格言聯璧 / 接物類・人の案頭に到りて亂りに翻す勿かれ
入人私室,勿側目旁觀。 到人案頭,勿信手亂翻。 不蹈無人之室,不入有事之門,不處藏物之所。 俗語近於市,纖語近於娼,諢語近於優。
新字:入人私室,勿側目旁観。 到人案頭,勿信手乱翻。 不蹈無人之室,不入有事之門,不処蔵物之所。 俗語近於市,繊語近於娼,諢語近於優。
書き下し
人の私室に入りては、目を側てて旁觀する勿かれ。 人の案頭に到りては、手に信せて亂りに翻す勿かれ。 人無きの室を蹈まず、事有るの門に入らず、物を藏するの所に處らず。 俗語は市に近く、纖語は娼に近く、諢語は優に近し。
現代語訳
人の私室に入ったら、横目でじろじろ見回してはいけません。 人の机のそばに行ったら、手当たり次第に書類をめくってはいけません。 人のいない部屋に足を踏み入れず、取り込み事のある家の門に入らず、物をしまってある所にいないようにします。 下品な言葉は市場の商人に近く、なまめかしい言葉は遊女に近く、ふざけた言葉は役者に近いものです。
解説
前の単位の「陰の話を盗み聞きするな」に続き、人の私的な領分に踏み込まない作法を具体的に並べた則です。私室を見回さない、机の上を勝手にめくらない、人のいない部屋や取り込み中の家、物をしまってある場所に近づかない。どれも、あらぬ疑いを受けないための用心でもあります。瓜田に履を納れず、李下に冠を正さずという古い戒めと同じ考え方です。最後の句は言葉づかいの品位を説き、俗な言葉、艶めいた言葉、おどけた言葉を、それぞれ商人、遊女、役者の言葉になぞらえて戒めます。職場で人の画面や書類をのぞき込まない、不用意な場所に立ち入らないといった配慮は、今の時代にもそのまま通じる礼儀です。
この章句が説くこと
礼節慎言接物用心品位
関連する章句
-
『酔古堂剣掃』集醒・人を甘んぜしむるの語人を甘んぜしむるの語は、多く其の是非を論ぜず。人を激するの語は、多く其の利害を顧みず。
-
『酔古堂剣掃』集醒・好んで閨門を談ずる者好んで閨門を談じ、及び好んで亂を譏る者は、必ず鬼神の怒る所と為る。奇禍有るに非ざれば、則ち必ず奇窮有り。
-
『囲炉夜話』第百九十則・口を守ること瓶の如し一言は以て大禍を招くに足る、故に古人は口を守ること瓶の如く、惟だ其の覆墜を恐るるなり。 一行は以て終身を玷すに足る、故に古人は躬を飭ふること璧の若く、惟だ瑕疵有るを恐るるなり。
-
『幽夢影』巻下・諛ふも罵るも口を以てし筆を以てする毋れ已むを得ずして之に諛ふ者は、寧ろ口を以てし、筆を以てすること毋れ。耐ふべからずして之を罵る者も、亦寧ろ口を以てし、筆を以てすること毋れ。
-
『呻吟語』内篇・倫理・慎言の地は、惟だ家庭を要と為す慎言の地は、惟だ家庭を要と為す。應に言を慎むべきの人は、惟だ妻子・僕隸を要と為す。此れ理亂の原にして禍福の本なり。人往往にして之を忽にす、悲しいかな。
-
『酔古堂剣掃』集醒・聖人の言は簡なり神人の言は微、聖人の言は簡、賢人の言は明、眾人の言は多、小人の言は妄なり。