甲陽軍鑑 / 品第十二
內の者に知行を出すにも惡しき所をゑらび出して、士卒につかはす、其上諸侍をせばめ、知行百貫取る者をば課役を申し懸け、五十貫はへつらふて取り、五十貫の侍をば廿五貫詔らい取り給ふ故、上をまねぶ下なれば、諸侍衆ン百姓をも又末々に至り、困窮の辨まへもなく取り盡す、
新字:内の者に知行を出すにも悪しき所をゑらび出して、士卒につかはす、其上諸侍をせばめ、知行百貫取る者をば課役を申し懸け、五十貫はへつらふて取り、五十貫の侍をば廿五貫詔らい取り給ふ故、上をまねぶ下なれば、諸侍衆ン百姓をも又末々に至り、困窮の弁まへもなく取り尽す、
書き下し
内の者に知行を出すにも悪しき所をゑらび出して、士卒につかはす、其上諸侍をせばめ、知行百貫取る者をば課役を申し懸け、五十貫はへつらふて取り、五十貫の侍をば廿五貫詔らい取り給ふ故、上をまねぶ下なれば、諸侍衆ン百姓をも又末々に至り、困窮の弁まへもなく取り尽す、
現代語訳
内の者に知行を出すにも、悪い所を選び出して士卒に遣わす。そのうえ諸侍を狭め、知行百貫を取る者には課役を申しかけて五十貫はへつらって取り、五十貫の侍からは二十五貫を諂って取られるゆえに、上を真似る下であるから、諸侍衆も百姓をも、また末々に至るまで、困窮の弁えもなく取り尽くすのである。
解説
邪慾の深さが具体の数字で描かれる。百貫の者から五十貫、五十貫の者から二十五貫と、半分ずつ召し上げていく。そして上がそうするので下も同じことをし、百姓の末まで搾り取られる。上を真似る下だから、という一句が原因をすべて上に置いている。上を真似る下だから、という一句が原因をすべて上に置いている。半分ずつ召し上げる仕組みは、末端に届くころには何も残さない。
この章句が説くこと
邪慾知行課役上下百姓搾取
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『甲陽軍鑑』品第十一悪き者仕合よければ、是れは慾を起してのことなり、大小にょらず人間と成て、慾のなき者一人も有るまじ、但し邪慾の義は勿体なし、邪慾を家中の諸侍にもたするは下々のしわざにあらず、其家にて主君の行政ことの悪き故ならん、定まりてばか成る大将は、慢気有り、我めの違ひて悪き人を取立給ふことをばしらず、主の目利し給ふ人は皆能者と思し召し、我扶助の者を、悉く当時崇敬ある人のかたぎになさんと思召すこと、是れあしき義なり、仏経ニ曰、
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『甲陽軍鑑』品第四十さあるとて又小幡·真田·大熊に知行の上に知行を重ね候はゞ、譜代の衆にも加恩せずして成まじ、其如く知行を只ものくれては少身成者や人可取立所領無之、縦国かさ多共、善悪のわかりもなく人の誉に乗、虚空に知行をあたふれば、上杉則政知行割のごとくにて家中の侍大身·小身共に奉公の忠節なき者共、明暮知行をほしがり、結句後には則政に恨を言、敵をするは則政無分別にて人の誉を面白がり、忠節人にも一度敵したる者にも善悪同前にむさと知行くれたる故なれば、
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『甲陽軍鑑』品第十三定まりて未練なる大将は、心せばく意地むさけれと器用立をして、知行·所領·金銀·米銭を善悪のわかちもなく人につかわし、工夫なけれども分別有るふりをして、殊の外遅怠にて万事捻挫、又能く强よき大将に物を蓄へ手の離れざるも有るべし、是れをたとへば杖つき虫の身をつどむる様にて、身をのぶるごとくなにぞ行々大儀成る望み有りて、重ねては子孫のためか是れは何れに臆意ありて、貪る様にしたまふを、愚人共は不知して意地きたなしと取りさたするを聞き給へど、
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『甲陽軍鑑』品第四十一国の仕置武士までの事にいろはせ給へば、其家老必らず賄賂にふけり、礼物をもつて諸役者に諸奉公人共なるにより、彼役者どもの存分我立身したることわざをば、死するまでもよきことと存ずるに付、いはんや存生さかんの時、我に音信つかふ人をば善悪の弁もなく、これはよき人と存じ、御大将へ出頭よく取成て、礼物つかふ人ばかり立身して本のよき者はおし付られ、心いさむ事なく、さながら其大将へ無沙汰申し、ゆく〳〵用にも立まじきと思ふなり、
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『甲陽軍鑑』品第四十一或時信玄公仰らるゝ、古人のいふ馬多しといへ共、能馬を見知る者なうして、よき馬共さたなく、うづもれていたづらに日を送ると申も、大略は国持大将に人をよくみしれと申儀にてもあらん、然ば小身成侍の知行百貫の内外取者なり共、百姓の所をさらず、其知行に物も残らぬごとく、しかも我損物もなく仕る者は一郡をも能推はからん、其者は一国をも仕置宜しくいたすべし、縦は一万貫取侍の事不弁に取まはすは十万貫取ても大方其者の一代物に事かくこと多からん、
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『甲陽軍鑑』品第四十一第二に諸奉公人の忠節·忠功の手抦、大忠をもおしかすめ、大功をすこしくせんさくありて、善悪のさた大将のみだりなれば、家中の奉公人衆、善も知らす悪をも存ぜす贔負々々に物をいひ、忠節なき者共或は功もなきよわき人々、善悪同事のせんさくをよろこび、忠節·忠功の奉公人をそねみ、よくはいはずして結句そしる作法なれば、如件の心ばせにては、よき法度を悪きと存ずるに付、聞べきやう更になくして法度をそむけ共、右の賄賂にて事相頼むにより法度を破る奉公人共おほき事、