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十善法語 / 巻第十・不邪見戒之上

又一類偏見ノ者カ云。天竺支那日本共ニ道ヲ說者悉ク加上シテ立ル。天竺ニハ世間人倫ニ加上シテ梵天四禪ヲ說ク。其後ノ者カ此梵天四禪ニ加上シテ無想天ト云ヲ說出ス。此無想定ニ加上シテ其後ノ者ハ無色定ヲ說ク。阿藍迦藍ハ不用處定ヲ說ク。鬱頭藍子ハ非想非非想定ヲ說ク。沙門ハ其上ニ加上シテ滅盡定。涅槃ヲ說ク。此沙門ノ中ニ。阿含三藏教等ニ加上シテ法相大乘。或ハ空無相ノ教ヲ說ク。又其上ニ加上シテ一乘祕密乘ナトヲ說ク。支那ノ教ニハ。周代ニ齊桓晉文ノ覇業ノ上ニ出テ。孔子カ文武ヲ憲章ス。此儒者ノ上ニ出テ墨翟カ夏ノ道ヲ說ク。楊朱ハ又其上ニ出テ帝道ヲ說出ス。許行ハ神農ノ道ヲ說ク。莊子列子カ徒ハ無懷氏葛天氏ヲ說ク。

新字:又一類偏見ノ者カ云。天竺支那日本共ニ道ヲ説者悉ク加上シテ立ル。天竺ニハ世間人倫ニ加上シテ梵天四禅ヲ説ク。其後ノ者カ此梵天四禅ニ加上シテ無想天ト云ヲ説出ス。此無想定ニ加上シテ其後ノ者ハ無色定ヲ説ク。阿藍迦藍ハ不用処定ヲ説ク。鬱頭藍子ハ非想非非想定ヲ説ク。沙門ハ其上ニ加上シテ滅尽定。涅槃ヲ説ク。此沙門ノ中ニ。阿含三蔵教等ニ加上シテ法相大乗。或ハ空無相ノ教ヲ説ク。又其上ニ加上シテ一乗秘密乗ナトヲ説ク。支那ノ教ニハ。周代ニ斉桓晋文ノ覇業ノ上ニ出テ。孔子カ文武ヲ憲章ス。此儒者ノ上ニ出テ墨翟カ夏ノ道ヲ説ク。楊朱ハ又其上ニ出テ帝道ヲ説出ス。許行ハ神農ノ道ヲ説ク。荘子列子カ徒ハ無懐氏葛天氏ヲ説ク。

書き下し

又一類偏見ノ者カ云。天竺支那日本共ニ道ヲ説者悉ク加上シテ立ル。天竺ニハ世間人倫ニ加上シテ梵天四禅ヲ説ク。其後ノ者カ此梵天四禅ニ加上シテ無想天ト云ヲ説出ス。此無想定ニ加上シテ其後ノ者ハ無色定ヲ説ク。阿藍迦藍ハ不用処定ヲ説ク。鬱頭藍子ハ非想非非想定ヲ説ク。沙門ハ其上ニ加上シテ滅尽定。涅槃ヲ説ク。此沙門ノ中ニ。阿含三蔵教等ニ加上シテ法相大乗。或ハ空無相ノ教ヲ説ク。又其上ニ加上シテ一乗秘密乗ナトヲ説ク。支那ノ教ニハ。周代ニ斉桓晋文ノ覇業ノ上ニ出テ。孔子カ文武ヲ憲章ス。此儒者ノ上ニ出テ墨翟カ夏ノ道ヲ説ク。楊朱ハ又其上ニ出テ帝道ヲ説出ス。許行ハ神農ノ道ヲ説ク。荘子列子カ徒ハ無懐氏葛天氏ヲ説ク。

現代語訳

また、ある種の偏った見方の者が言う。インド・中国・日本ともに、道を説く者はことごとく加上して(前の説の上に重ねて)立てる。インドでは、世間の人倫の上に重ねて梵天や四禅を説いた。その後の者がこの梵天・四禅の上に重ねて無想天というものを説き出した。この無想定の上に重ねて、その後の者は無色定を説いた。阿藍迦藍は不用処定を説き、鬱頭藍子は非想非非想定を説いた。沙門はその上に重ねて滅尽定や涅槃を説いた。この沙門の中で、阿含の三蔵教などの上に重ねて法相の大乗、あるいは空・無相の教えを説いた。またその上に重ねて一乗や秘密乗などを説いた。中国の教えでは、周代に斉の桓公や晋の文公の覇業の上に出て、孔子が文王・武王を手本とした。この儒者の上に出て、墨翟が夏の道を説いた。楊朱はまたその上に出て帝道を説き出した。許行は神農の道を説いた。荘子や列子の徒は無懐氏や葛天氏を説いた。

解説

思想の歴史を、後の者が前の者の説の上に、より古く高い権威を重ねて自説を立ててきた過程として見る加上の説を紹介する段である。インドでは禅定の段階が次々に上積みされ、仏教の中でも阿含から大乗、一乗・密教へと重ねられた。中国でも覇道の上に孔子の文武の道、その上に墨子の夏の道、さらに神農や太古の帝王を持ち出す説が重ねられたという。思想の展開を批判的に整理する鋭い見方であり、尊者も内容を詳しく紹介しているが、道そのものを相対化する偏見の一つとして扱っている。新しさを競って、より上を言いたがる心理は今日の議論にもある。

この章句が説くこと

加上偏見思想史禅定墨翟許行

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