格言聯璧 / 持躬類・富貴は傳舍の如し
懲忿窒欲,其象為損,得力在一忍字。 遷善改過,其象為益,得力在一悔字。 富貴如傳舍,惟謹慎可得久居。 貧賤如敝衣,惟勤儉可以脫卸。
新字:懲忿窒欲,其象為損,得力在一忍字。 遷善改過,其象為益,得力在一悔字。 富貴如伝舎,惟謹慎可得久居。 貧賤如敝衣,惟勤倹可以脱卸。
書き下し
忿を懲らし欲を窒ぐは、其の象は損と爲す、力を得るは一の忍の字に在り。 善に遷り過ちを改むるは、其の象は益と爲す、力を得るは一の悔の字に在り。 富貴は傳舍の如し、惟だ謹慎のみ久しく居るを得べし。 貧賤は敝衣の如し、惟だ勤儉のみ以て脫卸すべし。
現代語訳
怒りを懲らし欲をふさぐことは、易の卦でいえば「損」にあたり、その力の要は「忍」の一字にあります。 善に移り過ちを改めることは、易の卦でいえば「益」にあたり、その力の要は「悔」の一字にあります。 富貴は宿場の宿のようなもので、ただ慎み深くしていることだけが、長くそこにいられる道です。 貧賤はぼろぼろの着物のようなもので、ただ勤勉と倹約だけが、それを脱ぎ捨てる道です。
解説
前半は『易経』の損と益の二つの卦の象伝を引いた対句です。損卦の象伝に「君子以て忿を懲らし欲を窒ぐ」、益卦の象伝に「君子以て善を見れば則ち遷り、過ち有れば則ち改む」とあり、それぞれの力の要を忍と悔の一字に求めています。減らす修養には我慢が、増やす修養には後悔が原動力になるというのです。後半は富貴を伝舎、つまり旅人が泊まる宿場の宿にたとえ、慎まなければすぐ出ていくことになると言い、貧賤を敝衣、つまりぼろ着にたとえ、勤倹によって脱ぎ捨てられると言います。富も貧も一時の仮の姿で、身の持し方しだいで変わるという教えです。
この章句が説くこと
損益忍悔悟勤倹持躬
関連する章句
-
『格言聯璧』持躬類・奢る者は心常に貧しく、儉なる者は心常に富む儉なれば則ち約、約なれば則ち百善俱に興る。 侈なれば則ち肆、肆なれば則ち百惡俱に縱にす。 奢る者は富むも足らず、儉なる者は貧しきも餘り有り、奢る者は心常に貧しく、儉なる者は心常に富む。 貪饕して以て辱めを招くは、儉にして廉を守るに若かず。 干請して以て義を犯すは、儉にして節を全うするに若かず。
-
『格言聯璧』持躬類・一分の退讓を學べば一分の便宜を討む一分の經營を省けば、一分の道義を多くす。 一分の退讓を學べば、一分の便宜を討む。 一分の奢侈を去れば、一分の罪過を少くす。 一分の體貼を加ふれば、一分の物情を知る。 自重せざる者は辱めを取り、自ら畏れざる者は禍ひを招き、自ら滿たざる者は益を受け、自ら是とせざる者は博く聞く。
-
『格言聯璧』持躬類・富貴は怨の府なり富貴は、怨みの府なり。才能は、身の災ひなり。 聲名は、謗りの媒なり。歡樂は、悲しみの漸なり。 聲色に濃ければ、虚怯の病を生ず。貨利に濃ければ、貪饕の病を生ず。 功業に濃ければ、造作の病を生ず。名譽に濃ければ、矯激の病を生ず。
-
『格言聯璧』持躬類・富は能く施すを以て德と爲す賢人君子と做らんと要するは、我の主張にして、天に由り得ず。 富は能く施すを以て德と爲し、貧は求むる無きを以て德と爲し、貴は人に下るを以て德と爲し、賤は勢を忘るるを以て德と爲す。 體面を護るは、廉恥を重んずるに如かず。醫藥を求むるは、性情を養ふに如かず。
-
『格言聯璧』持躬類・聰明睿知、之を守るに愚を以てす聰明睿知は、之を守るに愚を以てす。功、天下を被ふも、之を守るに讓を以てす。 勇力、世を振ふも、之を守るに怯を以てす。富、四海を有つも、之を守るに謙を以てす。 居積の人と富を爭はず、進取の人と貴を爭はず、矜飾の人と名を爭はず、少年の人と英俊を爭はず、盛氣の人と是非を爭はず。
-
『格言聯璧』持躬類・謙は美德なり、過謙なる者は詐を懷く福祉を奧竈に祈るも、奢想徒らに勞す。 謙は、美德なり、過ぎて謙なる者は詐を懷く。 默は、懿行なり、過ぎて默する者は奸を藏す。 直なれども禍を犯さず、和すれども義を害せず。 圓融なる者は詭隨の態無く、精細なる者は苛察の心無く、方正なる者は乖拂の失無く、沈默なる者は陰險の術無く、誠篤なる者は椎魯の累無く、光明なる者は淺露の病無く、勁直なる者は徑情の偏り無く、執持する者は拘泥の跡無く、敏煉なる者は輕浮の狀無し。