韓非子 / 外儲説右上第三十四
故桓公問管仲:「治國最奚患?」對曰:「最患社鼠矣。」公曰:「何患社鼠哉?」對曰:「君亦見夫爲社者乎?樹木而塗之,鼠穿其間,堀穴託其中。燻之則恐焚木,灌之則恐塗阤,此社鼠之所以不得也。今人君之左右,出則爲勢重而收利於民,入則比周而蔽惡於君。内間主之情以告外,外内爲重,諸臣百吏以爲富。吏不誅則亂法,誅之則君不安,據而有之,此亦國之社鼠也。故人臣執柄而擅禁,明爲己者必利,而不爲己者必害,此亦猛狗也。夫大臣爲猛狗而齕有道之士矣,左右又爲社鼠而間主之情,人主不覺。如此,主焉得無壅,國焉得無亡乎?一曰:宋之酤酒者有莊氏者,其酒常美。或使僕往酤莊氏之酒,其狗齕人,使者不敢往,乃酤佗家之酒。問曰:「何爲不酤莊氏之酒?」對曰:「今日莊氏之酒酸。」故曰:不殺其狗則酒酸。桓公問管仲曰:「治國何患?」對曰:「最苦社鼠。夫社,木而塗之,鼠因自託也。燻之則木焚,灌之則塗陁,此所以苦於社鼠也。今人君左右,出則爲勢重以收利於民,入則比周謾侮蔽惡以欺於君,不誅則亂法,誅之則人主危,據而有之,此亦社鼠也。」故人臣執柄擅禁,明爲己者必利,不爲己者必害,亦猛狗也。
新字:故桓公問管仲:「治国最奚患?」対曰:「最患社鼠矣。」公曰:「何患社鼠哉?」対曰:「君亦見夫為社者乎?樹木而塗之,鼠穿其間,堀穴託其中。燻之則恐焚木,灌之則恐塗阤,此社鼠之所以不得也。今人君之左右,出則為勢重而収利於民,入則比周而蔽悪於君。内間主之情以告外,外内為重,諸臣百吏以為富。吏不誅則乱法,誅之則君不安,拠而有之,此亦国之社鼠也。故人臣執柄而擅禁,明為己者必利,而不為己者必害,此亦猛狗也。夫大臣為猛狗而齕有道之士矣,左右又為社鼠而間主之情,人主不覚。如此,主焉得無壅,国焉得無亡乎?一曰:宋之酤酒者有荘氏者,其酒常美。或使僕往酤荘氏之酒,其狗齕人,使者不敢往,乃酤佗家之酒。問曰:「何為不酤荘氏之酒?」対曰:「今日荘氏之酒酸。」故曰:不殺其狗則酒酸。桓公問管仲曰:「治国何患?」対曰:「最苦社鼠。夫社,木而塗之,鼠因自託也。燻之則木焚,灌之則塗陁,此所以苦於社鼠也。今人君左右,出則為勢重以収利於民,入則比周謾侮蔽悪以欺於君,不誅則乱法,誅之則人主危,拠而有之,此亦社鼠也。」故人臣執柄擅禁,明為己者必利,不為己者必害,亦猛狗也。
書き下し
故に桓公管仲に問ふ、「国を治むるに最も奚をか患ふ」と。対へて曰く、「最も社鼠を患ふ」と。公曰く、「何ぞ社鼠を患ふるや」と。対へて曰く、「君亦夫の社を為る者を見るか。木を樹てて之を塗る、鼠其の間を穿ち、穴を堀りて其の中に託す。之を燻せば則ち木を焚かんことを恐れ、之に灌げば則ち塗の阤るるを恐る、此れ社鼠の得られざる所以なり。今人君の左右は、出でては則ち勢重を為して利を民に収め、入りては則ち比周して悪を君に蔽ふ。内は主の情を間ひて以て外に告げ、外内重を為し、諸臣百吏以て富を為す。吏誅せざれば則ち法を乱し、之を誅すれば則ち君安からず、拠りて之を有つ、此れ亦国の社鼠なり。故に人臣柄を執りて禁を擅にし、己の為にする者は必ず利あり、而して己の為にせざる者は必ず害あるを明らかにす、此れ亦猛狗なり。夫れ大臣猛狗と為りて有道の士を齕み、左右又社鼠と為りて主の情を間ひ、人主覚らず。此の如くんば、主焉んぞ壅がるる無きを得ん、国焉んぞ亡ぶる無きを得んや。一に曰く、宋の酒を酤る者に荘氏なる者有り、其の酒常に美なり。或ひと僕をして往きて荘氏の酒を酤はしむ、其の狗人を齕む、使者敢て往かず、乃ち佗家の酒を酤ふ。問ひて曰く、「何為れぞ荘氏の酒を酤はざる」と。対へて曰く、「今日荘氏の酒酸し」と。故に曰く、其の狗を殺さざれば則ち酒酸す、と。桓公管仲に問ひて曰く、「国を治むるに何をか患ふ」と。対へて曰く、「最も社鼠に苦しむ。夫れ社は、木にして之を塗る、鼠因りて自ら託す。之を燻せば則ち木焚け、之に灌げば則ち塗陁る、此れ社鼠に苦しむ所以なり。今人君の左右、出でては則ち勢重を為して以て利を民に収め、入りては則ち比周謾侮して悪を蔽ひて以て君を欺く、誅せざれば則ち法を乱し、之を誅すれば則ち人主危ふし、拠りて之を有つ、此れ亦社鼠なり」と。故に人臣柄を執りて禁を擅にし、己の為にする者は必ず利あり、己の為にせざる者は必ず害あるを明らかにす、亦猛狗なり。
