十善法語 / 巻第十二・不邪見戒之下
望氣ノ者ナト云。地上一人生スル。必ス上天繋屬ノ星アルト。漢高祖カ關中ヲ定ルトキ。五星東井ニ聚ルト云。後漢ノ光武帝嚴子陵ト同臥セシトキ。客星帝座ヲ犯ス。此等ミナ虛談トハ云レヌシヤ。律藏ノ中ニモ。猛光王カ婬女善賢ノ舍ニ在テ難ニ遇時。婆羅門カ中夜ニ仰テ星文ヲ見テ。翌日奏シテ。大王昨夜難ニ遭フ。幸ニ福力有テ僅ニ性命ヲ存シ給ト云。此類多キコトシヤ。此地カ萬物ヲ載ル。春夏ニ生育シ。秋冬ニ成熟スル。百千萬歲是ノ如シ。斷見ニ相違スルシヤ。山川互ニ出沒シ。海陸動作アル。常見ニ相違スルシヤ。山林各神アリ。河海各神アリ。禾稼藥物各神アル。陰德アルモノハ其冥助ヲ得ル。此等ミナ正知見ノ者ノ知ル處シヤ。
新字:望気ノ者ナト云。地上一人生スル。必ス上天繋属ノ星アルト。漢高祖カ関中ヲ定ルトキ。五星東井ニ聚ルト云。後漢ノ光武帝厳子陵ト同臥セシトキ。客星帝座ヲ犯ス。此等ミナ虚談トハ云レヌシヤ。律蔵ノ中ニモ。猛光王カ婬女善賢ノ舎ニ在テ難ニ遇時。婆羅門カ中夜ニ仰テ星文ヲ見テ。翌日奏シテ。大王昨夜難ニ遭フ。幸ニ福力有テ僅ニ性命ヲ存シ給ト云。此類多キコトシヤ。此地カ万物ヲ載ル。春夏ニ生育シ。秋冬ニ成熟スル。百千万歳是ノ如シ。断見ニ相違スルシヤ。山川互ニ出没シ。海陸動作アル。常見ニ相違スルシヤ。山林各神アリ。河海各神アリ。禾稼薬物各神アル。陰徳アルモノハ其冥助ヲ得ル。此等ミナ正知見ノ者ノ知ル処シヤ。
書き下し
望気ノ者ナト云。地上一人生スル。必ス上天繋属ノ星アルト。漢高祖カ関中ヲ定ルトキ。五星東井ニ聚ルト云。後漢ノ光武帝厳子陵ト同臥セシトキ。客星帝座ヲ犯ス。此等ミナ虚談トハ云レヌシヤ。律蔵ノ中ニモ。猛光王カ婬女善賢ノ舎ニ在テ難ニ遇時。婆羅門カ中夜ニ仰テ星文ヲ見テ。翌日奏シテ。大王昨夜難ニ遭フ。幸ニ福力有テ僅ニ性命ヲ存シ給ト云。此類多キコトシヤ。此地カ万物ヲ載ル。春夏ニ生育シ。秋冬ニ成熟スル。百千万歳是ノ如シ。断見ニ相違スルシヤ。山川互ニ出没シ。海陸動作アル。常見ニ相違スルシヤ。山林各神アリ。河海各神アリ。禾稼薬物各神アル。陰徳アルモノハ其冥助ヲ得ル。此等ミナ正知見ノ者ノ知ル処シヤ。
現代語訳
雲気を見て占う者などは言う。地上に一人が生まれると、必ず天にその人に繋がる星がある、と。漢の高祖が関中を平定した時、五つの惑星が東井宿に集まったという。後漢の光武帝が厳子陵と共に寝た時、客星が帝座の星を犯した。これらはみな虚しい話とは言えないのである。律蔵の中にも、猛光王が遊女善賢の家にいて難に遭った時、婆羅門が夜中に仰いで星の模様を見て、翌日奏上して、大王は昨夜難に遭われた、幸いに福の力があって、わずかに命を保たれた、と言った。このたぐいは多いことである。この地が万物を載せる。春と夏に生み育て、秋と冬に成熟させる。百千万年このようである。断見に反するのである。山や川は互いに現れたり沈んだりし、海と陸には動きがある。常見に反するのである。山林にはそれぞれ神があり、河や海にはそれぞれ神があり、穀物や薬草にもそれぞれ神がある。陰徳のある者はその目に見えない助けを得る。これらはみな正しい知見を持つ者の知る所である。
解説
この章句が説くこと
