十善法語 / 巻第十二・不邪見戒之下
此肉血臭穢ノ餘分カ地上ニ荻薄ノ生ル如ク。頭上ニ茂リ生スルヲ髪ト云。地上ニ石コラノ有ル如ク。手足十指ノ端ニ堅マリ布クヲ爪ト云。此頭上ノ髪カ荻薄ノ亂ルル如ク。藤蔓ノハヒマトハルル如クナルニ由テ。收メ束ネネハナラヌ。此二十指ノ爪カ。石コラノ尖リ立ツ如ク。茨ノ針ノ物ニ掛ル如クナルニ因テ。剪調ヘネハナラヌ。此等收メ束ネタル姿ヲ見テ。本體ノ髪ヲ忘レ居ル。剪調ヘタル形ヲ見テ。本體ノ爪ヲ忘レ居ヲ迷ト云。言ハハ糞中ノ蟲ノ自ラ不淨ナルヲ知ラヌ如ク。蚯蚓螻蟻ノ自ラ醜キコトヲ知ラヌ類シヤ。
新字:此肉血臭穢ノ余分カ地上ニ荻薄ノ生ル如ク。頭上ニ茂リ生スルヲ髪ト云。地上ニ石コラノ有ル如ク。手足十指ノ端ニ堅マリ布クヲ爪ト云。此頭上ノ髪カ荻薄ノ乱ルル如ク。藤蔓ノハヒマトハルル如クナルニ由テ。収メ束ネネハナラヌ。此二十指ノ爪カ。石コラノ尖リ立ツ如ク。茨ノ針ノ物ニ掛ル如クナルニ因テ。剪調ヘネハナラヌ。此等収メ束ネタル姿ヲ見テ。本体ノ髪ヲ忘レ居ル。剪調ヘタル形ヲ見テ。本体ノ爪ヲ忘レ居ヲ迷ト云。言ハハ糞中ノ虫ノ自ラ不浄ナルヲ知ラヌ如ク。蚯蚓螻蟻ノ自ラ醜キコトヲ知ラヌ類シヤ。
書き下し
此肉血臭穢ノ余分カ地上ニ荻薄ノ生ル如ク。頭上ニ茂リ生スルヲ髪ト云。地上ニ石コラノ有ル如ク。手足十指ノ端ニ堅マリ布クヲ爪ト云。此頭上ノ髪カ荻薄ノ乱ルル如ク。藤蔓ノハヒマトハルル如クナルニ由テ。収メ束ネネハナラヌ。此二十指ノ爪カ。石コラノ尖リ立ツ如ク。茨ノ針ノ物ニ掛ル如クナルニ因テ。剪調ヘネハナラヌ。此等収メ束ネタル姿ヲ見テ。本体ノ髪ヲ忘レ居ル。剪調ヘタル形ヲ見テ。本体ノ爪ヲ忘レ居ヲ迷ト云。言ハハ糞中ノ虫ノ自ラ不浄ナルヲ知ラヌ如ク。蚯蚓螻蟻ノ自ラ醜キコトヲ知ラヌ類シヤ。
現代語訳
この肉と血の臭い汚れの余りが、地上に荻やススキが生えるように、頭の上に茂り生えるのを髪という。地上に石ころがあるように、手足の十本の指の先に固まって並んでいるのを爪という。この頭の髪が、荻やススキが乱れるように、藤のつるが這いまとわりつくようであるから、収め束ねなければならない。この二十本の指の爪が、石ころが尖って立つように、茨の針が物に引っかかるようであるから、切りそろえなければならない。こうして収め束ねた姿を見て本体の髪を忘れ、切りそろえた形を見て本体の爪を忘れているのを迷いという。言うならば、糞の中の虫が自分の不浄を知らないように、ミミズやケラやアリが自分の醜さを知らないようなものである。
解説
この章句が説くこと
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『十善法語』巻第十二・不邪見戒之下此衆不浄聚ノ外面。一重ノ引ツラナリタルヲ。薄皮厚皮ト云。濁水ノ泡ノ如ク。豆腐ノユバノ如クシヤ。此一重ノ皮カ裏ミ覆テ。且ク内ノ穢シキヲ蔵スヲ。人間ノ有様トス。世ノ軽躁ナル者カ。其皮ノミヲ見テ。膿血諸ノ不浄ヲ憶念セヌヲ迷ト云。此内外ノ臭穢ナル物ヲ。外ノ荘厳具。外ノ香気ナトヲ仮テ。且クマキラハシ置クヲ。通途世間人間ノアリサマトス。軽躁ナル者カ此仮借ノ荘厳具香気ハカリヲ見テ。本体ノ臭穢ヲ憶念セヌヲ迷ト云。此外面ノ薄皮。内ノ肉血ト相映シテ。色ノ黒白分ルル。此唯上ツラノ身色ノミヲ見テ。本体ノ肉血薄皮厚皮ヲ忘レ居ルヲ迷ト云シヤ。
