十善法語 / 巻第十・不邪見戒之上
舊事記神代卷ミナ一定セス。天照皇太神ヲ或男子トシ。或女人トスルヲ以テ知ルヘシ。其事蹟皆憑虛ニシテ信シ難シ。若陰陽五行ノ配屬ト云ハ大害ナケレトモ。其五行ノ分配モ漢儒ニタモ及ハヌ。爾餘ノ神書。大成經ノ類ハ僞作ト思ハル。伊勢內外宮神官ノ祕スル所ノ五部ノ書ナトモ。皆兩部習合家眞言天台ノ沙門ノ安排スル所ニシテ。古書ニ非ス。自餘神主禰宜ナトカ家家ノ書ハ。多ク短才寡聞ノ者ノ作レルコトナリ。年代事蹟相齟齬スルヲ以テ大理ヲ知ルヘシ。又一類ノ者カ大成經ナトヲ丸信シニシテ。疑シキ事有レハ。神託ヲ受ルト云テ。齋戒ヲナス。齋戒了テ。自ラ神靈我爲ニカク決スト稱シテ。新ニ奇事怪談ヲ加ヘ。或祭祀ノ式ナトヲ造作ス。密教ニ附會シ。少ク改易シテ神道ヲ說ク。四大五大ハ理ヲ盡サス。唯五行ノミ是盡理ノ說ナルト云シヤ。
新字:旧事記神代巻ミナ一定セス。天照皇太神ヲ或男子トシ。或女人トスルヲ以テ知ルヘシ。其事跡皆憑虚ニシテ信シ難シ。若陰陽五行ノ配属ト云ハ大害ナケレトモ。其五行ノ分配モ漢儒ニタモ及ハヌ。爾余ノ神書。大成経ノ類ハ偽作ト思ハル。伊勢内外宮神官ノ秘スル所ノ五部ノ書ナトモ。皆両部習合家真言天台ノ沙門ノ安排スル所ニシテ。古書ニ非ス。自余神主祢宜ナトカ家家ノ書ハ。多ク短才寡聞ノ者ノ作レルコトナリ。年代事跡相齟齬スルヲ以テ大理ヲ知ルヘシ。又一類ノ者カ大成経ナトヲ丸信シニシテ。疑シキ事有レハ。神託ヲ受ルト云テ。斎戒ヲナス。斎戒了テ。自ラ神霊我為ニカク決スト称シテ。新ニ奇事怪談ヲ加ヘ。或祭祀ノ式ナトヲ造作ス。密教ニ附会シ。少ク改易シテ神道ヲ説ク。四大五大ハ理ヲ尽サス。唯五行ノミ是尽理ノ説ナルト云シヤ。
書き下し
旧事記神代巻ミナ一定セス。天照皇太神ヲ或男子トシ。或女人トスルヲ以テ知ルヘシ。其事跡皆憑虚ニシテ信シ難シ。若陰陽五行ノ配属ト云ハ大害ナケレトモ。其五行ノ分配モ漢儒ニタモ及ハヌ。爾余ノ神書。大成経ノ類ハ偽作ト思ハル。伊勢内外宮神官ノ秘スル所ノ五部ノ書ナトモ。皆両部習合家真言天台ノ沙門ノ安排スル所ニシテ。古書ニ非ス。自余神主祢宜ナトカ家家ノ書ハ。多ク短才寡聞ノ者ノ作レルコトナリ。年代事跡相齟齬スルヲ以テ大理ヲ知ルヘシ。又一類ノ者カ大成経ナトヲ丸信シニシテ。疑シキ事有レハ。神託ヲ受ルト云テ。斎戒ヲナス。斎戒了テ。自ラ神霊我為ニカク決スト称シテ。新ニ奇事怪談ヲ加ヘ。或祭祀ノ式ナトヲ造作ス。密教ニ附会シ。少ク改易シテ神道ヲ説ク。四大五大ハ理ヲ尽サス。唯五行ノミ是尽理ノ説ナルト云シヤ。
現代語訳
(その者はさらに言う。)旧事記や神代巻はみな一定しない。天照皇太神を、あるいは男神とし、あるいは女神としていることからも知られる。その事跡はみな根拠がなく信じがたい。もし陰陽五行の割り当てだと言うなら大きな害はないが、その五行の割り当ても漢代の儒者にさえ及ばない。その他の神書、大成経の類は偽作と思われる。伊勢の内宮・外宮の神官が秘している五部の書なども、みな両部習合家や真言・天台の僧が按配したもので、古書ではない。その他の神主や禰宜などの家々の書は、多く才が乏しく見聞の狭い者の作ったものである。年代や事跡が互いに食い違っていることで、大筋の道理を知るべきである、と。また、ある種の者は大成経などを丸ごと信じて、疑わしいことがあれば神託を受けると言って斎戒をする。斎戒が終わると、自ら「神霊が私のためにこう決められた」と称して、新たに奇妙な事や怪しい話を付け加え、あるいは祭祀の式などをこしらえる。密教にこじつけ、少し改めて神道を説く。地水火風の四大や、空を加えた五大は理を尽くしておらず、ただ五行だけが理を尽くした説だと言うのである。
解説

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『玉勝間』一の巻 漢意然るに神の御典を説くともがら、もはらこれらの理をもて説くなるは、いかなるしれわざぞや。近き頃にいたりて、儒意をのぞきて説くと思う人も、なおこの天理・陰陽などの説のひが事なるをば、えさとらず、その垣内を出ではなるる事あたわざるは、なお漢意のきよく去らで、かれにまどえる夢の、いまだ確かにさめざるなり。また天照大御神を、天津日にはあらずとするも、漢意の小さき理にかかわりなづみて、まことの道の、微妙なる深きことわり有ることを思わざるものなり。この大御神天津日にましまして、その御孫命天より降り坐して、御国しろしめす御事は、人のちいさきさとりをもて、その理は測り知らるべききわにあらず。おのが智もてはかり知る事あたわざるをもて、その理無しと思うは、例の小さきから意なるをや。
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