古語拾遺 / 太玉命の称詞
爾乃太玉命以廣厚稱詞啓曰。吾之所捧寶鏡。明麗恰如汝命。乞開戸而御覽焉。仍太玉命。天兒屋命。共致其祈祷焉。
新字:爾乃太玉命以広厚称詞啓曰。吾之所捧宝鏡。明麗恰如汝命。乞開戸而御覧焉。仍太玉命。天児屋命。共致其祈祷焉。
書き下し
爾に乃ち太玉命、広く厚き称詞を以て啓して曰く、「吾が捧ぐる所の宝鏡は、明麗にして恰も汝が命の如し。乞う、戸を開きて御覧ぜよ」と。仍りて太玉命・天児屋命、共に其の祈祷を致す。
現代語訳
そこで太玉命が、広く厚い称え言をもって申し上げた。「私が捧げ持つこの宝鏡は、明るく麗しく、まるであなた様そのもののようだ。どうか戸を開けてご覧いただきたい」と。こうして太玉命と天児屋命は、ともにその祈りを捧げた。
解説
岩戸の前で太玉命が語りかける言葉である。記されているのは、責める言葉でも、戻ってほしいという懇願でもない。捧げている鏡があなたのように明るく麗しい、どうか開けて見てほしい、と相手の姿そのものを差し出している。閉じこもった相手に向けて、外にはあなたの輝きを映すものが用意してある、と伝えるのである。この後、天照大神は外の歌舞の声を不審に思って戸を少し開き、そこを天手力雄神が引き開ける。称え言と鏡と歌舞とが、同時に仕掛けられていたことになる。語りかけの主役が太玉命、つまり斎部氏の祖として書かれている点も、この書らしい。相手の価値を映して見せることは、理屈で説くよりも先に心を動かす手立てになる。
関連する章句
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