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『十善法語』巻第十二・不邪見戒之下此五尺ノ身カ暫クハ健カニ。暫ハ病悩シ。平癒シテ壮健ニ復ルカト思ヘハ。マタ諸ノ疾病ヲ生スル。日ヲ送リ月ヲ送リ。歳ヲ累ネテ。何事カ有ト思ヘハ。終ニ衰老ニ帰スル。膚ハ皺ム。歯ハ落ル。鬚髪ハ白クナル。腰ハカカム。目ハ暗クナル。耳ハ遠クナル。此ニ極タコトソ。タトヒ智者ノ天地古今ノ理ニ通達スルモ此ヲ免レ得ヌ。勇者ノ力万鈞ヲ挙ケ。一人千人ニ当ルモ。此ヲ免レ得ヌ。此事ヲ決徹シテ疑ハネハ。聖智見ヲ得ル基トナル。断常二見ノ深坑ハ此中ニ超過スル。今日且ク少壮ナルママニ。諸ノ戯笑遊興ニ心ヲヨセ。悠然トシテ月日ヲ送ヲ。迷ト云シヤ。
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『十善法語』巻第十二・不邪見戒之下先カウ憶念セヨ。現今我五尺ノ形骸ハ。肉血ノオシマロカレタ物シヤ。生シ出ル時ヨリ死シ去ル後ノ後マテ。膿血不浄臭穢ノ日夜ニ流レ出ル物シヤ。此ニ極タコトシヤ。タトヒ張儀蘇秦カ弁ヲ以テサナキト云ヒ回シテモ。言ヒ消レヌシヤ。マツ此ヲ決徹シテ疑ハネハ。聖智見ヲ得ル基トナル。断常二見ノ深坑ヲ超過スル。一切ノ名利ハ此処ニ脱却スル。一切ノ我慢勝他ハ此処ニ脱却スル。一切ノ五欲執着ハ此処ニ解脱スルシヤ。此名利五欲我相ヲ脱スルトキ。雲霧霽テ朗月ヲ見ル如ク。人道モ斯ニ明ニ天命モ斯ニ明ナリ。実智慧ノ光明沙界ヲ照スシヤ。高遠ナラスシテ而モ誠ニ高遠ナルコトシヤ。
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『十善法語』巻第十二・不邪見戒之下此事ヲ決徹シテ疑ハネハ。聖智見ヲ得ル基トナル。断常二見ノ深坑ハ此中ニ超過スル。名利五欲我慢勝他ハ掃尽シテ繊芥ヲ留メヌ。世外ニ飄然トシテ。実ニ高遠ナル場処ソ。此ヲ忘テ外ノ人交リ。世ノ栄衰。時ノ威勢。子孫眷属等ニマキレ居テ。徒ニ時候ヲ費シ。今且ク身壮健ナルヲ恃テ。諸ノ戯笑。遊ヒ事ニ心ヲヨセ。悠然トシテ月日ヲ過スヲ。迷ト云シヤ。
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『十善法語』巻第九・不瞋恚戒自ラ迷フ者ハ見ルマシキ物ヲ見ル。思フマシキ事ヲ思フ。此心境界ヲ逐ヒ。境界心ヲ役使シ。此四大ヲ以テ自身ヲ造立シ。安排布置スル。現今ノ指爪髪毛皮肉筋骨五臓六腑ナトト云類。皆地大ニ属ス。此ハ人間死スレハミナ朽テ土ニ帰ス。迷者ノ習ヒ活テ動キ。痛痒ヲ覚スレハ。是ヲ我物ト思ヒ。日夜ニ保着スレトモ。唯コレ生縁未タ尽サル間ノ妄想ノミニシテ。元来土塊ニ異ナラヌシヤ。一切山川大地草木叢林ヲ以テ自身トスト説ハ。広大ナル事ヲ言出スヤウナレトモ。元来此地大ヲ自身ト思フヨリ看ヨ。遠クハナキシヤ。平生二六時中正憶念スレハ。此境界ニ相違セヌシヤ。
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『十善法語』巻第十二・不邪見戒之下此眼アレハ色カ分ルル。全ク不邪見戒ノ姿シヤ。此耳アレハ声カ分ルル。全ク不邪見戒ノ姿シヤ。此鼻アレハ香カ分ルル。此舌アレハ味カ分ルル。此身アレハ触カワカルル。此意アレハ善悪邪正是非得失ヲ知ル。全ク不邪見戒ノ姿シヤ。此等ノ事ヲ具ニ憶念セヨ。聖道ヲ得ル基本シヤ。一切ノ色ハ眼ニ対シテ其光彩ヲアラハス。眼根ハ色ヲ得テ其力用アル。此業有テ生盲トナル。色ノ光彩。コノ人ノ為ニハ亀毛兎角ノ如シヤ。此業有テ明目ヲ得ル。離婁カ如キモ世世其人アルシヤ。色ノ光彩。此人ノ為ニハ麁細分明シヤ。此色眼ヲ助テ。此明更ニ增上スル。此眼神霊ノ顕ルル処。法性ノ顕ハルル処シヤ。法華経ノ中ニ父母所生ノ眼悉見三千界ト云モ。其時節ノ有コトソ。