十善法語 / 巻第十一・不邪見戒之中
此法ト云フハ。羸劣ノ法デハナイ。諸佛ノ無上正覺ノ法シヤ。夢ヲ以テ譬ヘハ。夢中ニ五年十年ノ事ヲ見ル。覺來レハ暫時ノ間シヤ。元來夢ト云モノハ。想念ノ所現ナレハ。世間ノ事實ニ當テ其修短ヲ云レヌモノシヤ。中有モ此ニ類シテ唯業相轉變ノ久近ナレハ。現今人間世界ノ年月ニ當ラレヌコトシヤ。此人間世界ノ日月年時ハ。唯是人間世界ノ日月年時ニシテ。中有ノ修短テハナイ。中有ノ修短ハ。唯是中有ノ修短ニシテ。人間世界ノ日月年時デハナイ。一日二日カ短テモナク。十年二十年カ修テモナク。緣來ラレザレハ一刹那ノ間ニ數十年ヲ經ルシヤ。緣來レハ數十年モ一刹那ニ攝シ來テ卽チ生スルシヤ。元來業相ノ轉變ハ實體ナキモノシヤ。中有ノ長短モ。現今ノ長短モ。電光ヲ尺トシテ陽炎ヲハカル如クシヤ。
新字:此法ト云フハ。羸劣ノ法デハナイ。諸仏ノ無上正覚ノ法シヤ。夢ヲ以テ譬ヘハ。夢中ニ五年十年ノ事ヲ見ル。覚来レハ暫時ノ間シヤ。元来夢ト云モノハ。想念ノ所現ナレハ。世間ノ事実ニ当テ其修短ヲ云レヌモノシヤ。中有モ此ニ類シテ唯業相転変ノ久近ナレハ。現今人間世界ノ年月ニ当ラレヌコトシヤ。此人間世界ノ日月年時ハ。唯是人間世界ノ日月年時ニシテ。中有ノ修短テハナイ。中有ノ修短ハ。唯是中有ノ修短ニシテ。人間世界ノ日月年時デハナイ。一日二日カ短テモナク。十年二十年カ修テモナク。縁来ラレザレハ一刹那ノ間ニ数十年ヲ経ルシヤ。縁来レハ数十年モ一刹那ニ摂シ来テ即チ生スルシヤ。元来業相ノ転変ハ実体ナキモノシヤ。中有ノ長短モ。現今ノ長短モ。電光ヲ尺トシテ陽炎ヲハカル如クシヤ。
書き下し
此法ト云フハ。羸劣ノ法デハナイ。諸仏ノ無上正覚ノ法シヤ。夢ヲ以テ譬ヘハ。夢中ニ五年十年ノ事ヲ見ル。覚来レハ暫時ノ間シヤ。元来夢ト云モノハ。想念ノ所現ナレハ。世間ノ事実ニ当テ其修短ヲ云レヌモノシヤ。中有モ此ニ類シテ唯業相転変ノ久近ナレハ。現今人間世界ノ年月ニ当ラレヌコトシヤ。此人間世界ノ日月年時ハ。唯是人間世界ノ日月年時ニシテ。中有ノ修短テハナイ。中有ノ修短ハ。唯是中有ノ修短ニシテ。人間世界ノ日月年時デハナイ。一日二日カ短テモナク。十年二十年カ修テモナク。縁来ラレザレハ一刹那ノ間ニ数十年ヲ経ルシヤ。縁来レハ数十年モ一刹那ニ摂シ来テ即チ生スルシヤ。元来業相ノ転変ハ実体ナキモノシヤ。中有ノ長短モ。現今ノ長短モ。電光ヲ尺トシテ陽炎ヲハカル如クシヤ。
現代語訳
この法というのは、弱く劣った法ではない。諸仏の無上の正しい悟りの法である。夢でたとえれば、夢の中で五年十年の事を見ても、覚めてみればしばらくの間である。もともと夢というものは想念の現したものであるから、世間の事実に当てはめてその長短を言うことはできないものである。中有もこれに類して、ただ業のありさまの移り変わりの長い短いであるから、今の人間世界の年月に当てはめることはできないのである。この人間世界の日月や年や時は、ただ人間世界の日月年時であって、中有の長短ではない。