十善法語 / 巻第十二・不邪見戒之下
或ハ未タ教ヘヌ作業ヲ作ス小兒モ有ル。孔子ノ遊戲ニ爼豆ヲ陳ネ。禮容ヲ設ル類シヤ。或ハ生來見聞セヌ事ヲ云出ス小兒モアル。晉ノ羊叔子カ乳母ニ金環ヲ求メ。鮑太玄カ前世井中ニ死セルコトヲ云類シヤ。此等ハ自ラ知ルノミナラス。父母兄弟乳母等ノ目ニモ見ユルコトシヤ。具ニ憶念スルモノハ聖道ヲ得ル基トナル。試ニ六七箇ノ小兒ヲ親ク撫育教導シ看ヨ。其中志性ノ差別。作業ノ差排。此業力隨逐シテ免レ得ヌ處有コトヲ知ルヘキシヤ。
新字:或ハ未タ教ヘヌ作業ヲ作ス小児モ有ル。孔子ノ遊戯ニ爼豆ヲ陳ネ。礼容ヲ設ル類シヤ。或ハ生来見聞セヌ事ヲ云出ス小児モアル。晋ノ羊叔子カ乳母ニ金環ヲ求メ。鮑太玄カ前世井中ニ死セルコトヲ云類シヤ。此等ハ自ラ知ルノミナラス。父母兄弟乳母等ノ目ニモ見ユルコトシヤ。具ニ憶念スルモノハ聖道ヲ得ル基トナル。試ニ六七箇ノ小児ヲ親ク撫育教導シ看ヨ。其中志性ノ差別。作業ノ差排。此業力随逐シテ免レ得ヌ処有コトヲ知ルヘキシヤ。
書き下し
或ハ未タ教ヘヌ作業ヲ作ス小児モ有ル。孔子ノ遊戯ニ爼豆ヲ陳ネ。礼容ヲ設ル類シヤ。或ハ生来見聞セヌ事ヲ云出ス小児モアル。晋ノ羊叔子カ乳母ニ金環ヲ求メ。鮑太玄カ前世井中ニ死セルコトヲ云類シヤ。此等ハ自ラ知ルノミナラス。父母兄弟乳母等ノ目ニモ見ユルコトシヤ。具ニ憶念スルモノハ聖道ヲ得ル基トナル。試ニ六七箇ノ小児ヲ親ク撫育教導シ看ヨ。其中志性ノ差別。作業ノ差排。此業力随逐シテ免レ得ヌ処有コトヲ知ルヘキシヤ。
現代語訳
あるいは、まだ教えていない振る舞いをする子どももいる。孔子が遊びに祭器を並べ、礼の作法を設けたようなものである。あるいは、生まれてから見聞きしたことのない事を言い出す子どももいる。晋の羊叔子が乳母に金の環を求め、鮑太玄が前世で井戸の中で死んだことを言ったようなものである。これらは自分で知るだけでなく、父母・兄弟・乳母などの目にも見えることである。詳しく思いめぐらす者は、聖なる道を得る基となる。試みに六、七人の子どもを親しく育て導いてみなさい。その中の志や性質の違い、振る舞いの違いに、この業の力がつき従って免れられない所があることを知るはずである。
解説
この章句が説くこと
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『十善法語』巻第十二・不邪見戒之下此飲食アリ。此衣服アリ。此寒温。此昼夜。此睡覚有テ生長スル。父母等ノ養育ニ因テ次第ニ生長スル。習ハセニ随テ種種ノ事ヲ覚ユル。其覚ユルニハ遅速アル。利鈍アル。事ニモ理ニモ得テト不得手トアル。此般ノコトモヨク思惟スルモノハ聖道ヲ得ル基トナル。或ハ一類ノ心識明了ナル者ハ。此小児ノ未タ情欲発セヌ時ニ不思議ノ事カ有シヤ。或ハ過去世慣習ノ事ヲ髣髴トシテ思ヒ浮ル。或ハ未タ知ス。世ニ触レヌ歓遊楽戯芸術ナトニ心ヲ寄ル。或ハ此世ニ未タ対面セヌ人物ナトヲ心内ニ思量シ。或ハ未タ遊履セヌ処ノ山川聚落ノ夢中ニ現スル。或ハ誰教フルトナキ志ノ起ル。此等ノ人知ラヌ処ニ。業果ノ誤リナキコトヲ自知スルシヤ。
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『十善法語』巻第十一・不邪見戒之中出生ノ後。父母ノ乳養飲食衣服等ノ差別。家ノ貴賤。身ノ貧富。作業ノ高下。交友ノ親疎。身ノ労逸。心ノ憂喜。芸ノ巧拙。力ノ强羸等。皆目ニ見ル通リシヤ。此中居ハ気ヲウツシ。養ハ体ヲウツス。乳哺飲食衣服等ノソタテニ由テ。身ノ壮健羸劣モ分ルレトモ。其大体ハ業相成熟シタコトハ。改マラヌモノシヤ。看ヨ。親戚心ヲ尽シテ育ル小児ニ病身短命ナル者モアルシヤ。継母ナトノ憎ミ恚ンテ育ル小児ニ壮健長寿ナルモノモ有ルシヤ。周ノ先ノ棄ハ母カ林中水上隘巷ニ棄レトモ。鳥獣カ覆育スト云。徐ノ偃王ハ母カ水浜ニ棄置クニ。犬来テ覆育スト云シヤ。此類古今少カラヌシヤ。