現代語訳
だから斉の桓公が管仲に「国を治めるうえで最も心配なのは何か」と問うと、管仲は「最も心配なのは社の鼠です」と答えた。桓公が「なぜ社の鼠が心配なのか」と言うと、管仲は答えた。「君は社(土地神の祠)を作る者をご覧になったことがありますか。木を立てて泥を塗りますが、鼠がその隙間をうがち、穴を掘ってその中に住みつきます。燻し出そうとすれば木が燃えるのを恐れ、水を注ごうとすれば塗った泥が崩れるのを恐れます。これが社の鼠を捕まえられない理由です。いま君主の側近は、外に出れば権勢をふるって民から利を取り立て、内に入れば徒党を組んで悪事を君主から隠します。内では君主の心中をうかがって外に知らせ、内外で互いに重みを増し、多くの臣下や役人がそれで富を築きます。役人が彼らを誅さなければ法が乱れ、誅そうとすれば君主が落ち着かないので、彼らはそこに居座っています。これもまた国の社の鼠です」。だから臣下が権柄を握って禁令を思いのままにし、自分に従う者は必ず得をし、従わない者は必ず損をすることを見せつけるなら、これもまた猛犬である。大臣が猛犬となって道をわきまえた士に噛みつき、側近がまた社の鼠となって君主の心中をうかがい、君主がそれに気づかない。こうであれば、君主はどうして目や耳をふさがれずにいられようか。国はどうして滅びずにいられようか。別の伝えではこうである。宋の酒売りに荘氏という者がいて、その酒はいつもうまかった。ある人が召使いに荘氏の酒を買いに行かせたところ、荘氏の犬が人に噛みついたので、使いの者は怖くて行けず、よその店の酒を買った。主人が「なぜ荘氏の酒を買わなかったのか」と問うと、召使いは「今日は荘氏の酒が酸っぱかったのです」と答えた。だから、犬を殺さなければ酒が酸っぱくなる(売れ残る)というのである。桓公が管仲に「国を治めるうえで何が心配か」と問うと、管仲は答えた。「最も苦しむのは社の鼠です。社は木に泥を塗ったものなので、鼠がそこに身を寄せます。燻せば木が燃え、水を注げば泥が崩れる。これが社の鼠に苦しむ理由です。いま君主の側近は、外に出れば権勢をふるって民から利を取り立て、内に入れば徒党を組み、人を欺いて悪事を隠し、君主をだましています。誅さなければ法が乱れ、誅せば君主が危うくなるので、そこに居座っています。これもまた社の鼠です」。だから臣下が権柄を握って禁令を思いのままにし、自分に従う者は必ず得をし、従わない者は必ず損をすることを見せつけるなら、これもまた猛犬である。
解説
関連する章句
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説苑・政理斉の桓公、管仲に問いて曰く、「国何をか患えん。」管仲対えて曰く、「社鼠を失うを患う。」桓公曰く、「何の謂ぞや。」管仲対えて曰く、「夫れ社は木を束ねて之に塗る。鼠因りて往きて託す。之を燻せば其の木を焼かんことを恐れ、之に灌げば其の塗を敗らんことを恐る。此れ鼠の殺すことを得べからざる所以は、社を以ての故なり。夫れ国も亦社鼠有り、人主の左右是れなり。内は則ち善悪を君上に蔽い、外は則ち権重を百姓に売る。之を誅せざれば則ち乱を為し、之を誅すれば則ち人主の察する所と為り、腹に拠りて之を有つ。