は、心せばく意地むさけれと器用立をして、知行·所領·金銀·米錢を善惡のわかちもなく人につかわし、工夫なけれども分別有るふりをして、殊の外遲怠にて萬事捻挫、又能く强よき大將に物を蓄へ手の離れざるも有るべし、是れをたとへば杖つき虫の身をつどむる樣にて、身をのぶるごとくなにぞ行々大儀成る望み有りて、重ねては子孫のためか是れは何れに底意ありて、貪る樣にしたまふを、愚人共は不知して意地きたなしと取りさたするを聞き給へど、
新字:定まりて未練なる大将は、心せばく意地むさけれと器用立をして、知行·所領·金銀·米銭を善悪のわかちもなく人につかわし、工夫なけれども分別有るふりをして、殊の外遅怠にて万事捻挫、又能く強よき大将に物を蓄へ手の離れざるも有るべし、是れをたとへば杖つき虫の身をつどむる様にて、身をのぶるごとくなにぞ行々大儀成る望み有りて、重ねては子孫のためか是れは何れに底意ありて、貪る様にしたまふを、愚人共は不知して意地きたなしと取りさたするを聞き給へど、
書き下し
定まりて未練なる大将は、心せばく意地むさけれと器用立をして、知行·所領·金銀·米銭を善悪のわかちもなく人につかわし、工夫なけれども分別有るふりをして、殊の外遅怠にて万事捻挫、又能く强よき大将に物を蓄へ手の離れざるも有るべし、是れをたとへば杖つき虫の身をつどむる様にて、身をのぶるごとくなにぞ行々大儀成る望み有りて、重ねては子孫のためか是れは何れに底意ありて、貪る様にしたまふを、愚人共は不知して意地きたなしと取りさたするを聞き給へど、
現代語訳
決まって未練な大将は、心が狭く意地が汚いけれども器用立てをして、知行・所領・金銀・米銭を善悪の分かちもなく人に遣わし、工夫がないのに分別があるふりをして、ことのほか遅く、万事が捻れている。また、よく強い大将で物を蓄えて手が離れない者もあるだろう。これをたとえれば、尺取り虫が身を縮めるようにして身を伸ばすようなもので、何か行く行く大事な望みがあって、重ねては子孫のためかと、これはどこかに含むところがあって貪るようになさるのを、愚かな者どもは知らずに、意地が汚いと取り沙汰するのを聞かれる。
解説

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『甲陽軍鑑』品第十二此善悪をしらず利根過たる大将は、はなもとに分別有て何ごとも一トかは分別になさるゝを、縦は刀の鋒はかりに刃あり、もとは皆ぢがねにて、縦へきるといへども、鍔ぎはまがり押なをせば彼方此方へ成ことく、きのふの事けふかはる其談合、明日は変じ明暮あたらしう物を仕出さんとかゝり、賢人の語をきゝても貪りたる意地へあてがひて、画はかやかれ、夜は縄なへと百姓に申付け、町人·寺方迄も障子折りて出せ竹釘けづりて上げよなどゝ云ひ給へば、
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『甲陽軍鑑』品第十二惣別能き大将は武辺の儀は不及申、文有て慈悲深く、行義能して常は柔なれども、いかり給ふ時は殿中のことはさて置ぬ、一国の内にて泣子も啼さす程威光つよし、就中国持たる大将をはじめ奉り、大身·中身·小身共に侍の名高き衆は、行義能物なり、物をよ七六尽くたとへてみるに、世間にある一切のはだか虫は、草木のはをくふて食付て巣を作り、変じて後は蝶になり、子をうみて明る年又元のでとと虫になり、其中に蠶といふ虫が桑のは計くふて余の草木を一切くはす、行義よけれは、自余の虫ともと生起の仕形は一なれ共、此蠶斗り人界にて宝になり候、去る程に末代迄も名大将と名をよぶ国主に無行義なるは一人もましまさす、
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『甲陽軍鑑』品第十三三番によく平なる大将の慈悲ふかうして、しかも度々軍にかち、仏法に立入り文武二道をあそばすを心のいたらぬ大将の真似給へば、物よみ坊主の如くにて其下の奉公人公家衆の形義になり、男道無嗜にて武辺無案内なり、四番によく手がるき大将の度々の軍にかち、人のほむるを心のいたらぬ大将まね給ふ人は、異相になり敵の国などへ深入をし、敵かさめば大きに噪ぎくちあきてにげ給ふ其下の奉公人善悪もしらず、ふせんさくにて、少しの喧嘩口論にもとばつく物なり、