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『十善法語』巻第十二・不邪見戒之下一切世間往トシテ聖智見ナラヌコトハナク。一切事物一トシテ聖智見ナラヌコトハナキシヤ。且ク業相ニ因テ此人間五尺ノ小身トナリ来ル。頭上ニ蒼蒼タル者ヲ天ト名ツクル。此処ニ理アリ命アル。常ニ運転シテ端ナシ。縁アレハ此天神ヲ見ルシヤ。下ニ塊然タル者ヲ地ト名クル。此中ニ物アリ事アル。万物ヲ生育シテ止ヌ。縁アレハ此地神ヲ見ルシヤ。此天ニ日月五星アル。二十八宿諸星辰アル。悉ク万古ニ亘テ相違セヌ。天命常ナシ。善ニ与フル。断常二見ハ此処ニ超過シテ余ナキシヤ。此日月各神霊アル。諸宿曜ミナ神霊アル。陰徳アル者ハ其冥助ヲ得ル。此等ミナ得道ノ者ノ親ク見ル処シヤ。
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『十善法語』巻第十二・不邪見戒之下不邪見戒相ノ。天象ニカクアラハルル。地理ニカクアラハルル。此天象カ人事ニ随テ時時ニ変生スル。此常度此変異互ニ相依リ相随フ。トモニ断常ノ二見ニ相違ス。常度ハ常度ニシテ違ハネトモ。変ヲ具足シテ相離レヌ。変ハ変ニシテ常ニ異レトモ。常度ニ因テ彼アリ此アル。支那ニ政事ノ乱レアレハ支那ニ天変カアル。余国ニハナシ。朝鮮琉球ニ国カ治マラネハ朝鮮琉球ニ天変カアル。余国ニハナシ。此等ノ事ヲ思惟シテモ。断常ノ二見ハ一時ニ超過セネハナラヌシヤ。気候ノ遷リ。四時ノ代謝スル。草木ノ茂ル。霜雪ノ降ル。目ニ触レ耳ニ聞トシテ不邪見戒ノ相ナラヌハナキシヤ。正眼ニ看来レハ。神霊有テ存スル。此道有テ存スル。此中ニ楽事ヲ得ル。此楽ハ諸ノ賢聖ノ楽ム処シヤ。一切ノ人事。礼楽刑政モ。冠婚喪祭モ。士農工商ノ作業モ。武事文学モ。悉ク神霊有テ存スル。此道有テ存スル。有道ノ士ハ此事事物物ノ中ニ賢聖ノ楽ヲ得ルシヤ。
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説苑・辨物易に曰わく、「仰いで以て天文を観、俯して以て地理を察す」と。是の故に幽明の故を知る。夫れ天文地理、人情の効、心に存すれば、則ち聖智の府なり。是の故に古えの聖王既に天下に臨めば、必ず四時を変じ、律暦を定め、天文を考え、時変を揆り、霊台に登りて気氛を望む。故に堯曰わく、「咨(ああ)爾舜よ、天の暦数爾が躬に在り、允に其の中を執れ、四海困窮せば」と。書に曰わく、「璿璣玉衡に在りて、以て七政を斉う」と。璿璣とは此の辰、勾陳枢星なり。其の魁杓の指す所を以て二十八宿の吉凶禍福と為す。天文列舎の盈縮の占い、各々類を以て験と為す。夫れ変を占うの道は二のみ。二とは陰陽の数なり。故に易に曰わく、「一陰一陽、之を道と謂う。道なる者は、物の動くこと道に由らざるは莫し」と。是の故に一に発し、二に成り、三に備わり、四に周く、五に行わる。是の故に玄象の著明なるは、日月より大なるは莫し。変の動を察するは、五星より著るきは莫し。天の五星は気を五行に運らし、其の初めは猶お陰陽より発し、化は万一千五百二十に極まる。所謂二十八星とは、東方を角亢氐房心尾箕と曰い、北方を斗牛須女虚危営室東壁と曰い、西方を奎婁胃昂畢觜参と曰い、南方を東井輿鬼柳七星張翼軫と曰う。所謂宿とは、日月五星の宿る所なり。其の宿に在りて外内を運る者は、宮を以て名を別つ。其の根荄は皆地に発して華は天に形わる。所謂五星とは、一に歳星と曰い、二に熒惑と曰い、三に鎮星と曰い、四に太白と曰い、五に辰星と曰う。