中有の長短は、ただ中有の長短であって、人間世界の日月年時ではない。一日二日が短いのでもなく、十年二十年が長いのでもない。縁が来なければ一刹那の間に数十年を経るのである。縁が来れば数十年をも一刹那に収め取って、すなわち生まれるのである。もともと業のありさまの移り変わりには実体がないものである。中有の長短も、今の長短も、稲妻を物差しにして陽炎を測るようなものである。
解説
この章句が説くこと
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『十善法語』巻第十一・不邪見戒之中余経ニ或ハ久ヲ歴ルモ有ルト云コトシヤ。伝戒相承ハ。此二文共ニ障礙セヌシヤ。法ノ当相。諸ノ異説ヲ合シテ一縁起ノ相シヤ。五年十年カ修テモナク。一日二日カ短テモナイ。唯是夢中ノ修短シヤ。面白キコトシヤ。過去現在未来ノ三世モ。唯コレ妄心夢中色色ト現スルノミニテ。元来実体ナキシヤ。此等ノ事モ能思惟スレハ。廓然トシテ開解セネバナラヌ。一日二日カ短クモナキコトヲ知レハ。今日モ法ト成リ来ルシヤ。明日モ法ト成リ来ルシヤ。夜モ法ト成リ来ルシヤ。昼モ法ト成リ来ルシヤ。刹那ノ間モ法ト成リ来ルシヤ。五年十年百年千年カ修クモナキコトヲ知レハ。五年十年モ法ト成リ来ルシヤ。百年千年モ法ト成リ来ルシヤ。未来ノ未来際マテモ法ト成リ来ルシヤ。
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『十善法語』巻第十一・不邪見戒之中夢中ニ百里千里ノ事ヲ見モ。唯コレ方寸ノ中ノ転変ト云ヘキコトシヤ。此方寸モ元来規度ヲ以テ度ヘキナラネハ。方寸カ近キテモナク。百里千里カ遠キテモナイ。中有モ如是。業力ノ牽処ハ百里千里モ唯是眼前シヤ。因縁ナキトコロハ咫尺モ千里シヤ。眼前カ近テモナク。百里千里カ遠テモナイ。現今ノ境界モ。中有ノ境界モ。元来游糸ヲノヘテ春風ヲ繋ク如クシヤ。其中有ノ眼根ハ。天眼ノ如ク障礙ノ外ヲ視ルトアル。不思議ナルモノシヤ。眼根ニ見ユル処カ生処ノ国シヤ。其国土ノ中ニ。次生ノ禄位官爵。君臣朋友。苦楽昇沈カ定ルシヤ。此国土ト中有ノ念相ト。一ト云ヘカラス。異ト云ヘカラス。国土ノアル処ハ即念ノ生スル処。念ノ生スル処カ即生処シヤ。一期ノ苦楽昇沈シヤ。
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『十善法語』巻第十一・不邪見戒之中此中有ノ法トシテ。仮令千里万里ヲ隔ツルモ。其有縁ノ生処ヲ見ル。其声ヲ聞。仮令中間ニソコハクノ国土アリ。山川聚落アルモ。皆畢竟シテ亀毛兎角ノ如クシヤ。其中間ニ百千ノ衆庶。万億ノ人民有モ。皆畢竟シテ亀毛兎角ノ如クシヤ。唯其因縁ノ在ル処カ我眼ノオヨフ処ワカ眼ノ及トコロカ我生死ノアル処シヤ。譬ニテ云ハ。此処ニ安臥シテ夢中ニ出羽奥州ノ事ヲ見ル。長崎対馬ノ事ヲモミル。其中間ノ山川聚落人物ハ。何ホト有テモ亀毛兎角ノ如クシヤ。縁起元来不可思議シヤ。千里万里カ遠テモナク。隣里郷党カ近テモナイ。元来法ハ遠近ヲ離レタルモノシヤ。面白キコトシヤ。
