十善法語 / 巻第十二・不邪見戒之下
此身カ如是世界ニ在ル間ニ。或ハ水火風難ニ遇フ。饑饉鬪諍ナトニ逢。王難賊難ニ逢フ。臣タル者ハ佞者ニ隔ラレテ。忠義有ナカラ身ヲ亡シ家ヲ敗ル。君タル者ハ姦臣ニ欺レテ。國ヲアヤマリ身ヲ危クスル。妻子眷屬。朋友隣里ノ間。十ニ八九ハ憂惱シヤ。心ニ適ハヌシヤ。或ハ大ニモアレ小ニモアレ。敵ト云者モ出來ル。古書ニモ女無美惡居宮見妬。士無賢不肖。入朝見疑トアル。威勢アル家ハ鬼神其短ヲ求ル。才能アル士ハ衆人憎ミ謗ル。古今同樣シヤ。此事ヲ決徹シテ疑ハネハ。聖智見ヲ得ル基トナル。斷常二見ノ深坑ハ此中ニ超過スル。愚蒙ノ者ノ習トシテ。世ヲ怨ミ人ヲ怨ミ自ラ愁ヘ他ヲ惱ス。此ヲ迷ト云。
新字:此身カ如是世界ニ在ル間ニ。或ハ水火風難ニ遇フ。饑饉闘諍ナトニ逢。王難賊難ニ逢フ。臣タル者ハ佞者ニ隔ラレテ。忠義有ナカラ身ヲ亡シ家ヲ敗ル。君タル者ハ姦臣ニ欺レテ。国ヲアヤマリ身ヲ危クスル。妻子眷属。朋友隣里ノ間。十ニ八九ハ憂悩シヤ。心ニ適ハヌシヤ。或ハ大ニモアレ小ニモアレ。敵ト云者モ出来ル。古書ニモ女無美悪居宮見妬。士無賢不肖。入朝見疑トアル。威勢アル家ハ鬼神其短ヲ求ル。才能アル士ハ衆人憎ミ謗ル。古今同様シヤ。此事ヲ決徹シテ疑ハネハ。聖智見ヲ得ル基トナル。断常二見ノ深坑ハ此中ニ超過スル。愚蒙ノ者ノ習トシテ。世ヲ怨ミ人ヲ怨ミ自ラ愁ヘ他ヲ悩ス。此ヲ迷ト云。
書き下し
此身カ如是世界ニ在ル間ニ。或ハ水火風難ニ遇フ。饑饉闘諍ナトニ逢。王難賊難ニ逢フ。臣タル者ハ佞者ニ隔ラレテ。忠義有ナカラ身ヲ亡シ家ヲ敗ル。君タル者ハ姦臣ニ欺レテ。国ヲアヤマリ身ヲ危クスル。妻子眷属。朋友隣里ノ間。十ニ八九ハ憂悩シヤ。心ニ適ハヌシヤ。或ハ大ニモアレ小ニモアレ。敵ト云者モ出来ル。古書ニモ女無美悪居宮見妬。士無賢不肖。入朝見疑トアル。威勢アル家ハ鬼神其短ヲ求ル。才能アル士ハ衆人憎ミ謗ル。古今同様シヤ。此事ヲ決徹シテ疑ハネハ。聖智見ヲ得ル基トナル。断常二見ノ深坑ハ此中ニ超過スル。愚蒙ノ者ノ習トシテ。世ヲ怨ミ人ヲ怨ミ自ラ愁ヘ他ヲ悩ス。此ヲ迷ト云。
現代語訳
この身がこのような世界にある間には、あるいは水・火・風の災難に遭い、飢饉や争いなどに遭い、王の咎めや賊の難に遭う。臣である者は、へつらう者に隔てられて、忠義がありながら身を滅ぼし家を潰す。君である者は、邪な臣に欺かれて、国を誤り身を危うくする。妻子・親族や、友人・隣近所の間でも、十のうち八九は憂い悩みである。心にかなわないのである。あるいは大きいにせよ小さいにせよ、敵という者も出てくる。古い書にも、女は美しいか醜いかにかかわらず、宮中にいれば妬まれる。士は賢いか愚かかにかかわらず、朝廷に入れば疑われる、とある。権勢のある家は鬼神がその欠点を探す。才能のある士は多くの人が憎み謗る。古今同じ様子である。このことをとことん見極めて疑わなければ、聖なる智見を得る基となる。断見と常見の二つの見方の深い穴は、この中で超える。愚かな者の習いとして、世を怨み、人を怨み、自ら嘆き、他人を悩ませる。これを迷いという。
解説

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