管子 / 立政九敗解
人君惟無好全生,則羣臣皆全其生,而生又養生。養何也?曰:滋味也,聲色也,然後為養生。然則從欲妄行,男女無别,反於禽獸。然則禮義廉恥不立,人君無以自守也。故曰:「全生之說勝,則廉恥不立。」人君惟無聽私議自䝿,則民退靜隱伏,窟穴就山,非世間上,輕爵祿而賤有司。然則令不行,禁不止。故曰:「私議自䝿之説勝,則上令不行。」
新字:人君惟無好全生,則羣臣皆全其生,而生又養生。養何也?曰:滋味也,声色也,然後為養生。然則従欲妄行,男女無別,反於禽獣。然則礼義廉恥不立,人君無以自守也。故曰:「全生之説勝,則廉恥不立。」人君惟無聴私議自䝿,則民退静隠伏,窟穴就山,非世間上,軽爵禄而賤有司。然則令不行,禁不止。故曰:「私議自䝿之説勝,則上令不行。」
書き下し
人君惟だ全生を好む無くんば、則ち羣臣皆な其の生を全うして、生又た生を養う。養とは何ぞや。曰く、滋味なり、聲色なり、然る後に生を養うと為す。然らば則ち欲に從いて妄りに行い、男女別無く、禽獸に反る。然らば則ち禮義廉恥立たず、人君以て自ら守る無きなり。故に曰く、「全生の説勝てば、則ち廉恥立たず」と。人君惟だ私議自貴を聽く無くんば、則ち民は退き靜まり隱れ伏し、山に窟穴して就き、世を非として上に間し、爵祿を輕んじて有司を賤しむ。然らば則ち令行われず、禁止まらず。故に曰く、「私議自貴の説勝てば、則ち上令行われず」と。
現代語訳
主が命を全うすることばかり好まないでいれば、群臣もみな自分の命を全うし、生きたうえでさらに生を養おうとする。養うとは何か。味わいであり、音と色である。そうして生を養うのだという。すると欲のままにみだりに動き、男女の別もなく、獣に戻る。礼も義も廉も恥も立たず、主は自分を守るすべがない。だから、命を全うする説が勝てば、廉と恥は立たない、という。主が私の議論と自分を貴ぶ説を聴かないでいれば、民は退いて静まり隠れ、山に穴を掘って住み、世を非として上を隔て、爵と禄を軽んじ役人を賤しむ。すると令は行われず、禁は守られない。だから、私の議論と自分を貴ぶ説が勝てば、上の令は行われない、という。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『管子』立政九敗解人君唯だ觀樂玩好を聽く毋くんば則ち敗る。凡そ觀樂なる者は、宫室臺池、珠玉聲樂なり。此れ皆な財を費やし力を盡くし、國を傷るの道なり。而して此を以て君に事うる者は、皆な姦人なり。而して人君之を聽けば、焉んぞ敗る毋きを得んや。然らば則ち府倉虚しく蓄積竭き、且つ姦人上に在れば、則ち賢者を壅遏して進めざるなり。然らば則ち國に患い有れば、則ち優倡侏儒起ちて國事を議す。是れ國を敺りて之を捐つるなり。故に曰く、「觀樂玩好の説勝てば、則ち姦人上位に在り」と。人君唯だ請謁任譽を聽く毋くんば、則ち羣臣皆な相為に請う。然らば則ち請謁上に得られ、黨與鄉に成る。是くの如くんば則ち貨財國に行われ、法制官に毁れ、羣臣は佼を務めて用いらるるを求む。然らば則ち爵無くして貴く、祿無くして富む。故に曰く、「請謁任譽の説勝てば、則ち繩墨正しからず」と。人君惟だ諂諛飾過の言を聽く無くんば則ち敗る。奚を以て其の然るを知るや。夫れ諂臣なる者は、常に其の主をして其の過ちを悔いず、其の失を更めざらしむる者なり、故に主は惑いて自ら知らざるなり。是くの如くんば則ち謀臣死して、諂臣尊し。故に曰く、「諂讒飾過の説勝てば、則ち巧佞者用いらる」と。
-
『管子』立政寢兵の說勝てば、則ち險阻守られず。兼愛の說勝てば、則ち士卒戰わず。全生の說勝てば、則ち廉恥立たず。私議自貴の說勝てば、則ち上令行われず。羣徒比周の說勝てば、則ち賢不肖分かれず。金玉貨財の說勝てば、則ち爵服下流す。觀樂玩好の說勝てば、則ち姦民上位に在り。請謁任舉の說勝てば、則ち繩墨正しからず。諂諛飾過の說勝てば、則ち巧佞なる者用いらる。
