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甲陽軍鑑 / 品第三十九

又信玄分別の事は惣別五年己來より此煩ひ大事と思ひ、判をすへ置く紙八百枚にあまり可有之と被仰、御長櫃より取出させ、各へ渡し給ひて仰らるこは、諸方より使札くれ候はば、返札を此紙にかき、信玄は煩ひなれ共、未だ存生ときゝたらは、他國より當家の國々へ手をかくる者有ましく候、某の國取べきとは夢にも不存、信玄に國とられぬ用心ばかりと何れも仕候へば、三年の間我死たるを隱して國をしづめ候へ、

新字:又信玄分別の事は惣別五年己来より此煩ひ大事と思ひ、判をすへ置く紙八百枚にあまり可有之と被仰、御長櫃より取出させ、各へ渡し給ひて仰らるこは、諸方より使札くれ候はば、返札を此紙にかき、信玄は煩ひなれ共、未だ存生ときゝたらは、他国より当家の国々へ手をかくる者有ましく候、某の国取べきとは夢にも不存、信玄に国とられぬ用心ばかりと何れも仕候へば、三年の間我死たるを隠して国をしづめ候へ、

書き下し

又信玄分別の事は惣別五年己来より此煩ひ大事と思ひ、判をすへ置く紙八百枚にあまり可有之と被仰、御長櫃より取出させ、各へ渡し給ひて仰らるこは、諸方より使札くれ候はば、返札を此紙にかき、信玄は煩ひなれ共、未だ存生ときゝたらは、他国より当家の国々へ手をかくる者有ましく候、某の国取べきとは夢にも不存、信玄に国とられぬ用心ばかりと何れも仕候へば、三年の間我死たるを隠して国をしづめ候へ、

現代語訳

また信玄の分別のことは、おおよそ五年前からこの病が大事だと思い、判を据えて置いた紙が八百枚あまりあるはずだ、と仰せられ、長櫃から取り出させ、それぞれに渡して仰せられるには、諸方から使いの書状が来たならば、返書をこの紙に書け。信玄は病んではいるがまだ存命だと聞こえたなら、他国から当家の国々へ手をかける者はいないだろう。自分の国を取ろうとは夢にも思わず、信玄に国を取られない用心ばかりをどこもするだろうから、三年のあいだ我が死を隠して国を鎮めよ。

解説

五年前から自分の死後を準備していたという話。白紙に判だけ据えたものを八百枚も残しておく用意の周到さと、生きていると思われているだけで攻められないという読みが並んでいる。実際、武田家はこの遺言どおり三年間、信玄の死を隠しとおした。生きていると思わせるだけで攻められない、という読みが根にある。死をどう扱うかまで、戦の一部として設計されている。

この章句が説くこと

遺言用意分別信玄

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