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『十善法語』巻第十一・不邪見戒之中十方世界種種国土有ルモ。妄心夢中ニ色色ト現スルハカリテ。実体ナキコトシヤ。此モ能思惟スレハ。廓然トシテ開解セネハナラヌシヤ。百里千里カ遠クナキコトヲ知レハ。支那天竺モ法ト成リ来ルシヤ。新羅百済モ法トナリ来ルシヤ。見ヌモロコシカ法トナリ来レハ。名ヲ聞ヌ世界モ法トナリ来ルシヤ。眼前咫尺カ近キデモナキコトヲ知レハ。隣里郷党モ法ト成リ来ルシヤ。五尺ノ小身モ法トナリ来ルシヤ。目ニ見ヱヌ微塵極微モ法トナリ来ルシヤ。此法ト云ハ羸劣ノ法デハナイ。諸仏ノ無上正覚ノ法シヤ。
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『十善法語』巻第十一・不邪見戒之中印子ヲ以テ泥ニ印スル時。印スルト下ヘウツルトカ。同一時同一相シヤ。中有モ此通ニテ。此生縁ノ尽ル時カ直ニ中有ノ初ニシテ。同一時同一相シヤ。泥ハ印子ニアラス。印子ハ泥ニアラズ。泥ト印子ト其体別ナレトモ。必ス印子ノ模様カ直ニコレ泥ノ模様シヤ。ソノ如ク。此ニ作リナセシ業相ハ中有ニ非ス。彼ニ顕ルル中有ノ姿ハ現在ノ善悪業相ニアラス。今日ノ業相ト中有ノ姿ト。其体別ナレトモ。現今ノ善悪業相カ直ニ是中有ノ姿シヤ。印子ト泥形トハ。ソノ模様文ハ一ナレトモ。一ト云ヘカラス。其泥形ト印子トハ。異ナレトモ。異ト云ヘカラス。彼中有ノ形ト此業相トハ。必ス一様ナレトモ。一ト云ヘカラス。中有ハ中有。業相ハ業相ナレトモ。異ト云ヘカラスシヤ。
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『十善法語』巻第十一・不邪見戒之中此死時ノ刹那ト。彼中有ノ姿ト。ソノ同時ニ成スルコトヲ。聖教ニ喩ヲ以テ明シテ。称ト錘トノ低昂スル如クトアル。秤ヲ以テ物ノ軽重ヲ定ムル時。右昂レハ左低ル。左昂レハ右低ル。低ト昂ト必ス同時シヤ。此生死去来ノ相モソノ如ク。此ニ死スル時カ彼ニ中有ノ顕ハルル時シヤ。此中有ヨリ彼生有ニ赴クコトモ。亦印子ノ泥ヲ印スル如クシヤ。中有ノ念相ノ如ク。彼生有ヲ成スル。此モ亦称錘ノ低昂スル如ク。此中有ノ滅スルトキカ直ニ彼生有ノ最初シヤ。此死有ハ心識晦劣ナレトモ。無量ノ善悪業煩悩無明ヲ具テ彼中有ニウツルコト。大船ニ衆多ノ器財穀物ヲ積テ纜ヲ解ク如クシヤ。此中有ハ色身幽微ナレトモ。亦無量ノ善悪業煩悩無明ヲ具テ彼生有ニ赴クコト。大船ノ衆多器財穀物ヲ積貯テ。風帆ニマカセ往カ如クシヤ。倶舎瑜伽等ノ所説ニ。中有ノ人趣ニ赴ク。必ス七日ノ内ナリ。若ソノ時父母ノ因縁イマタ熟サレハ。死シテ復生ス。此中有ノ寿命ハ七日ニ極ル。乃至七七四十九日ニハ決定シテ生ヲ受ルトアル。