古事記 / 中巻・皇位を分ける問い
又娶迦具漏比賣。生御子川原田郎女。次玉郎女。次忍坂大中比賣。次登富志郎女。次迦多遲王。五柱。又娶葛城之野伊呂賣。(此三字以音)生御子伊奢能麻和迦王。一柱。此天皇之御子等。并廿六王。(男王十一。女王十五。)此中。大雀命者治天下也。於是。天皇。問大山守命與大雀命。詔。汝等者。孰愛兄子與弟子。(天皇所以發是問者。宇遲能和紀郎子。有令治天下之心也。)爾大山守命白。愛兄子。次大雀命知天皇所問賜之御情而白。兄子者既成人。是無悒。弟子者。未成人。是愛。爾天皇詔。佐邪岐阿藝之言。(自佐至藝五字以音)如我所思。即詔別者。大山守命。爲山、海之政。大雀命。執食國之政以白賜。宇遲能和紀郎子。所知天津日繼也。故大雀命者。勿違天皇之命也。
新字:又娶迦具漏比売。生御子川原田郎女。次玉郎女。次忍坂大中比売。次登富志郎女。次迦多遅王。五柱。又娶葛城之野伊呂売。(此三字以音)生御子伊奢能麻和迦王。一柱。此天皇之御子等。并廿六王。(男王十一。女王十五。)此中。大雀命者治天下也。於是。天皇。問大山守命与大雀命。詔。汝等者。孰愛兄子与弟子。(天皇所以発是問者。宇遅能和紀郎子。有令治天下之心也。)爾大山守命白。愛兄子。次大雀命知天皇所問賜之御情而白。兄子者既成人。是無悒。弟子者。未成人。是愛。爾天皇詔。佐邪岐阿芸之言。(自佐至芸五字以音)如我所思。即詔別者。大山守命。為山、海之政。大雀命。執食国之政以白賜。宇遅能和紀郎子。所知天津日継也。故大雀命者。勿違天皇之命也。
書き下し
また迦具漏比売を娶りて生みませる御子は、川原田郎女、次に玉郎女、次に忍坂大中比売、次に登富志郎女、次に迦多遅王、五柱。また葛城之野伊呂売(この三字は音を以ゐる)を娶りて生みませる御子は、伊奢能麻和迦王、一柱。この天皇の御子たち、并せて廿六王。(男王十一、女王十五。)この中に、大雀命は天の下を治めたまひき。ここに天皇、大山守命と大雀命とに問ひて、詔りたまはく、「汝たちは、兄の子と弟の子と、孰れか愛しき」とのりたまひき。(天皇のこの問ひを発したまひし所以は、宇遅能和紀郎子に天の下を治めしめむ心有りければなり。)ここに大山守命は白さく、「兄の子を愛しとおもふ」とまをしき。次に大雀命、天皇の問ひ賜へる御情を知りて白さく、「兄の子は既に人と成りぬ。これ悒しきこと無し。弟の子は未だ人と成らず。これ愛し」とまをしき。ここに天皇詔りたまはく、「佐邪岐阿芸(さざきあぎ)の言、我が思ふ所の如し」とのりたまひ、すなはち詔り別けたまはく、「大山守命は、山・海の政を為よ。大雀命は、食国の政を執りて白し賜へ。宇遅能和紀郎子は、天津日継を知らせ」とのりたまひき。故、大雀命は、天皇の命に違ふこと勿かりき。
現代語訳
さらに迦具漏比売を娶り、川原田郎女、玉郎女、忍坂大中比売、登富志郎女、迦多遅王の五柱が生まれました。また葛城之野伊呂売を娶り、伊奢能麻和迦王の一柱が生まれました。この天皇の御子たちは合わせて二十六王(男王十一、女王十五)です。このうち、大雀命が後に天下を治めました。あるとき天皇は、大山守命と大雀命に問いました。「おまえたちは、兄の子と弟の子と、どちらをいとおしく思うか」。(天皇がこの問いを発したのは、宇遅能和紀郎子に天下を治めさせたい心があったからです。)大山守命は「兄の子をいとおしく思います」と答えました。大雀命は、天皇がこの問いに込めた御心を察して答えました。「兄の子はすでに大人になっていて、気がかりがありません。弟の子はまだ大人になっておらず、それがいとおしいのです」。天皇は「大雀の言葉は、私の思うとおりだ」と言い、役割を分けて命じました。「大山守命は山と海の政をつかさどれ。大雀命は食国の政を執り、私に申し上げよ。宇遅能和紀郎子は天津日継(皇位)を継げ」。こうして大雀命は、天皇の命に背くことがありませんでした。
解説
この章句が説くこと
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『古事記』中巻・応神天皇の后妃と御子次に大山守命、次に伊奢之真若命(伊奢の二字は音を以ゐる)、次に妹大原郎女、次に高目郎女、五柱。中日売命の御子は、木之荒田郎女、次に大雀命、次に根鳥命、三柱。弟日売命の御子は、阿倍郎女、次に阿具知能(この四字は音を以ゐる)三腹郎女、次に木之菟野郎女、次に三野郎女、五柱。また丸邇之比布礼能意富美の女、名は宮主矢河枝比売を娶りて生みませる御子は、宇遅能和紀郎子、次に妹八田若郎女、次に女鳥王、三柱。また、その矢河枝比売の弟、袁那弁郎女を娶りて生みませる御子は、宇遅之若郎女、一柱。また咋俣長日子王の女、息長真若中比売を娶りて生みませる御子は、若沼毛二俣王、一柱。また桜井田部連の祖、島垂根の女、糸井比売を娶りて生みませる御子は、速総別命、一柱。また日向の泉長比売を娶りて生みませる御子は、大羽江王、次に小羽江王、次に幡日之若郎女、三柱。
