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甲陽軍鑑 / 品第三十九

次に信長とは切所をかまへ對陣をながくはり候はゝ、あなたは大軍、遠き陣ならば五畿内近江·伊勢、人數草臥、無理成働き仕る時分一しほのけ候はこ立なをす事有まじく候、家康は信玄死したると聞候はゝ駿河迄もはたらき申べく候間、駿河の國中へ入たて討取申べく候、小田原をば無理にかこつておしつぶし候とも手間は取まじく候、氏政定て信玄死したると聞候はこ人質をも、すてふりを可仕候間、

新字:次に信長とは切所をかまへ対陣をながくはり候はゝ、あなたは大軍、遠き陣ならば五畿内近江·伊勢、人数草臥、無理成働き仕る時分一しほのけ候はこ立なをす事有まじく候、家康は信玄死したると聞候はゝ駿河迄もはたらき申べく候間、駿河の国中へ入たて討取申べく候、小田原をば無理にかこつておしつぶし候とも手間は取まじく候、氏政定て信玄死したると聞候はこ人質をも、すてふりを可仕候間、

書き下し

次に信長とは切所をかまへ対陣をながくはり候はゝ、あなたは大軍、遠き陣ならば五畿内近江·伊勢、人数草臥、無理成働き仕る時分一しほのけ候はこ立なをす事有まじく候、家康は信玄死したると聞候はゝ駿河迄もはたらき申べく候間、駿河の国中へ入たて討取申べく候、小田原をば無理にかこつておしつぶし候とも手間は取まじく候、氏政定て信玄死したると聞候はこ人質をも、すてふりを可仕候間、

現代語訳

次に信長とは、切所を構えて対陣を長く張れば、あちらは大軍であり、遠い陣なら五畿内・近江・伊勢から来て人数が草臥れ、無理な働きをする時分に一押し退けてやれば、立て直すことはあるまい。家康は信玄が死んだと聞けば駿河まで働きかけて来るだろうから、駿河の国中へ入れて討ち取るがよい。小田原を無理に囲んで押しつぶしても手間は取るまい。氏政はきっと信玄が死んだと聞けば、人質をも捨てるふりをするだろうから、その心得でいよ。

解説

三人の敵それぞれに違う手を指定している。信長には長い対陣で消耗させる、家康は自国へ引き入れて討つ、氏政は人質を捨てる素振りをすると読む。相手の性質と地の利で戦い方を変えるという当たり前が、名指しの具体で示されている。相手ごとに手を変えるには、それぞれの性質を平時から知っておく必要がある。名指しで書けること自体が、観察の蓄積を示している。

この章句が説くこと

対陣切所備え信長家康

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