十善法語 / 巻第十二・不邪見戒之下
看ヨ。此鈴聲。餘人ハ何事モナク聞キ過スコトナルニ。此佛圖澄ノ耳ニハ劉曜ヲ縛シ來ルト云音聲シヤ。風鈴ト心法ト。元來相違セヌシヤ。千里ノ外ト風鈴ト。元來相違セヌシヤ。ナニ故カクノ如クナルソ。法ハ自他ヲ離レタルモノシヤ。有情非情ノ差別ナキモノシヤ。遠近ナキモノシヤ。千里ノ外モ。軍事百萬ノ成敗モ。此風鈴ノ中ニアラハレテ餘ナキシヤ。風鈴ノ音カ如是ナレハ。一切ノ絲竹管絃ノ聲モ亦如是シヤ。蟲ノ聲人ノ音聲モ亦如是シヤ。一切ノ音聲カ如是ナレハ。一草一木ノ色モ如是シヤ。一切ノ色カ如是ナレハ。一切ノ香モ如是。一切ノ味モ如是。一切ノ觸モ如是シヤ。此等ヲ以テヨクヨク思惟セハ。決定シテ斷常ノ見ヲ超過ス。華嚴經ニ一ノ中ニ無量ヲ解シ。無量ノ中ニ一ヲ解スルトアル。此通リソ。得道聖者ノ眼ニハ。一物ヲ視ル中ニ一切ノ事ヲ知ル。此等ノ事ハ。初此身此念ヲ思惟スルヨリ入テ人道ヲ知ル。天道ヲ知ル。鬼神ノ故ヲ知ル。法性ニ達スル。菩薩不思議ノ解脫境界ニ至ルシヤ。
新字:看ヨ。此鈴声。余人ハ何事モナク聞キ過スコトナルニ。此仏図澄ノ耳ニハ劉曜ヲ縛シ来ルト云音声シヤ。風鈴ト心法ト。元来相違セヌシヤ。千里ノ外ト風鈴ト。元来相違セヌシヤ。ナニ故カクノ如クナルソ。法ハ自他ヲ離レタルモノシヤ。有情非情ノ差別ナキモノシヤ。遠近ナキモノシヤ。千里ノ外モ。軍事百万ノ成敗モ。此風鈴ノ中ニアラハレテ余ナキシヤ。風鈴ノ音カ如是ナレハ。一切ノ糸竹管絃ノ声モ亦如是シヤ。虫ノ声人ノ音声モ亦如是シヤ。一切ノ音声カ如是ナレハ。一草一木ノ色モ如是シヤ。一切ノ色カ如是ナレハ。一切ノ香モ如是。一切ノ味モ如是。一切ノ触モ如是シヤ。此等ヲ以テヨクヨク思惟セハ。決定シテ断常ノ見ヲ超過ス。華厳経ニ一ノ中ニ無量ヲ解シ。無量ノ中ニ一ヲ解スルトアル。此通リソ。得道聖者ノ眼ニハ。一物ヲ視ル中ニ一切ノ事ヲ知ル。此等ノ事ハ。初此身此念ヲ思惟スルヨリ入テ人道ヲ知ル。天道ヲ知ル。鬼神ノ故ヲ知ル。法性ニ達スル。菩薩不思議ノ解脱境界ニ至ルシヤ。
書き下し
看ヨ。此鈴声。余人ハ何事モナク聞キ過スコトナルニ。此仏図澄ノ耳ニハ劉曜ヲ縛シ来ルト云音声シヤ。風鈴ト心法ト。元来相違セヌシヤ。千里ノ外ト風鈴ト。元来相違セヌシヤ。ナニ故カクノ如クナルソ。法ハ自他ヲ離レタルモノシヤ。有情非情ノ差別ナキモノシヤ。遠近ナキモノシヤ。千里ノ外モ。軍事百万ノ成敗モ。此風鈴ノ中ニアラハレテ余ナキシヤ。風鈴ノ音カ如是ナレハ。一切ノ糸竹管絃ノ声モ亦如是シヤ。虫ノ声人ノ音声モ亦如是シヤ。一切ノ音声カ如是ナレハ。一草一木ノ色モ如是シヤ。一切ノ色カ如是ナレハ。一切ノ香モ如是。一切ノ味モ如是。一切ノ触モ如是シヤ。此等ヲ以テヨクヨク思惟セハ。決定シテ断常ノ見ヲ超過ス。華厳経ニ一ノ中ニ無量ヲ解シ。無量ノ中ニ一ヲ解スルトアル。此通リソ。得道聖者ノ眼ニハ。一物ヲ視ル中ニ一切ノ事ヲ知ル。此等ノ事ハ。初此身此念ヲ思惟スルヨリ入テ人道ヲ知ル。天道ヲ知ル。鬼神ノ故ヲ知ル。法性ニ達スル。菩薩不思議ノ解脱境界ニ至ルシヤ。
現代語訳