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『古事記』下巻・仁徳天皇の后妃と御子大雀命は、難波の高津宮に坐して、天の下を治めたまひき。この天皇、葛城之曽都毘古の女、石之日売命を娶りて大后と為し、生みませる御子は、大江之伊邪本和気命、次に墨江之中津王、次に蝮之水歯別命、次に男浅津間若子宿禰命、四柱。また上に云へる日向の諸県君牛諸の女、髪長比売を娶りて、生みませる御子は、波多毘能大郎子(自波下四字以音。下効此)、またの名は大日下王、次に波多毘能若郎女、またの名は長日比売命、またの名は若日下部命、二柱。また庶妹八田若郎女を娶り、また庶妹宇遅能若郎女を娶りたまひき。この二柱は御子無し。凡そこの大雀天皇の御子たち、并せて六王。(男王五柱、女王一柱。)故、伊邪本和気命は天の下を治め、次に蝮之水歯別命もまた天の下を治め、次に男浅津間若子宿禰命もまた天の下を治めたまひき。
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『古事記』中巻・景行天皇の八十王と国造次に香余理比売命。次に若木之入日子王。次に吉備之兄日子王。次に高木比売命。次に弟比売命。また日向の美波迦斯毘売を娶りて、生みませる御子、豊国別王。また伊那毘能大郎女の弟、伊那毘能若郎女を娶りて、(伊より下の四字は音をもちてす。)生みませる御子、真若王。次に日子人之大兄王。また倭建命の曾孫、名は須売伊呂大中日子王(須より呂に至る四字は音をもちてす)の女、訶具漏比売を娶りて、生みませる御子、大枝王。すべてこの大帯日子天皇の御子等、録せるは廿一王、記に入らざるは五十九王、并せて八十王の中に、若帯日子命と倭建命、また五百木之入日子命、この三王は、太子の名を負ひたまひき。その余の七十七王は、悉く別けて国々の国造、また和気、また稲置、県主に賜ひき。
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『古事記』中巻・吉備の平定と諸氏族次に若日子建吉備津日子命、二柱を生みたまひき。この天皇の御子等、併せて八柱。(男王五、女王三。)かれ大倭根子日子国玖琉命は天の下を治らしめしき。大吉備津日子命と若建吉備津日子命と、二柱、相副ひて、針間の氷河の前に、忌瓮を居ゑて、針間を道の口として、言向け和して吉備国を平らげき。かれこの大吉備津日子命は、吉備の上道臣の祖なり。次に若日子建吉備津日子命は、吉備の下道臣、笠臣の祖なり。次に日子寤間命は、針間の牛鹿臣の祖なり。次に日子刺肩別命は、高志の利波臣、豊国の国前臣、五百原君、角鹿の海直の祖なり。天皇、御年一百六歳。御陵は片岡の馬坂の上にあり。
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『古事記』中巻・髪長比売を太子に賜う御子を生みませるは、宇遅能和紀郎子なり。天皇、日向の国の諸県君の女、名は髪長比売、その顔容麗美しと聞こしめして、使ひたまはむとして喚し上げたまふ時、その太子大雀命、その嬢子の難波津に泊てたるを見て、その姿容の端正しきに感でて、すなはち建内宿禰大臣に誂へ告げたまはく、「この日向より喚し上げたる髪長比売は、天皇の大御所に請ひ白して、我に賜はしめよ」とのりたまひき。ここに建内宿禰大臣、大命を請ひしかば、天皇すなはち髪長比売をその御子に賜ひき。賜へる状は、天皇、豊明聞こしめす日に、髪長比売に大御酒の柏を握らしめて、その太子に賜ひき。ここに御歌に曰く、「いざ子ども 野蒜摘みに 蒜摘みに 我が行く道の 香ぐはし 花橘は 上枝は 鳥居枯らし 下枝は 人取り枯らし 三栗の 中つ枝の ほつもり 赤ら嬢子を いざささば 良らしな」。また御歌に曰く、「水溜る 依網の池の 堰杙打ちが 刺しける知らに 蓴繰り 延へけく知らに 我が心しぞ いや愚にして 今ぞ悔しき」。かく歌ひて賜ひき。
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『古事記』中巻・譲り合いと天之日矛故、その大山守命の骨は、那良山に葬りき。この大山守命は、(土形君・弊岐君・榛原君らの祖なり。)ここに大雀命と宇遅能和紀郎子と二柱、各天の下を譲りたまふ間に、海人、大贄を貢りき。ここに兄は辞びて弟に貢らしめ、弟は辞びて兄に貢らしむ。相譲りたまふ間に、既に多日を経き。かく相譲りたまふこと、一二たびに非ず。故、海人、既に往還に疲れて泣きき。故、諺に曰く、「海人なれや、己が物によりて泣く」。然るに宇遅能和紀郎子は早く崩りましき。故、大雀命、天の下を治めたまひき。また昔、新羅の国主の子有り、名は天之日矛と謂ふ。この人参り渡り来つ。参り渡り来し所以は、新羅の国に一つの沼有り、名は阿具奴摩と謂ふ。(阿より下の四字は音を以ゐる)この沼の辺に、一の賤しき女、昼寝せり。ここに日の耀き虹の如く、その陰上に指しき。また一の賤しき夫有り、その状を異しと思ひて、恒にその女人の行を伺ひき。故、この女人、その昼寝せし時より姙身みて、赤き玉を生みき。ここにその伺へる賤しき夫、その玉を乞ひ取りて、恒に裹みて腰に着けたり。この人、田を山谷の間に営れり。故、耕人らの飲食を一つの牛に負せて、山谷の中に入るに、その国主の子、天之日矛に遇ひ逢ひき。

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