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十善法語 / 巻第十一・不邪見戒之中

是ハ佛滅後ノコト。付法藏傳等ニアル緣事シヤ。天竺國ニ。夫婦相敬愛シテ情厚キ者有リ。其夫少壯ノ年ニ命終ス。此妻殊ニ悲ニ堪ズ。亡夫ノ爲ニ脇尊者ヲ請シテ供養ス。ソノトキ鼻ヨリ蟲出タルヲ。庭上ニ投シテ踏蹂ラントス。尊者云。且ク待テ。此ハ因緣ノ有コトソト。女人カ云。コノ七八日ノ間。我鼻ノ內ヲ惱ス。今幸ニ出ト。尊者再ヒ告ク。此ハ汝カ夫ノ後身ナリ。彼常ニ汝カ容色ヲ愛シ。身心繋縛セリ。其死セシ日ヨリ汝カ鼻ノ中ニ生ス。此蟲ヲ殺サハ。汝カ身ニ灾有ヘク。其罪モ深カルヘシト。因ニ神力ヲ以テ此蟲ノ本形ヲ顯シ見セシムト云コトカアル。此モ心ノ趣ク處ニ生ヲ受タモノシヤ。前ハ已カ面ニ生シ。此ハ妻ノ面ニ生ヲ受ル。受生ノ處ハ別ナレトモ。生死緣起ノ理ハ一シ。

新字:是ハ仏滅後ノコト。付法蔵伝等ニアル縁事シヤ。天竺国ニ。夫婦相敬愛シテ情厚キ者有リ。其夫少壮ノ年ニ命終ス。此妻殊ニ悲ニ堪ズ。亡夫ノ為ニ脇尊者ヲ請シテ供養ス。ソノトキ鼻ヨリ虫出タルヲ。庭上ニ投シテ踏蹂ラントス。尊者云。且ク待テ。此ハ因縁ノ有コトソト。女人カ云。コノ七八日ノ間。我鼻ノ内ヲ悩ス。今幸ニ出ト。尊者再ヒ告ク。此ハ汝カ夫ノ後身ナリ。彼常ニ汝カ容色ヲ愛シ。身心繋縛セリ。其死セシ日ヨリ汝カ鼻ノ中ニ生ス。此虫ヲ殺サハ。汝カ身ニ災有ヘク。其罪モ深カルヘシト。因ニ神力ヲ以テ此虫ノ本形ヲ顕シ見セシムト云コトカアル。此モ心ノ趣ク処ニ生ヲ受タモノシヤ。前ハ已カ面ニ生シ。此ハ妻ノ面ニ生ヲ受ル。受生ノ処ハ別ナレトモ。生死縁起ノ理ハ一シ。

書き下し

是ハ仏滅後ノコト。付法蔵伝等ニアル縁事シヤ。天竺国ニ。夫婦相敬愛シテ情厚キ者有リ。其夫少壮ノ年ニ命終ス。此妻殊ニ悲ニ堪ズ。亡夫ノ為ニ脇尊者ヲ請シテ供養ス。ソノトキ鼻ヨリ虫出タルヲ。庭上ニ投シテ踏蹂ラントス。尊者云。且ク待テ。此ハ因縁ノ有コトソト。女人カ云。コノ七八日ノ間。我鼻ノ内ヲ悩ス。今幸ニ出ト。尊者再ヒ告ク。此ハ汝カ夫ノ後身ナリ。彼常ニ汝カ容色ヲ愛シ。身心繋縛セリ。其死セシ日ヨリ汝カ鼻ノ中ニ生ス。此虫ヲ殺サハ。汝カ身ニ灾有ヘク。其罪モ深カルヘシト。因ニ神力ヲ以テ此虫ノ本形ヲ顕シ見セシムト云コトカアル。此モ心ノ趣ク処ニ生ヲ受タモノシヤ。前ハ已カ面ニ生シ。此ハ妻ノ面ニ生ヲ受ル。受生ノ処ハ別ナレトモ。生死縁起ノ理ハ一シ。

現代語訳

これは仏の滅後のことで、付法蔵伝などにある因縁話である。インドに、夫婦が互いに敬い愛し合って情の厚い者がいた。その夫が若く盛んな年に命を終えた。この妻はことに悲しみに堪えず、亡き夫のために脇尊者を招いて供養した。その時、(妻の)鼻から虫が出たのを、庭に投げて踏みつぶそうとした。尊者は言った。「しばらく待ちなさい。これには因縁があるのだ」。女は言った。「この七、八日の間、私の鼻の中を悩ませていました。今、幸いに出てきたのです」。尊者は再び告げた。「これはお前の夫の生まれ変わりである。彼は常にお前の容色を愛し、身も心も縛られていた。その死んだ日からお前の鼻の中に生まれたのである。この虫を殺せば、お前の身に災いがあるであろうし、その罪も深いであろう」。そこで神通力によって、この虫のもとの姿を現して見せた、ということがある。これも心の赴く所に生を受けたものである。前の話は自分の顔に生じ、これは妻の顔に生を受けた。生を受けた所は別であるが、生死の縁起の道理は一つである。

解説

付法蔵伝は、釈迦から法を受け継いだ祖師たちの伝記を集めた書で、脇尊者はその祖師の一人に数えられる高僧である。若くして亡くなった夫が、妻の容色を愛するあまり、死後に妻の鼻の中の虫に生まれていたというこの説話を、尊者は前の話と対にして示す。前は自分の顔への執着、こちらは妻の容色への執着で、生を受ける場所は違っても、心の赴く所に生を受けるという道理は同じだという。尊者の説く輪廻では、愛着の対象がそのまま次の生の居場所になる。何を愛し、どこに心を留めているかを見つめることの重さを考えさせる。

この章句が説くこと

中有執着愛着後身脇尊者付法蔵伝

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