甲陽軍鑑 / 品第三十九
信玄次には輝虎より外信長をふみつくる者有間敷候と被仰次に勝賴弓矢の取樣輝虎と無事を仕り候へ、謙信はたけき武士なれば、四郞わかき者にこめみする事有間敷候、其上申合せてより賴むとさへいへば首尾違ふ間敷候、信玄おとなげなく輝虎を賴と云ふ事申さず候故、終に無事に成事なし、必勝賴謙信を執して賴と申べく候、さように申、くるしからざる謙信也、
新字:信玄次には輝虎より外信長をふみつくる者有間敷候と被仰次に勝頼弓矢の取様輝虎と無事を仕り候へ、謙信はたけき武士なれば、四郎わかき者にこめみする事有間敷候、其上申合せてより頼むとさへいへば首尾違ふ間敷候、信玄おとなげなく輝虎を頼と云ふ事申さず候故、終に無事に成事なし、必勝頼謙信を執して頼と申べく候、さように申、くるしからざる謙信也、
書き下し
信玄次には輝虎より外信長をふみつくる者有間敷候と被仰次に勝頼弓矢の取様輝虎と無事を仕り候へ、謙信はたけき武士なれば、四郎わかき者にこめみする事有間敷候、其上申合せてより頼むとさへいへば首尾違ふ間敷候、信玄おとなげなく輝虎を頼と云ふ事申さず候故、終に無事に成事なし、必勝頼謙信を執して頼と申べく候、さように申、くるしからざる謙信也、
現代語訳
信玄の次には、輝虎のほかに信長を踏みつける者はいないだろう、と仰せられ、次に、勝頼の弓矢の取りようは、輝虎と和睦をせよ。謙信は猛き武士であるから、四郎のような若い者に卑怯なまねをすることはあるまい。そのうえ、申し合わせて頼むとさえ言えば、約束が違うことはあるまい。信玄は大人げなく、輝虎を頼むと言わなかったゆえに、ついに和睦することがなかった。必ず勝頼は謙信を立てて頼むと申すがよい。そう言えば、なんの害もない謙信である。
解説
生涯の敵だった謙信を、息子には頼めと言い残す。頼むと言いさえすれば違えない男だと信じており、自分が言えなかったのは大人げなさのせいだと認めている。敵の人格を正確に測っていることと、自分の意地を晩年になって欠点と呼んでいることの両方が出ている。敵の人格を正確に測っていたからこそ、頼めと言い残せた。自分の意地を、晩年になって欠点と呼んでいるところも珍しい。
この章句が説くこと
謙信和睦頼む意地敵遺言
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論語・学而篇有子曰く、「信義に近ければ、言復む可きなり。恭礼に近ければ、恥辱に遠ざかるなり。因りて其の親を失わざれば、亦宗とす可きなり。」
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呂氏春秋・貴信①凡そ人主は必ず信。信にして又信ならば、誰人か親しまざらん。故に周書に曰く、「允なるかな允なるかな。」以て信に非ざれば、則ち百事滿たざるを言うなり。故に信の功為るや大なり。信立てば則ち虚言以て賞す可し。虚言以て賞す可くんば、則ち六合の內皆己が府為り。信の及ぶ所、盡く之を制す。之を制して用いざれば、人の有なり。之を制して之を用うれば、己の有なり。己、之を有すれば、則ち天地の物畢く用を為す。人主にして此の論を見る有る者は、其の王たること久しからず。人臣にして此の論を知る有る者は、以て王者の佐為る可し。
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『正法眼蔵随聞記』巻四有人の云く、供奉が常途に超えざる過、甚れの処にかある、童子も同く真色を説く、是れこそ真の知識たらめと云て、国師の義を用ひず、故に知ぬ必しも古人の言ばを用ひず、只寔との道理を存すべきなり、疑心はあしき事なれども、亦信すまじきことをかたく執して、尋ぬべき義をも問はざるはあしきなり、