見よ。この鈴の音は、他の人には何事もなく聞き過ごすことであるのに、この仏図澄の耳には、劉曜を縛って連れて来るという声なのである。風鈴と心の法とは、もともと背かないのである。千里の外と風鈴とは、もともと背かないのである。なぜこのようであるのか。法は自と他を離れたものである。心あるものと心なきものの差別がないものである。遠い近いがないものである。千里の外も、百万の軍の勝敗も、この風鈴の中に現れて余すところがないのである。風鈴の音がこのようであるなら、一切の弦楽器や管楽器の音もまたこのようである。虫の声や人の声もまたこのようである。一切の音声がこのようであるなら、一本の草、一本の木の色もこのようである。一切の色がこのようであるなら、一切の香もこのようであり、一切の味もこのようであり、一切の触れるものもこのようである。これらによってよくよく思いめぐらせば、必ず断見と常見を超える。華厳経に、一の中に無量を理解し、無量の中に一を理解する、とある。この通りである。道を得た聖者の眼には、一つの物を見る中に一切の事を知る。これらのことは、初めにこの身とこの念を思いめぐらすことから入って、人の道を知り、天の道を知り、鬼神のことわりを知り、法性に達し、菩薩の不思議な解脱の境界に至るのである。
解説
この章句が説くこと
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『十善法語』巻第十二・不邪見戒之下法宝ノ尊重ナルコトモ。信スレハ信セラルル。今日此方共カ称讃スヘキナラネト且ク信解ノ分斉ヲ云ハハ。万物ミナ条理アリ。夷狄モソノ道アリ。此仏有テ此法アル。此法有テ此仏アル。法性ノ身。法性ノ土。互ニ融摂シテ未来際ヲ尽ス。此衆生アル。処トシテ法性ナラヌハナク。此国土アル。処トシテ法性ナラヌハナシ。法法自爾。心念ヲ絶ス。思惟セハ禅定相応シヤ。一切時中。言論ノ及フ所ナラス。若説ケハ。刹説。衆生説。三世一切説シヤ。此仏身ヲ開示スル。此仏土ヲ開示スル。此衆生界業相昇沈ヲ開示スル。
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『十善法語』巻第七・不兩舌戒仏在世ノ六十四種ノ梵音ト云ハ。名相勝妙ナルベケレトモ。唯コノ声シヤ。不両舌戒カ満足スレハ。一切ノ音声ハ直ニ三世諸仏ノ妙法蔵トナル。在世ノ放光動地雨華変化。滅後ノ黄巻赤軸。右行下行ノ文字ハ。ムツカシキ名目ナレトモ。唯コノ色シヤ。不両舌戒ガ満足スレハ。方円三角。遠近濶狭。高下長短。青黄赤白黒ガ。トリモ直サス正法ノ姿シヤ。渓声即是広長舌。山色豈不清浄身シヤ。花ヨリ外ニ知ル人ハナキシヤ。華厳経ノ中ニ。藤根国ノ普眼長者ガ一切香ヲ和合スル要法ヲ知ルトアル。不両舌戒ガ満足スレバ。一切ノ自性ノ香。和合ノ香ガ菩薩ノ解脱門シヤ。維摩経ノ中。香積世界ニハ。飯食ヲ以テ仏事ヲナストアル。不両舌戒ガ満足スレハ。一切飯食ノ色香味ガ直ニ菩薩ノ不可思議解脱シヤ。首楞厳経ニ。跋陀婆羅菩薩ガ浴室ニ入テ。水因三昧ヲ得トアル。不両舌戒ガ満足スレハ。一切ノ冷暖軽重等ノ触ガ菩薩ノ禅定三昧シヤ。
