格言聯璧 / 接物類・富貴の人を觀るには其の氣概を觀る
人情每處一境,始以為甚樂;久而生厭,又以為甚苦。非平其心,而復濟之以養,未有不思遷者。 觀富貴人,當觀其氣概,如溫厚和平者,則其榮必久,而其後必昌。
新字:人情毎処一境,始以為甚楽;久而生厭,又以為甚苦。非平其心,而復済之以養,未有不思遷者。 観富貴人,当観其気概,如温厚和平者,則其栄必久,而其後必昌。
書き下し
人情は一境に處る每に、始めは以て甚だ樂しと爲し、久しくして厭ひを生ずれば、又以て甚だ苦しと爲す。其の心を平らかにして、復た之を濟ふに養ひを以てするに非ずんば、未だ遷るを思はざる者有らず。 富貴の人を觀るには、當に其の氣概を觀るべし、溫厚和平なる者の如きは、則ち其の榮必ず久しく、而して其の後必ず昌ならん。
現代語訳
人の情として、ある境遇に身を置くと、初めはとても楽しいと思い、長くいて嫌気がさすと、今度はとても苦しいと思います。心を平らかにして、さらに修養でそれを補うのでなければ、よそへ移りたいと思わない人はいません。 富貴な人を見るときは、その気概を見るべきです。温厚で穏やかな人なら、その栄えは必ず長く続き、その子孫も必ず栄えるでしょう。
解説
前の単位で人付き合いの移ろいを述べたのに続き、ここでは境遇についても同じことが起きると言います。どんな環境も初めは楽しく、慣れると苦しくなって、よそへ移りたくなる。それを防ぐのは、心を平らにすることと、日々の修養だというのです。隣の芝生が青く見えるのは、環境のせいではなく自分の心の側の問題だという指摘は鋭いものです。後半は、次の単位と対になる人の見方で、富貴な人は気概を見よ、温厚で穏やかならその栄えは長く、子孫も栄えると説きます。転職や引っ越しを考えるとき、今の不満が境遇そのものから来るのか、慣れからくる倦みなのかを見極めるのに役立つ一則です。
この章句が説くこと
修養平常心人物観接物知足
関連する章句
-
『格言聯璧』持躬類・富貴は怨の府なり富貴は、怨みの府なり。才能は、身の災ひなり。 聲名は、謗りの媒なり。歡樂は、悲しみの漸なり。 聲色に濃ければ、虚怯の病を生ず。貨利に濃ければ、貪饕の病を生ず。 功業に濃ければ、造作の病を生ず。名譽に濃ければ、矯激の病を生ず。
-
『格言聯璧』持躬類・失意の人に對して得意の事を談ずる莫れ失意の人に對しては、得意の事を談ずる莫れ。 得意の日に處りては、失意の時を忘るる莫れ。 貧賤は是れ苦境なるも、能く善く處る者は自ら樂しむ。 富貴は是れ樂境なるも、善く處らざる者は更に苦しむ。 恩裏に由來害を生ず、故に快意の時は須らく早く頭を回らすべし。
-
『格言聯璧』敦品類・貧賤の時眼中に富貴を著けず既に仕に入りては媳婦の如く、人を養ふを要す。 林下に歸りては阿婆の如く、人に教ふるを要す。 貧賤の時、眼中に富貴を著けざれば、他日志を得るも必ず驕らず。 富貴の時、意中に貧賤を忘れざれば、一旦退休するも必ず怨みず。
-
『格言聯璧』持躬類・清眞冷淡の爲は久しきを歷て愈いよ意味有り困辱は憂ひに非ず、困辱を取るを憂ひと爲す。 榮利は樂しみに非ず、榮利を忘るるを樂しみと爲す。 熱鬧華榮の境は、一たび過ぐれば輒ち淒涼を生ず。 清眞冷淡の爲は、久しきを歷て愈いよ意味有り。 心志は苦しきを要し、意趣は樂しきを要し、氣度は宏きを要し、言動は謹むを要す。
-
『格言聯璧』持躬類・品詣は常に我に勝る者を看よ品詣は常に我に勝る如き者を看れば、則ち愧恥自ら增す。 享用は常に我に如かざる者を看れば、則ち怨尤自ら泯ぶ。 家に坐して聊無きも、亦た食力の擔夫の紅塵赤日なるを念へ。 官階達せざるも、尚ほ高才の秀士の白首青衿なる有り。
-
『格言聯璧』接物類・新怨を以て舊恩を忘るる毋かれ小嫌を以て至戚を疏んずる毋かれ、新怨を以て舊恩を忘るる毋かれ。 兩つながら惠めば釋けざるの怨み無く、兩つながら求むれば合はざるの交はり無く、兩つながら怒れば成らざるの禍無し。 古の名望相近ければ、則ち相得たり。 今の名望相近ければ、則ち相妒む。