管子 / 七主七臣
夫男不田,女不緇,工技力於無用,而欲土地之毛,倉庫滿實,不可得也。土地不毛,則人不足;人不足,則逆氣生;逆氣生,則令不行。然彊敵發而起,雖善者不能存。何以効其然也?曰:昔者桀、紂是也,誅賢忠,近讒賊之士,而貴婦人,好殺而不勇,好富而忘貧,馳獵無窮,鼓樂無厭,瑶臺玉餔不足處,馳車千駟不足乘材。女樂三千人,鐘石絲竹之音不絶,百姓罷乏,君子無死,卒莫有人,人有反心。遇周武王,遂為周氏之禽,此營於物而失其情者也,愉於淫樂而忘後患者也。故設用無度,國家踣。舉亊不時,必受其菑。
新字:夫男不田,女不緇,工技力於無用,而欲土地之毛,倉庫満実,不可得也。土地不毛,則人不足;人不足,則逆気生;逆気生,則令不行。然彊敵発而起,雖善者不能存。何以効其然也?曰:昔者桀、紂是也,誅賢忠,近讒賊之士,而貴婦人,好殺而不勇,好富而忘貧,馳猟無窮,鼓楽無厭,瑶台玉餔不足処,馳車千駟不足乗材。女楽三千人,鐘石糸竹之音不絶,百姓罷乏,君子無死,卒莫有人,人有反心。遇周武王,遂為周氏之禽,此営於物而失其情者也,愉於淫楽而忘後患者也。故設用無度,国家踣。舉亊不時,必受其菑。
書き下し
夫れ男田せず、女緇せず、工技無用に力めて、而も土地の毛あり、倉庫滿實せんことを欲するは、得可からざるなり。土地毛あらざれば、則ち人足らず。人足らざれば、則ち逆氣生ず。逆氣生ずれば、則ち令行われず。然らば彊敵發して起こらば、善き者と雖も存する能わず。何を以て其の然るを効かさんや。曰く、昔者桀・紂是れなり。賢忠を誅し、讒賊の士に近づきて、婦人を貴び、殺すを好みて勇ならず、富を好みて貧を忘れ、馳獵窮まり無く、鼓樂厭くこと無し。瑶臺玉餔も處るに足らず、馳車千駟も乘材とするに足らず。女樂三千人、鐘石絲竹の音絶えず、百姓罷乏し、君子死する無く、卒に人有る莫く、人に反心有り。周の武王に遇い、遂に周氏の禽と為る。此れ物に營まれて其の情を失う者なり、淫樂に愉しみて後患を忘るる者なり。故に用を設くるに度無ければ、國家踣る。事を舉ぐるに時ならざれば、必ず其の菑を受く。
現代語訳
男が田を耕さず、女が糸を染めず、工人や技の者が役に立たないことに力を注ぎ、それでいて土地に作物が実り倉が満ちてほしいと望んでも、得られない。土地に作物が実らなければ人は足りず、人が足りなければ逆らう気が生まれ、逆らう気が生まれれば令は行われない。そこへ強い敵が動き出せば、善い者であっても保てない。なぜそうだと分かるのか。昔の桀と紂がそれである。賢く忠なる者を誅し、讒言する賊のような士を近づけ、婦人を貴び、殺すのを好みながら勇はなく、富を好んで貧しさを忘れ、狩りに際限がなく、鼓と楽に飽きることがなかった。玉の台も玉の食器も住むに足りず、千頭立ての車も乗り物として足りない。女の楽人が三千人、鐘や石や糸や竹の音が絶えず、民は疲れ果て、君子で死んでくれる者はなく、ついに人がいなくなり、人には背く心が生まれた。周の武王に出会い、そのまま周氏の捕らわれとなった。これは物に取り込まれて実情を失った者であり、みだらな楽しみに浮かれて後の患いを忘れた者である。だから使い方に度がなければ国は倒れ、事を起こすのに時を外せば、必ずその災いを受ける。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『韓非子』亡徵第十五耕戰の士困しみ、末作の民利する者は、亡ぶ可きなり。
-
戦国策・主父欲伐中山主父、中山を伐たんと欲し、李疵をして之を観しむ。李疵曰く、「伐つ可きなり。君攻めざれば、天下に後れんことを恐る」と。主父曰く、「何を以てか」と。対えて曰く、「中山の君、蓋を傾け車を与に窮閭隘巷の士に朝する所の者、七十家なり」と。主父曰く、「是れ賢君なり、安んぞ伐つ可けんや」と。李疵曰く、「然らず。士を挙ぐれば、則ち民名を務めて本を存せず。賢を朝すれば、則ち耕す者惰りて戦う者懦す。此くの若くにして亡びざる者は、未だ之れ有らざるなり」と。