欃槍・彗孛・旬始・枉矢・蚩尤の旗は、皆五星盈縮の生ずる所なり。五星の犯す所、各々金木水火土を以て占と為す。春秋冬夏の伏見時有り、其の常を失い、其の時を離るれば則ち変異と為し、其の時を得て其の常に居れば、是を吉祥と謂う。古えに四時を主る者有り。春を主る者は張、昏にして中す、以て穀を種うべし、上は天子に告げ、下は之を民に布く。夏を主る者は大火、昏にして中す、以て黍菽を種うべし、上は天子に告げ、下は之を民に布く。秋を主る者は虚、昏にして中す、以て麦を種うべし、上は天子に告げ、下は之を民に布く。冬を主る者は昴、昏にして中す、以て斬伐・田猟・蓋蔵すべし、上は之を天子に告げ、下は之を民に布く。故に天子南面して四星の中するを視、民の緩急を知り、急なれば賦籍せず、力役を挙げず。書に曰わく、「敬んで民に時を授く」と。詩に曰わく、「物其れ有り、維れ其れ時なり」と。物の有りて絶えざる所以は、其の動くに時を以てすればなり。
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『十善法語』巻第十二・不邪見戒之下此得道感通ノ事ハ。凡愚ノ及フ所ナラヌカ。近クハ世間技芸ノ中ニ。著ヲ数ヘ卦ヲ布テ吉凶ヲ断スル。亀ヲ灼テ兆ヲ観ル。此モ心ノ感通ヨリ生シテ。此中ニ吉凶モ悔吝モ顕ルルシヤ。相者モ術ニ精シキ者ハ。面部手足黒子等ヲ相シテ。其人ノ生来ノ事ヲモ知リ。子孫ノ多少興廃ヲモ言シヤ。此モ人ノ業相カ。面部手足等ノ相ノ中ニ具足シテ隠シ得ヌシヤ。此相法ナトモ。上古仙人ノ術ト云コトシヤ。聖教ノ中ニ。末利夫人世尊ヲ供養セシ後。婆羅門カソノ手紋ヲ見テ。王者ノ后妃ト成ルヘシト云。又妙光童女ヲ相者カ見テ。此人ハ五百人ノ妻トナルヘシト云フ類。外典ノ中ハ。唐叔虞ノ手紋ニ虞ノ字アル。唐ノ太宗ノ手紋ニ世民ノ字アル。宋ノ仲子カ手紋ニ為魯夫人ノ字アル。魯ノ季氏カ手紋ニ友ノ字アリシ類シヤ。此手紋人相ノ中ニ禍福ヲ顕スモ面白キコトシヤ。
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『十善法語』巻第十・不邪見戒之上又喩ヘテ云ハ。賢君明主ハ忠臣ヲ信任シ。諫言ヲ用ル如クシヤ。漢ノ高祖カ諫ニ従フコト流ノ如ク。唐ノ太宗ノ魏徴カ苦諫ノ言ヲ用ヒアリシ類。ソノ如ク。正法ノ因縁アル者ハ必ス不邪見戒ニ随順スルシヤ。此ニ反シテ宿福ナキ者ハ。智者モ愚者モ。学者モ不学者モ仏アルコトヲ信セヌ。法アルコトヲ信セヌ。聖賢アルコトヲ信セヌ。神祇有コトヲ信セヌ。善悪報応有コトヲ信セヌシヤ。
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『十善法語』巻第十二・不邪見戒之下又前漢于定国カ父于公カ。此門ヨリ駟馬ノ車ヲ出スヘキソト。漢鄧禹カ吾百万ノ兵ニ将トシテ。未嘗テ妄ニ一人ヲ殺サス。後世必興ル者有ント。于公カ後ハ于定国カ封侯ヲ得ル。鄧禹カ後ハ鄧皇后カ国母ト為タシヤ。此類古今多キシヤ。正法ノ東流セヌ已前モ。道ハカクレスシヤ。仏出世ニモアレ。仏未出世ニモアレ。蔽テ蔽ハレヌシヤ。又鬼神ト云モノ。此モ蔽テ蔽ハレヌシヤ。隠シテカクサレヌシヤ。古人カ幽ニシテ鬼神トナリ。明ニシテ人トナルト云モ。且ク人間肉眼ヨリ云言葉シヤ。三界夢裡ノ差別。何ノ処カ幽暗ナラサルヘク。法性等流ノ縁起。何ノ処カ顕明ナラサルヘキシヤ。