此れ亦国の社鼠なり。人に酒を酤る者有り、器を為ること甚だ潔清、表を置くこと甚だ長けれども酒酸くして售れず。之を里人に問うに、其の故を里人云う、『公の狗猛くして、人器を挈げて入り且つ公の酒を酤わんとすれば、狗迎えて之を噬む。此れ酒の酸くして售れざる所以の故なり。』夫れ国も亦猛狗有り、用事者是れなり。道術の士有りて、万乗の主を明らかにせんと欲するも、用事者迎えて之を齕む。此れ亦国の猛狗なり。左右社鼠為り、用事者猛狗為らば、則ち道術の士用いられず、此れ国を治むるの患う所なり。」
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『韓非子』外儲説右上第三十四明主の道は、申子の「独断」を勧むるに在るなり。三。術の行はれざるは、故有り。其の狗を殺さざれば、則ち酒酸す。夫れ国にも亦狗有り、且つ左右は皆社鼠なり。人主に堯の再誅と、荘王の太子に応ずるとは無くして、皆薄媪の蔡嫗に決するが有るなり。貴を知り、能はざれば、教歌の法を以て先づ之を揆る。
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『韓非子』外儲説右上第三十四夫れ国にも亦た狗有り。有道の士、其の術を懐きて以て万乗の主に明らかにせんと欲するも、大臣猛狗と為りて迎えて之を齕む。此れ人主の蔽脅せらるる所以にして、有道の士の用いられざる所以なり。
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『韓非子』外儲說左下第三十三一。罪を以て誅を受くれば、人上を怨まず、跀危子皐を生かす。功を以て賞を受くれば、臣君を徳とせず、翟璜右契を操りて軒に乗る。襄王知らず、故に昭卯五乗にして屩を履む。上任を過さず、臣能を誣ひざれば、即ち臣将に夫の少室周と為らんとす。二。勢を恃みて信を恃まず、故に東郭牙管仲を議す。術を恃みて信を恃まず、故に渾軒文公を非る。故に有術の主は、賞を信にして以て能を尽くさしめ、罰を必にして以て邪を禁ず、駮行有りと雖も、必ず利する所を得。簡主の陽虎に相たらしむる、哀公の一足を問ふ。三。臣主の理を失へば、則ち文王自ら履きて矜る。朝燕の処を易へざれば、則ち季孫終身荘にして賊に遇ふ。四。禁ずる所を利し、利する所を禁ずれば、神と雖も行はれず。罪する所を誉め、賞する所を毀れば、堯と雖も治まらず。夫れ門を為りて入らしめず、利を委ねて進ましめざるは、乱の産ずる所以なり。斉侯左右を聴かず、魏主誉むる者を聴かずして、明察羣臣を照らせば、則ち鉅も金銭を費さず、孱も璧を用ひず。西門豹復た鄴を治めんことを請ふ、以て之を知るに足る。猶ほ盗嬰児の裘を矜ると跀危子の衣を栄とするがごとし。子綽左右に画く、蟻を去り蠅を駆る。安んぞ桓公の官を索むるを憂ふると宣主の馬を臞するを患ふること無きを得んや。五。臣卑倹を以て行ひと為せば、則ち爵以て賞を観すに足らず。寵光節無ければ、則ち臣下侵偪す。説は苗賁皇の献伯を非り、孔子の晏嬰を議するに在り。故に仲尼管仲と孫叔敖とを論ず。而して出入の容変ずるは、陽虎の言其の臣を見るなり。而して簡主の人臣に応ずるや主術を失ふ。朋党相和し、臣下欲を得れば、則ち人主孤なり。羣臣公に挙げ、下相和せざれば、則ち人主明なり。陽虎将に趙武の賢、解狐の公と為らんとす、而して簡主以て枳棘と為す、国に教ふる所以に非ざるなり。六。公室卑ければ則ち直言を忌み、私行勝てば則ち公功少なし。