-
『管子』立政九敗解人君唯だ寢兵を聽く毋くんば、則ち羣臣賔客敢えて兵を言う莫し。然らば則ち内は國の治亂を知らず、外は諸侯の强弱を知らず。是くの如くんば則ち城郭毁壞するも、之を築き補う莫し。甲兵彫るも、之を修繕する莫し。是くの如くんば則ち守圉の備え毁る。遼遠の地は謀られ、邊竟の士は修わり、百姓に敵を圉ぐの心無し。故に曰く、「寢兵の説勝てば、則ち險阻守られず」と。人君惟だ兼愛の説を聽く毋くんば、則ち天下の民を視ること其の民の如く、國を視ること吾が國の如し。是くの如くんば則ち并兼攘奪の心無く、覆軍敗將の事無し。然らば則ち射御勇力の士は祿を厚くせられず、覆軍敗將の臣は爵を貴くせられず。是くの如くんば則ち射御勇力の士は出でて外に在り。我能く人を攻むる毋きは、可なり。人をして我を攻むる毋からしむる能わず。彼地を求めて之に予うるは、吾が欲する所に非ざるなり。予えずして與に戰わば、必ず勝たざるなり。彼は敎士を以てし、我は敺衆を以てす。彼は良將を以てし、我は無能を以てす。其の敗は必ず軍を覆し將を殺さん。故に曰く、「兼愛の説勝てば、則ち士卒戰わず」と。
-
『管子』立政九敗解人君惟だ金玉貨財を好む無くんば、必ず其の好む所を得んと欲す。然らば則ち必ず以て之に易うる有り。之に易うる所以の者は何ぞや。大官尊位なり。然らずんば則ち尊爵重祿なり。是くの如くんば則ち不肖者上位に在り。然らば則ち賢者は下と為らず、智者は謀を為さず、信者は約を為さず、勇者は死を為さず。是くの如くんば則ち國を敺りて之を捐つるなり。故に曰く、「金玉貨財の説勝てば、則ち爵服下流す」と。人君惟だ羣徒比周を聽く毋くんば、則ち羣臣朋黨し、美を蔽い惡を掦ぐ。然らば則ち國の情偽上に見われず。是くの如くんば則ち朋黨する者は前に處り、寡黨なる者は後に處る。夫れ朋黨する者前に處らば、賢不肖分かれず、則ち爭奪の亂起こりて、君は危殆の中に在り。故に曰く、「羣徒比周の説勝てば、則ち賢不肖分かれず」と。
-
『管子』正世今人主刑政を輕くし、百姓に寛やかに、賦斂を薄くし、使令を緩くするに、然れども民淫躁にして私を行いて制に從わず、智を飾り詐に任じ、力を負みて爭わば、則ち是れ過ち下に在り。過ち下に在るに、人君廉ならずして變ぜざれば、則ち暴人勝たれず、邪亂止まず。暴人勝たれず、邪亂止まざれば、則ち人に君たる者は勢傷つきて威日に衰う。故に人君たる者は、勝つより貴きは莫し。所謂勝つとは、法立ち令行わるるを勝つと謂う。法立ち令行わるれば、故に羣臣は法を奉じて職を守り、百官に常有り、法繁ならず匿れず、萬民敦慤にして、本に反りて力を儉にす。故に賞は必ず以て使うに足り、威は必ず以て勝つに足り、然る後に下從う。
-
『管子』樞言凡そ國の亡ぶるや、其の長ずる者を以てなり。人の自ら失うや、其の長ずる所の者を以てなり。故に善く游ぐ者は梁池に死し、善く射る者は中野に死す。命は食に屬し、治は事に屬す、善事無くして善治有る者は、古より今に及ぶまで未だ嘗て之れ有らざるなり。衆は寡に勝ち、疾きは徐きに勝ち、勇は怯に勝ち、智は愚に勝ち、善は惡に勝ち、義有るは義無きに勝ち、天道有るは天道無きに勝つ。凡そ此の七勝なる者は衆きを貴ぶ、之を用うること終身なる者衆し。人主の佚欲を好み、其の身を亡ぼし、其の國を失う者は、殆うし。其の德以て其の民を懷くるに足らざる者は、殆うし。其の刑を明らかにして其の士を賤しむ者は、殆うし。諸侯之に威を假し、久しくして極まるを知らざる者は、殆うし。身彌々老いて、其の適子を敬うを知らざる者は、殆うし。蓄藏積陳ねて朽腐し、以て人に與えざる者は、殆うし。凡そ人の名は三つ。治むる有る者、恥ずる有る者、事有る者なり。事の名は二つ。之を正し、之を察す。五つの者にして天下治まる。名正しければ則ち治まり、名倚れば則ち亂れ、名無ければ則ち死す、故に先王は名を貴ぶ。