管子 / 輕重甲
管子曰:「湩然擊鼓,士忿怒。鎗然擊金,士帥然。筴桐鼓從之,輿死扶傷,爭進而無止。口滿用,手滿錢,非大父母之仇也,重禄重賞之所使也。故軒冕立於朝,爵禄不隨,臣不為忠。中軍行戰,委予之賞不隨,士不死其列陳。然則是大臣執於朝,而列陳之士執於賞也。故使父不得子其子,兄不得弟其弟,妻不得有其夫,唯重禄重賞為然耳。故不逺道里而能威絶域之民,不險山川而能服有恃之國發若雷霆,動若風雨,獨出獨入,莫之能圉。」
新字:管子曰:「湩然撃鼓,士忿怒。鎗然撃金,士帥然。筴桐鼓従之,輿死扶傷,争進而無止。口満用,手満銭,非大父母之仇也,重禄重賞之所使也。故軒冕立於朝,爵禄不随,臣不為忠。中軍行戦,委予之賞不随,士不死其列陳。然則是大臣執於朝,而列陳之士執於賞也。故使父不得子其子,兄不得弟其弟,妻不得有其夫,唯重禄重賞為然耳。故不遠道里而能威絶域之民,不険山川而能服有恃之国発若雷霆,動若風雨,独出独入,莫之能圉。」
書き下し
管子曰く、「湩然として鼓を擊てば、士は忿怒す。鎗然として金を擊てば、士は帥然たり。桐鼓を筴ちて之に從い、死せるを輿し傷つけるを扶け、爭い進みて止む無し。口に用を滿たし、手に錢を滿たす、大父母の仇に非ざるなり、重祿重賞の使むる所なり。故に軒冕朝に立つも、爵祿隨わざれば、臣は忠を為さず。中軍行きて戰うも、委予の賞隨わざれば、士は其の列陳に死せず。然らば則ち是れ大臣は朝に執らえられ、列陳の士は賞に執らえらるるなり。故に父をして其の子を子とするを得ざらしめ、兄をして其の弟を弟とするを得ざらしめ、妻をして其の夫を有つを得ざらしむるは、唯だ重祿重賞のみ然りと為すのみ。故に道里を逺しとせずして能く絶域の民に威あり、山川を險とせずして能く恃む有るの國を服す。發すること雷霆の若く、動くこと風雨の若く、獨り出で獨り入り、之を圉ぐ能うる莫し」と。
現代語訳
管子が言った。どんと太鼓を打てば士は怒りに燃える。かんと鉦を打てば士は率いられて動く。桐の太鼓を打ってそれに従い、死者を担ぎ傷ついた者を支え、争って前へ出て止まらない。口には支度を満たし、手には銭を満たしている。親の仇を討つからではない。厚い禄と重い賞がそうさせているのである。だから位と冠が朝廷にあっても、爵と禄が伴わなければ臣は忠を尽くさない。中軍が出て戦っても、約束された賞が伴わなければ士はその陣で死なない。とすれば大臣は朝廷につなぎとめられ、陣の士は賞につなぎとめられているのである。だから父に子を子として持たせず、兄に弟を弟として持たせず、妻に夫を持たせない。それができるのは厚い禄と重い賞だけである。だから道のりの遠さをものともせず、遠く隔たった土地の民に威を及ぼし、山や川の険しさをものともせず、頼るところのある国を従える。起こすさまは雷のようであり、動くさまは風雨のようであり、独り出て独り入り、誰も防ぐことができない。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『潜夫論』勸將夫れ重きを服して阪を上り、出でて千里を馳するは、馬の禍なり。然れども節馬の之を楽しむは、王良以て力を尽くすと為すに足ればなり。先登して陣を陥れ、死に赴きて敵に厳しきは、民の禍なり。然れども節士の之を楽しむは、明君以て死を効す可しと為せばなり。凡そ人の肯えて死亡に赴きて辞せざる所以は、利に趨くに非ざれば、則ち因りて害を避くるなり。賢鄙愚智と無く皆な然り、顧うに其の利害する所に異有るのみ。顕名を利せざれば、則ち厚賞を利す。恥辱を避けざれば、則ち禍乱を避く。