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『韓非子』難一第三十六将に天下を治めんとするに、庸主の易しとする所を釈てて、堯・舜の難しとする所を道ふは、未だ与に政を為す可からざるなり」と。管仲病有り、桓公往きて之を問ひて、曰く、「仲父病む、不幸にして大命に卒せば、将に奚を以て寡人に告げんとする」と。管仲曰く、「君の言微かりせば、臣故より将に之を謁せんとす。願はくは君竪刁を去り、易牙を除き、衛の公子開方を遠ざけよ。易牙は君の為に味を主る、君惟だ人肉のみ未だ嘗めず、易牙其の子の首を烝して之を進む。夫れ人情其の子を愛せざる莫し、今其の子を愛せず、安んぞ能く君を愛せん。君妬みて内を好む、竪刁自ら宮して以て内を治む。人情其の身を愛せざる莫し、身すら且つ愛せず、安んぞ能く君を愛せん。開方君に事ふること十五年、斉・衛の間は数日の行を容れず、其の母を弃て、久しく宦して帰らず、其の母すら愛せず、安んぞ能く君を愛せん。臣之を聞く、『矜偽は長からず、蓋虚は久しからず』と。願はくは君此の三子なる者を去れ」と。管仲卒に死す、桓公行はず。桓公死するに及び、蟲戸を出づるも葬られず。或ひと曰く、管仲の桓公に告ぐる所以の者は、度有る者の言に非ざるなり。竪刁・易牙を去る所以の者は、其の身を愛せずして、君の欲に適ふを以てなり。曰く、「其の身を愛せず、安んぞ能く君を愛せん」と。然らば則ち臣に死力を尽くして以て其の主の為にする者有らば、管仲将に用ひざらんとするなり。曰く、「其の死力を愛せず、安んぞ能く君を愛せん」と。是れ君をして忠臣を去らしめんと欲するなり。且つ其の身を愛せざるを以て其の君を愛せざるを度るは、是れ将に管仲の公子糾に死する能はざるを以て其の桓公に死せざるを度らんとするなり、是れ管仲も亦去る所の域に在り。明主の道は然らず、民の欲する所を設けて以て其の功を求む、故に爵禄を為りて以て之を勧む。民の悪む所を設けて以て其の姦を禁ず、故に刑罰を為りて以て之を威す。慶賞信にして刑罰必なり、故に君功を臣に挙げて姦上に用ひられず、竪刁有りと雖も、其れ君を奈何せん。
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『韓非子』難一第三十六霄略曰く、「管仲賤を以て貴を治む可からずと為す、故に高・国の上を請ふ。貧を以て富を治む可からずと為す、故に三帰を請ふ。䟽を以て親を治む可からずと為す、故に仲父に処る。管仲は貪るに非ず、以て治に便するなり」と。或ひと曰く、今臧獲をして君令を奉じて卿相に詔げしむれば、敢て聴かざる莫し、卿相卑しくして臧獲尊きに非ざるなり、主令の加はる所、敢て従はざる莫きなり。今管仲の治をして桓公に縁らざらしめば、是れ君無きなり、国君無ければ以て治を為す可からず。若し桓公の威を負ひ、桓公の令を下さば、是れ臧獲の信ぜらるる所以なり、奚ぞ高・国・仲父の尊きを待ちて後に行はれんや。当世の事を行ひ、都丞の徴令を下す者は、尊貴を辟けず、卑賤に就かず。故に之を行ひて法ならば、巷伯と雖も卿相に信ぜらる。之を行ひて法に非ざれば、大吏と雖も民萌に詘す。今管仲尊主明法を務めずして、寵を増し爵を益すを事とす、是れ管仲富貴を貪欲するに非ざれば、必ず闇くして術を知らざるなり。故に曰く、管仲に失行有り、霄略に過誉有り、と。韓の宣王樛留に問ふ、「吾公仲・公叔を両用せんと欲す、其れ可ならんか」と。樛留対へて曰く、「昔魏は楼・翟を両用して西河を亡ひ、楚は昭・景を両用して鄢・郢を亡ふ。今君公仲・公叔を両用せば、此れ必ず将に事を争ひて外に市せんとす、則ち国必ず憂へん」と。或ひと曰く、昔者斉の桓公管仲・鮑叔を両用し、成湯伊尹・仲虺を両用す。夫れ臣を両用するは国の憂ひならば、則ち是れ桓公は霸たらず、成湯は王たらざるなり。湣王一たび淖歯を用ひて、身東廟に死し、主父一たび李兌を用ひて、食を減ぜられて死す。