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『十善法語』巻第十一・不邪見戒之中十方世界種種国土有ルモ。妄心夢中ニ色色ト現スルハカリテ。実体ナキコトシヤ。此モ能思惟スレハ。廓然トシテ開解セネハナラヌシヤ。百里千里カ遠クナキコトヲ知レハ。支那天竺モ法ト成リ来ルシヤ。新羅百済モ法トナリ来ルシヤ。見ヌモロコシカ法トナリ来レハ。名ヲ聞ヌ世界モ法トナリ来ルシヤ。眼前咫尺カ近キデモナキコトヲ知レハ。隣里郷党モ法ト成リ来ルシヤ。五尺ノ小身モ法トナリ来ルシヤ。目ニ見ヱヌ微塵極微モ法トナリ来ルシヤ。此法ト云ハ羸劣ノ法デハナイ。諸仏ノ無上正覚ノ法シヤ。
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『十善法語』巻第十二・不邪見戒之下法有テ自心トナリ来ル。自心ヲ離レテ法ハナキシヤ。法全ケレハ自心全。自心全ケレハ法全キシヤ。諸仏世尊因地ノ所行。何事ヲ践行フコトソ。三乗ノ賢聖国城ヲ棄捨シ。王位ヲ棄捨シ。樹下ニ春秋ヲ送リ。石座上ニ身命ヲ終ル。何ヲ明了ニナサン為ソ。唯今日衆生現今ノ一念心ノミシヤ。此心中ニ三世アル。三世元来自心ニ相違セヌシヤ。此心中ニ十方アル。十方元来自心ニ相違セヌシヤ。此ニ由テ断見ハ外道ニ属スル。説似一物即不中シヤ。修証有テ染汚ナシ。此ニ由テ常見ハ外道ニ属スルシヤ。断常ノ二途ヲ超過シテ唯是平常心シヤ。一切智解ヲ超過シテ了了ト常ニ自ラ知ルシヤ。一切諸悪見趣。適然トシテ依リ処ナクナルシヤ。生ヲ他方ニ転シテ。来処モナク亦去処モナク。富万国ヲ有シテ。我モナク我所モナク。分別構造シテ。誠ニ断見ヲ起スニ起シ得ラレヌ時節ソ。分別構造シテ。誠ニ常見ヲ起スニ起シ得ラレヌ時節ソ。
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『十善法語』巻第十二・不邪見戒之下事事常常隔シテ相容レヌ。理ハ常ニ虚通シテ障礙ナイ。一切世間ニ理外ノ物ナク。一切世間ニ事外ノ理ナク。理事元来不二シヤ。理事不二ナレハ。断常ノ二見ハ本来解脱スル。心境元来不二シヤ。自他元来不二シヤ。迷悟元来不二シヤ。仏界ヲ知フト思ハハ衆生界ニ入テ見ヨ。大道徹底ノ処ヲ尋子ンニハ迷ノ源底ヲ窮テ看ヨ。唯知ラヌ者カ知ヌハカリ。解セヌ者カ解セヌハカリソ。華厳ノ中ニ。正ク此戒相ヲ示ス。又離邪見菩薩住於正道不行占卜。不取悪戒。心見正直無証無諂。於仏法僧起決定信トアル。
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『十善法語』巻第八・不貪欲戒華厳ニ。衆生妄ニ分別スレハ。仏アリ世界アリ。若真法性ヲ了スレハ。仏モナク世界モナシトアル。此法性カ直ニ是縁起シヤ。仏果究竟モ一物鎮長霊デナイ。頑空無体テハナイ。此縁起カ直ニ是法性シヤ。凡夫身心従来ノ面目ヲ改ルコトデハナイ。此縁起不思議ノ中。業相ノ影ヲ現ス。流ヲ逐テ止ルコトヲ知ラネハ。此業相衆生ヲ昇沈シテ。累却窮リナキシヤ。若本源ニ達スレハ到処カ解脱大海シヤ。末ノ末マテ解脱大海シヤ。