此の四者に非ざれば、聖王と雖も其の臣を要する能わず、慈父も其の子を必する能わず。明主深く之を知る、故に利を崇び害を顕して以て下と市し、親疏貴賤賢鄙愚智をして皆な必ず我が令に順い、乃ち其の欲を得しむ。是を以て一旦軍鼓雷震し、旌旗並び発し、士皆な奮激して、競いて死敵と与にする者は、豈に其の情の久生を厭いて死を害うを楽しむならんや。乃ち義士は且に以て其の名を激しくし、貪夫は且に以て其の賞を求むるのみ。今吏の軍に従いて敗没し公事に死する者、十万を以て数う。上は吊唁嗟歎の栄名を聞かず、下は又た禄賞の厚実無し。節士は勧め慕う所無く、庸夫は貪る利無し。此れ其の人懐いて沮み懈り、肯えて複た死せざる所以なり。
-
『論語と算盤』処世と信条・人物の観察法いかに外部に顕れる行為が正しく見えても、その行為の動機になる精神が正しくなければ、その人は決して正しい人であるとは言えぬ。時には悪をあえてすること無しとせずである。また外部に現れた行為も正しく、これが動機となる精神もまた正しいからとて、もしその安んずるところが飽食暖衣逸居するに在りというようでは、時に誘惑に陥って意外の悪を為すようにもなるものである。ゆえに行為と動機と、満足する点との三拍子が揃って正しくなければ、その人は徹頭徹尾永遠まで正しい人であるとは言いかねるのである。
-
『武士道』原序・愛妻の問いが動機となる予が此一小冊子を述作するに至りたる直接の動機は、愛妻のしばしば予に問ふに、日本に行はるる彼此の思想習慣の理由根拠を以てするに在りき。ド・ラヴレー氏及び愛妻に対し、満足なる解答を与へんとするに当りて、予は知りぬ、先づ封建主義と武士道の何物たるかを了知するに非ずんば、即ち現時日本の道徳思想は、一の秘本にして繙き窺ふべからざるものなることを。予の病、久しく癒えず、為に疎懶、日を銷するの止むを得ざるを機とし、かつて多次、家庭の談話に於て与へたる答解を記述したるもの、即ち此書の骨子を成し、其拠る所は主として、封建思想のなお旺盛なりし時、予が少年の日に当りて示教を受けたるものに係る。彼れには小泉八雲氏及びフレエザー夫人あり、此れには又たサー・アーネスト・サトウ及びチャンバレン教授あるの中間に立ち、英語を以て日本に関する述作を成さんは、けだし躊躇失望すべきものあり。
-
『墨子』兼愛下且つ惟だ泰誓のみ然りと為すにあらず、禹誓と雖も即ち亦た猶お是のごときなり。禹曰く、「濟濟たる有衆、咸な朕が言を聴け。惟だ小子のみ敢えて亂を稱するを行うに非ず。蠢たる茲の有苗、天の罰を用う。若し予れ既に爾の羣を率い、羣諸に對して以て有苗を征せん」と。禹の有苗を征するや、富貴を重ね、福禄を干め、耳目を樂しましむるを求むるに非ざるなり。以て天下の利を興し、天下の害を除かんことを求むるなり。即ち此れ禹の兼なり。子墨子の謂う所の兼なる者と雖も、禹に於て求めたり。
-
言志四録・言志耋録 第七十九条 嫌を避けて為さざる勿れ事固より自ら為にするの謀にして、迹の人の為にするに似たる者之れ有り。戒めて之を為すこと勿れ。固より人の為に謀りて、或は自ら為にするかと疑はるる者之れ有り。嫌を避けて為さざること勿れ。
-
『呻吟語』外篇・品藻・只だ這の兩個の念頭に定まる而今士大夫聚首する時、只だ問ふ、我輩の奔奔忙忙、熬熬煎煎たるは、是れ天下國家の為にして、世を濟ひ民を安んぜんと欲するか。是れ身家妻子の為にして、位高く金多からんと欲するか。世の治亂、民の死生、國の安危は、只だ這の兩個の念頭に定まる。嗟夫。

人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見る