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『十善法語』巻第十一・不邪見戒之中習与性成ル。父母師長教導ノ力ニ由テ。善ヨリ善ニ移レトモ。其大抵ハ業相成熟シ来タコトハ。遷サレヌモノシヤ。堯ノ子ニ丹朱。舜ノ子ニ商均カ出ル。又瞽瞍カ子ニ舜モ有。鯀カ子ニ禹カ有ルト云コトシヤ。今日現在ニナス事慎ムヘキシヤ。智者ハ善悪ノ業。毫釐差ナキコトヲ知ル。君ニ忠ヲ竭シ。父母ニ孝ヲ尽シテ。君親ノ歓ヲ得ルトキカ。直ニ我福徳ノ定ル時シヤ。君ヲ蔑ニシ。父母ヲ蔑ニシ。師教ニ悖テ。君父師僧ノ憂戚ヲ生スル時カ。直ニ我悪業苦報ノ成就スル時シヤ。後学ヲ教導シテ其慧解ヲ生セシムル時カ。直ニ我生生ノ処。慧業ノ成スル時シヤ。鳥獣ヲ殺スニ。彼カ苦ノ至極スル時カ。直ニ我生生天折ノ報ノ成就スル時シヤ。
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『十善法語』巻第十二・不邪見戒之下善悪報応ノ空シカラヌコトハ。古今聖賢ノ通義シヤ。易ニ積善ノ家ニハ必ス余慶アリ。積不善ノ家ニハ必ス余殃アリト。看ヨ。世間俗中スラカクアルシヤ。此言カ虚ナラスハ。業果アルモ信セラルル。正知見ニモ近カルヘキシヤ。仮令未タ三世アルコトヲ知ル地位ニ至ラスドモ。邪見トハ云レヌシヤ。又孔子ノ家語ニ。子貢問於孔子曰。死者有知乎。将無知乎。子曰。吾欲言死之有知。将恐孝子順孫妨生以送死。吾欲言死之無知。将恐不孝之子弃其親不葬。賜欲知死者有知与無知。非今之急。後自知之トアル。此等面白キコトシヤ。経中ニモ世尊ハ十八難ヲ答タマハストアル。死後去コトアリ去コトナキハ。自知セシムヘキ趣シヤ。
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『十善法語』巻第五・不綺語戒十善ノ縄墨ヲ以テ看レハ。此ハ宗周盛徳ノ一事ト云ヘシ。忠臣ノ幼主ニ事フル。カク有ヘク。明君ノ諫ヲ用フル。カク有ヘキシヤ。凡徳ヒトリ立セズ。輔助有テ成立スルシヤ。事自ラ成セス。縁助有テ成立スルシヤ。幼シテ邪僻ナラス。長シテ華奢ナラヌ。父母師傅ノ教導ソノ功少カラヌシヤ。唯国ニ直臣得難ク。家ニ良佐得難ク。賢聖トイヘトモ過モ有マシキモノテナイ。直言ヲ聞テ自ラ過ヲ知ヘク。過ヲ知テ改ルカ聖賢ノ志シヤ。
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『十善法語』巻第十一・不邪見戒之中初託胎ノ姿ハ至テ微昧ナレトモ。此一生ノ苦楽昇沈。芸ノ巧拙。運ノ强弱。ミナ此処ニ具足スルシヤ。能能思惟スレハ面白キコトシヤ。胎内ノ五位。皆過去世ノ業相ノ通リニ成熟スル。十月満シテ生レ出ル。父母モ何底ノ物カ生レ出ルコトヲ知ラス。其子モ何底ノ処ニ出ルコトヲ知ラス。唯業力装飾シテ此一期ノ報身ヲ成スコトシヤ。此中少分ハ。其父母ノ善悪現縁ニ由テ。其子ノ相好智慧モ転変シ。其母ノ行住坐臥。飯食衣服。志性作業ニ由テ。其子ノ身相ノ好悪康羸モ転スヘキナレトモ。大抵ハ業相自カラ一定シテ此世ニ出生スルシヤ。