甲陽軍鑑 / 品第四十
さあるとて又小幡·眞田·大熊に知行の上に知行を重ね候はゞ、譜代の衆にも加恩せずして成まじ、其如く知行を只ものくれては少身成者や人可取立所領無之、縱國かさ多共、善惡のわかりもなく人の譽に乘、虚空に知行をあたふれば、上杉則政知行割のごとくにて家中の侍大身·小身共に奉公の忠節なき者共、明暮知行をほしがり、結句後には則政に恨を言、敵をするは則政無分別にて人の譽を面白がり、忠節人にも一度敵したる者にも善惡同前にむさと知行くれたる故なれば、
新字:さあるとて又小幡·真田·大熊に知行の上に知行を重ね候はゞ、譜代の衆にも加恩せずして成まじ、其如く知行を只ものくれては少身成者や人可取立所領無之、縦国かさ多共、善悪のわかりもなく人の誉に乗、虚空に知行をあたふれば、上杉則政知行割のごとくにて家中の侍大身·小身共に奉公の忠節なき者共、明暮知行をほしがり、結句後には則政に恨を言、敵をするは則政無分別にて人の誉を面白がり、忠節人にも一度敵したる者にも善悪同前にむさと知行くれたる故なれば、
書き下し
さあるとて又小幡·真田·大熊に知行の上に知行を重ね候はゞ、譜代の衆にも加恩せずして成まじ、其如く知行を只ものくれては少身成者や人可取立所領無之、縦国かさ多共、善悪のわかりもなく人の誉に乗、虚空に知行をあたふれば、上杉則政知行割のごとくにて家中の侍大身·小身共に奉公の忠節なき者共、明暮知行をほしがり、結句後には則政に恨を言、敵をするは則政無分別にて人の誉を面白がり、忠節人にも一度敵したる者にも善悪同前にむさと知行くれたる故なれば、
現代語訳
そうであるとて、また小幡・真田・大熊に知行の上に知行を重ねるならば、譜代の衆にも加恩せずには済むまい。そのように知行をただ物としてくれていては、小身である者や人を取り立てる所領がなくなる。たとえ国が数多くあっても、善悪の分かりもなく人の褒めるのに乗って、空に知行を与えれば、上杉則政の知行割りのようになって、家中の侍は大身・小身ともに奉公の忠節のない者どもが明け暮れ知行をほしがり、結局は後には則政に恨みを言い、敵をするのは、則政が無分別で人の褒めるのを面白がり、忠節の人にも一度敵した者にも善悪同前にむやみに知行をくれたゆえである。
解説
この章句が説くこと
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『正法眼蔵随聞記』巻四示して云く、善悪と云ふこと定め難し、世間の人は綾羅錦繡をきたるをよしと云ふ、麁布糞掃衣をわるしと云ふ、仏法には此れをよしとし、清しとし、金銀錦綾をわるしとし、けがれたりとす、かくの如く、一切のことにわたりて皆然り、予が如きも、聊か韻声をとゝのへ、文字をかきすぐるゝを、俗人等は尋常ならぬことに云もあり、亦有人は出家学道の身としてかくの如きのこと知れるとそしる人もあり、いづれをか定めて善として取り、悪としてすつへきぞ、
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『正法眼蔵随聞記』巻四文に云く、ほめて白品の中にあるを善と云ふ、そしりて黒品の中におくを悪と云ふと、亦云く、苦を受くべきを悪と云ふ、楽をまねくべきを善と云ふと、かくの如く子細に分別して、真実の善を見て行し、真実の悪を見てすつべきなり、僧は清浄の中より来れるものなれば、人の欲を起すまじきものを以てよしとし、きよきとするなり、示して云く、
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『正法眼蔵随聞記』巻二夜話に云く、学道の人は人情を棄べきなり、人情をすつると云は、仏法に随がひ行くなり、世人多く小乗根性にて、善悪をわきまへ、是非を分ちて、是をとり非をすつるは、みな是れ小乗根性なり、只先つ世情をすてゝ仏道に入るべし、仏道に入るには、我こゝろに善悪を分ちて、よしと思ひ、悪しゝと思ふことをすてゝ、我が身よからん我が意なにとあらんと思ふ心をわすれて、善くもあれ、悪くもあれ、仏祖の言語行履に随がひゆくなり、
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『正法眼蔵随聞記』巻二吾が心に善しと思ひ、亦世人のよしと思ふこと、必らずしも善からず、然あれば人めもわすれ、吾が意をもすてゝ、仏教に随がひゆくなり、身もくるしく、心も愁ふるとも、我が身心をば一向にすてたるものなればと思ふて、苦るしくうれへつべきことなりとも、仏祖先徳の行履ならばなすべきなり、此の事はよきこと仏道にかなひたらめと思ふて、なしたく行じたくとも、もし仏祖の行履に無からん事はなすべからす、
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葉隠・聞書第二悪事の引合いは貪瞋痴(とんじんち)、吉事の引合いは智仁勇(ちじんゆう)に洩れず、よく撰(え)り分けたるものなり。世上の悪事出来たる時、引合いて見るに、貪瞋痴と、吉事を引合いて見るに、智仁勇に洩れずとなり。
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『正法眼蔵随聞記』巻五一日雑談の次でに示じて云く、人の心本より善悪なし、善悪は縁に随て起る、喩へば人発心して山林に入る時は、林下はよし人間は悪しとおほゆ、亦退屈の心にて山林を出る時は、山林は悪しとおぼゆ、是れ即ち決定して心に定相なし、縁に随て兎も角もなるなり、かるが故に善縁にあへば心よくなり、悪縁に近づけば心悪くなるなり、我が心本より悪しと思ふことなかれ、只善縁に随ふへきなり、