十善法語 / 巻第十・不邪見戒之上
又一類ノ者カ云。天地ノ間ニ定レル道ナシ。昔ヨリ衆聖人ノ手ヲ歷テ次第ニ成立シテ。世ヲ濟ケ民ヲ救フト。此樣ニ道ヲ拵事ニテ。定法ナシト云ヘハ聖人ト云モ。作者ノ名ニシテ。聰明睿智ノ德ノミヲ稱スルニアラスト云ネハナラヌ。仁義モ。民ヲ救ニ付タル名ニシテ。德義ノ名ニ非スト云ネハナラヌ。何事モ皆安排布置ニ落ルコトシヤ。神道ヲ云者ノ中ニ。一類偏見ノ者此說ヲナス。一切神祇ミナ愚民ヲ畏レ愼マシムル教ニシテ。實跡ヲ求ムヘカラス。此陰陽。此日月。此四時。此山川聚落。强テ分配シテ神號ヲ立ス。聖賢ノ君。有功ノ士。下勇憤ノ士。放逐ノ臣。凡ソ衆人ノ思フ處。此社ヲ建テ祭ル。旣ニ神號アリ神社アレハ。世人附會シテ怪談ヲ立ツ。世ニ害ナキコトハ王者モ此ヲ禁セス。正史モ隨テ記ス。聖德太子舍人親王等假テ以テ世ヲ教フル。其事實ヲ求ムヘカラス。
新字:又一類ノ者カ云。天地ノ間ニ定レル道ナシ。昔ヨリ衆聖人ノ手ヲ歴テ次第ニ成立シテ。世ヲ済ケ民ヲ救フト。此様ニ道ヲ拵事ニテ。定法ナシト云ヘハ聖人ト云モ。作者ノ名ニシテ。聰明睿智ノ徳ノミヲ称スルニアラスト云ネハナラヌ。仁義モ。民ヲ救ニ付タル名ニシテ。徳義ノ名ニ非スト云ネハナラヌ。何事モ皆安排布置ニ落ルコトシヤ。神道ヲ云者ノ中ニ。一類偏見ノ者此説ヲナス。一切神祇ミナ愚民ヲ畏レ慎マシムル教ニシテ。実跡ヲ求ムヘカラス。此陰陽。此日月。此四時。此山川聚落。強テ分配シテ神号ヲ立ス。聖賢ノ君。有功ノ士。下勇憤ノ士。放逐ノ臣。凡ソ衆人ノ思フ処。此社ヲ建テ祭ル。既ニ神号アリ神社アレハ。世人附会シテ怪談ヲ立ツ。世ニ害ナキコトハ王者モ此ヲ禁セス。正史モ随テ記ス。聖徳太子舎人親王等仮テ以テ世ヲ教フル。其事実ヲ求ムヘカラス。
書き下し
又一類ノ者カ云。天地ノ間ニ定レル道ナシ。昔ヨリ衆聖人ノ手ヲ歴テ次第ニ成立シテ。世ヲ済ケ民ヲ救フト。此様ニ道ヲ拵事ニテ。定法ナシト云ヘハ聖人ト云モ。作者ノ名ニシテ。聰明睿智ノ徳ノミヲ称スルニアラスト云ネハナラヌ。仁義モ。民ヲ救ニ付タル名ニシテ。徳義ノ名ニ非スト云ネハナラヌ。何事モ皆安排布置ニ落ルコトシヤ。神道ヲ云者ノ中ニ。一類偏見ノ者此説ヲナス。一切神祇ミナ愚民ヲ畏レ慎マシムル教ニシテ。実跡ヲ求ムヘカラス。此陰陽。此日月。此四時。此山川聚落。强テ分配シテ神号ヲ立ス。聖賢ノ君。有功ノ士。下勇憤ノ士。放逐ノ臣。凡ソ衆人ノ思フ処。此社ヲ建テ祭ル。既ニ神号アリ神社アレハ。世人附会シテ怪談ヲ立ツ。世ニ害ナキコトハ王者モ此ヲ禁セス。正史モ随テ記ス。聖徳太子舎人親王等仮テ以テ世ヲ教フル。其事実ヲ求ムヘカラス。
現代語訳
また、ある種の者が言う。天地の間に定まった道はない。昔から多くの聖人の手を経て次第に成り立ち、世を救い民を救ったのだ、と。このように道をこしらえたものとし、定まった法はないと言うならば、聖人というのも作者の名であって、聡明で叡智ある徳だけを称えたものではないと言わなければならない。仁義も、民を救うことに付けた名であって、徳義の名ではないと言わなければならない。何事もみな人の按配や配置に帰着してしまうのである。神道を言う者の中にも、ある種の偏った見方の者がこの説をなす。一切の神々はみな愚かな民を畏れ慎ませるための教えであって、実際の跡を求めてはならない。この陰陽、この日月、この四季、この山川や村里に、強いて割り当てて神の名を立てたのである。聖賢の君主、功のある士、下は勇ましく憤った士、追放された臣など、およそ人々が思いを寄せるところに、この社を建てて祭った。すでに神の名があり神社があれば、世の人がこじつけて怪談を立てる。世に害のないことは王者もこれを禁じず、正史もそれに従って記す。聖徳太子や舎人親王らは、それを借りて世を教えたのである。その事実を求めてはならない、と。
解説
この章句が説くこと
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