-
『塩鉄論』力耕篇文學曰く、古者は、十に一を稅とし、澤梁は時を以て入りて禁ずる無く、黎民咸な南畝を被りて其の務めを失わず。故に三年耕して一年の蓄えを余し、九年耕して三年の蓄え有り。此れ禹・湯の水旱に備えて百姓を安んじたる所以なり。草萊辟けず、田疇治まらざれば、山海の財を擅にし、百末の利を通ずと雖も、猶お贍らす能わざるなり。是を以て古者は力を尚び本を務めて種樹繁く、躬ら耕して時に趣きて衣食足り、凶年を累ぬと雖も人病まざるなり。故に衣食は民の本、稼穡は民の務めなり。二者修まれば、則ち國富みて民安んずるなり。詩に云う、『百室盈ち止み、婦子寧んじ止む』と。
-
『管子』五輔曰く、壙を實たし虛を墾き田疇し、墻屋を修むれば、則ち國家富む。飲食を節し、衣服を撙すれば、則ち財用足る。賢良を舉げ、功勞に務め、德惠を布けば、則ち賢人進む。姦人を逐い、詐偽を詰り、讒慝を去れば、則ち姦人止む。飢饉を修め、災害を救い、罷露を賑わせば、則ち國家定まる。明王の務は、本事を強くし、無用を去るに在り、然る後に民をして富ましむ可し。賢人を論じ、有能を用いて、民をして治めしむ可し。稅斂を薄くし、民に苟くもする毋く、待つに忠愛を以てして、民をして親しましむ可し。三つの者は、霸王の事なり。事に本有り、而して仁義は其の要なり。今工は以て巧なり、而して民の備用に足らざる者は、其の悅び玩好に在ればなり。農は以て勞す、而して天下飢うる者は、其の悅び珍怪に在り、方丈前に陳ぬればなり。女は以て巧なり、而して天下寒き者は、其の悅び文繡に在ればなり。是の故に博帶は棃かれ大袂は列たれ、文繡は染められ、刻鏤は削られ、雕琢は采られ、關は幾して征せず、市して稅せず。古の良工は、其の知巧を勞して以て玩好を為さず。是の故に無用の物は、法を守る者は失わず。
-
『管子』立政君の務むる所の者は五。一に曰く山澤火より救われず、草木植え成らざるは、國の貧しきなり。二に曰く溝瀆隘に遂げず、鄣水其の藏に安んぜざるは、國の貧しきなり。三に曰く桑麻野に植えられず、五穀其の地に宜しからざるは、國の貧しきなり。四に曰く六畜家に育たず、瓜瓠葷菜百果備具せざるは、國の貧しきなり。五に曰く工事刻鏤に競い、女事文章に繁きは、國の貧しきなり。故に曰く、山澤火より救われ、草木植え成るは、國の富めるなり。溝瀆隘に遂げ、鄣水其の藏に安んずるは、國の富めるなり。桑麻野に植えられ、五穀其の地に宜しきは、國の富めるなり。六畜家に育ち、瓜瓠葷菜百果備具するは、國の富めるなり。工事に刻鏤無く、女事に文章無きは、國の富めるなり。
-
『管子』權脩故に上本事を好まざれば則ち末產禁ぜられず、末產禁ぜられざれば則ち民時事に緩くして地利を輕んず、地利を輕んじて田野の辟け、倉廩の實つるを求むるは、得可からざるなり。商賈朝に在れば則ち貨財上に流れ、婦人事を言えば則ち賞罰信ならず、男女別無ければ則ち民に廉恥無し。貨財上に流れ、賞罰信ならず、民に廉恥無くして、百姓の難に安んじ、兵士の節に死するを求むるは、得可からざるなり。朝廷肅まらず、貴賤明らかならず、長幼分かれず、度量審らかならず、衣服等無く、上下節を淩ぎて、百姓の主の政令を尊ぶを求むるは、得可からざるなり。上詐謀閒欺を好み、臣下賦斂して競い得、民をして偷壹ならしむれば、則ち百姓疾み怨み、而して下の上に親しむを求むるは、得可からざるなり。地有りて本事に務めず、國に君として民を壹にする能わずして、宗廟社稷の危うき無きを求むるは、得可からざるなり。