家道訓 / 巻之五・用財中
一人家の富むことも、又必ず故あり。其の品多し。只天の福にもよらず、其の主人の行によれり。先づ家ををさむるに、よろづのことほしいまゝならず、口腹耳目の欲をすごさず、私慾をこらへ、後日のうれへをおもんぱかり、儉約にみだりにつひやさず、分外のおごりをせず、家事をみづからつとめて下人にまかせず、家財の多少有無をはかり、家業をつとめておこたりなく、朝ははやく起き、夜はおそく寢ね、おきふしに其の時を失はず、酒食をむさぼらず、買へるもののあたひをはやくつぐのひ、人の財を借ることをきらひ、我が家祿の分内にて事足りて、外に求めず。財を用ふる事、我が家祿の分限に應じて過ぎざる故に、財不足せずして人に求めず。もし故ありて財不足し、已む事を得ずして人の財を借らば、心にかけて早くかへし、初の約をちがへず。
新字:一人家の富むことも、又必ず故あり。其の品多し。只天の福にもよらず、其の主人の行によれり。先づ家ををさむるに、よろづのことほしいまゝならず、口腹耳目の欲をすごさず、私慾をこらへ、後日のうれへをおもんぱかり、倹約にみだりにつひやさず、分外のおごりをせず、家事をみづからつとめて下人にまかせず、家財の多少有無をはかり、家業をつとめておこたりなく、朝ははやく起き、夜はおそく寝ね、おきふしに其の時を失はず、酒食をむさぼらず、買へるもののあたひをはやくつぐのひ、人の財を借ることをきらひ、我が家禄の分内にて事足りて、外に求めず。財を用ふる事、我が家禄の分限に応じて過ぎざる故に、財不足せずして人に求めず。もし故ありて財不足し、已む事を得ずして人の財を借らば、心にかけて早くかへし、初の約をちがへず。
書き下し
一人家の富むことも、又必ず故あり。其の品多し。只天の福にもよらず、其の主人の行によれり。先づ家ををさむるに、よろづのことほしいままならず、口腹耳目の欲をすごさず、私慾をこらへ、後日のうれへをおもんぱかり、倹約にみだりにつひやさず、分外のおごりをせず、家事をみづからつとめて下人にまかせず、家財の多少有無をはかり、家業をつとめておこたりなく、朝ははやく起き、夜はおそく寝ね、おきふしに其の時を失はず、酒食をむさぼらず、買へるもののあたひをはやくつぐのひ、人の財を借ることをきらひ、我が家禄の分内にて事足りて、外に求めず。財を用ふる事、我が家禄の分限に応じて過ぎざる故に、財不足せずして人に求めず。もし故ありて財不足し、已む事を得ずして人の財を借らば、心にかけて早くかへし、初の約をちがへず。
現代語訳
人の家が富むのにも、また必ず理由があります。その種類は多いものです。ただ天の福によるのではなく、その家の主人の行いによるのです。まず家を治めるのに、何事もほしいままにせず、口や腹、耳や目の欲を過ごさず、私欲をこらえ、後日の心配を考え、倹約してむやみに費やさず、身の程を超えた贅沢をせず、家事を自ら勤めて使用人任せにせず、家財の多少や有無を見積もり、家業を勤めて怠らず、朝は早く起き、夜は遅く寝て、起き伏しの時を失わず、酒や食事を貪らず、買った物の代金は早く支払い、人の財を借りることを嫌い、自分の家禄の範囲内で事足りて、外に求めません。財を用いるのが自分の家禄の分限に応じて度を越さないので、財が不足せず人に求めることもありません。もし事情があって財が不足し、やむを得ず人の財を借りたなら、心にかけて早く返し、最初の約束を違えません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『家道訓』巻之五・用財中一家ををさむるは、国ををさむるに同じ。財を用ひ人を用ふ、此二事をつつしむべし。質実にして盗まざるやつこをえらびてつかひ、財をつかさどらしむべし。財をつかさどるやつこかだましければ、我が利慾のみいとなみて、主君をあざむきて主人の家をやぶる。財を用ふると人を用ふるとの二は、家ををさむるの要なり。心を用ふべし。一およそ、人家の必ず貧しくなる事、天の禍にもあらず、人の不徳によれり。まづ後のうれひをおもんぱからずして、堪忍の心なく、只今の口腹耳目の欲をほしいままにし、倹約をきらひ、分限よりおごりてつひえをいとはず、このんで人の財を借り、おひめ多けれどもうれへず、買へる物のあたひをつぐのはず。それを乞ひもとむれば、いかりていよいよあたへず。
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『家道訓』巻之五・用財中一我が家の生業をつとめて、財を生ずるの本とし、又倹約を行ひて、財をたもつの道とす。もし然らずして、家業に怠りてつとめず、財をみだりにして倹約ならざるは、是困窮の基にて家をやぶる。故に、家を豊にし財を足すの道は、四民ともによく家業を勤むるにあり。又財をたもちて失はざる道は、倹約を行ふにあり。凡そ士農工商、皆其の家職をよくつとめて怠らず、是財を生ずるの本なり。又倹約にしてみだりに費さざるは、財をたもつの道なり。此つとむると倹約との二は、よく家をたもつ道なり。利養を得ることは、あながちに貪り求めざれども、家業をよく勤むる中におのづからあり。此上に倹約を行ふべし。大富貴の人、家財禄米多しといへども、財は限あるものなれば、倹約ならざれば、後は必ず財つきてまどしくなる。我家にある所の財を顧みて使ひ用ふべし。家財の有無を考へ知らずして、妄に用ふるは困窮の基なり。
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『家道訓』巻之五・用財中一我が家をたもつ道に、富貴の人もみづから心を用ひ、微細のこともよくはかり知りてつづまやかに行ふべし。むかしの人は、大名高家も、家事をみづからつとめ、微細のことにもよく心を用ひて、おろそかならざりしゆゑ、貧困に至らざるのみならず、余財多かりしなり。今の人大家にあらざれども、我が家事をむづかしとて、財用をみづからはからず、入ることも出すことも多少を知らず。只家のやつこにまかせてみづから知らざれば、家の計おろそかにして、分外の費多く、且やつこにかすめ取らるること多し。如此なれば、家産足らずして終に貧困にいたる。小身の人にもかやうの家事におろそかなるもの多し。一生貧窮にくるしむといへども、我が家計にうとくおろそかなる故なることを知らず。只世の成行あしきと、我が不幸とのみ思へるはあやまりなり。我が身困窮にくるしむのみならず、人の妨となり、はては子孫の災となる。かなしむべし。
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『家道訓』巻之五・用財中故に財ををさめて家をたもつの道は、借ることを禁ずべし。少し借れば多く借るにいたる。多く借れば家をたもちがたし。借ることしばしばにいたれば、後は必ず家を破る。然れども、故ありて財ともしき時、已むことを得ずして、人の財を借り用ひば、なるべきほどは、我が身と妻子の俸養を薄くして、艱難をこらへ、財をたくはへあつめて、借れるものを早くつぐのふべし。借れるものあまたつぐのはずんば、万の俸養を甚かろくして艱難をこらへ、身をくるしめて財をあつめ、返さんと約せし期をたがへず、約にそむくべからず。
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『家道訓』巻之五・用財中日夜出遊びて、我が家に居ることまれにして、我が家事をつとめず、家の破損を修理せず、器物の損失をしらず。内に居ては、夜も臥すべき時ふさずして時を失ひ、朝はおそく起き、家業をつとめず、つねにおこたりて時をつひやす。財の出入をしるさず、くらの内の財の多少を知らず、家事を家僕にまかせてみづからはからず。酒を好みてほしいままにし、放逸なる無頼の友にまじはり、遊宴を事とし、器物を好み、さまざまの物ずきして、からのやまとの無用の物を多く買ひあつめ、色をこのみてやまず、もろもろのすきこのむこと多し。無益の芸をこのみ、淫楽をこのみ、衣服のかざりをこのみ、美味をこのみ、饗応をこのみ、営作をこのみ、無用の器をこのむ。斯くのごとくこのみ多きは、すなはち是わざはひを好むなり。かくのごとくなる人は、必ず人のいさめを嫌ひて聞き入れず。是皆困窮の基なり。
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『家道訓』巻之五・用財中一我が身に俸ずることはうすくして、人にほどこし礼義を行ふ事をあつくする、是用財の良法なり。今の人は、我が身に俸ずるにはおごり、人にほどこし礼義を行ふにはうすくす。是用財の道をうしなへり。一我が財禄の分限をわすれ、後の困窮を考へずして、当時の嗜慾にまかせ、分に過ぎて財を用ふれば、必ず財足らず。財不足するによりて、廉恥の心なく、つとむべき礼義を行ひがたく、人の困苦をめぐまず、あたふべき物をあたへず、奉公をつとむべきちからなく、軍用にともし。是家をたもち財を用ふる道を知らざればなり。然れば貴賤ともに、家ををさむるには、必ず財の用ひやうを知るべし。是人世の尤切要なる急務なり。
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