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十善法語 / 巻第十・不邪見戒之上

此邪見ノ罪輕カラヌ理ハ。マツ是ヲ憶念セヨ。通途オシナベテノ者ヲ凡夫ト云。凡ハ凡庸ノ義テ。ヨノツネト云コトシヤ。夫ハ士夫デ。男子ノ通目。ナミナミノ者ト云コトシヤ。此凡夫カ此人間界ニ在ル。生レシ朝ヨリ死スル夕マデカウシヤ。此身有リ。此鼻孔耳門口門有ル。世界ニ色有リ。聲有リ。香アリ。味アリ。男子女人アリ。貴賤尊卑アリ。苦樂憂喜有テ。皆心ニ適フト適ハヌト差別スル。心ニ適フ境界ニ貪愛ヲ生シ。心ニ適ハヌ境ニ瞋恚ヲ生スル。又カク形カ別別ニ見ヱ分レテ有レハ。此ト彼ト相對シテ。人ニ勝リタキト思フ。左傳ニモ有血氣者必相爭トアル。此等ヲ貪欲瞋恚。愚癡。僑慢等ト名クル。此カ誰教フルコトヲ待タスシテ。生レシヨリ。此身心ツキソフタル煩惱ナレハ。倶生ノ惑ト云。

新字:此邪見ノ罪軽カラヌ理ハ。マツ是ヲ憶念セヨ。通途オシナベテノ者ヲ凡夫ト云。凡ハ凡庸ノ義テ。ヨノツネト云コトシヤ。夫ハ士夫デ。男子ノ通目。ナミナミノ者ト云コトシヤ。此凡夫カ此人間界ニ在ル。生レシ朝ヨリ死スル夕マデカウシヤ。此身有リ。此鼻孔耳門口門有ル。世界ニ色有リ。声有リ。香アリ。味アリ。男子女人アリ。貴賤尊卑アリ。苦楽憂喜有テ。皆心ニ適フト適ハヌト差別スル。心ニ適フ境界ニ貪愛ヲ生シ。心ニ適ハヌ境ニ瞋恚ヲ生スル。又カク形カ別別ニ見ヱ分レテ有レハ。此ト彼ト相対シテ。人ニ勝リタキト思フ。左伝ニモ有血気者必相争トアル。此等ヲ貪欲瞋恚。愚痴。僑慢等ト名クル。此カ誰教フルコトヲ待タスシテ。生レシヨリ。此身心ツキソフタル煩悩ナレハ。倶生ノ惑ト云。

書き下し

此邪見ノ罪軽カラヌ理ハ。マツ是ヲ憶念セヨ。通途オシナベテノ者ヲ凡夫ト云。凡ハ凡庸ノ義テ。ヨノツネト云コトシヤ。夫ハ士夫デ。男子ノ通目。ナミナミノ者ト云コトシヤ。此凡夫カ此人間界ニ在ル。生レシ朝ヨリ死スル夕マデカウシヤ。此身有リ。此鼻孔耳門口門有ル。世界ニ色有リ。声有リ。香アリ。味アリ。男子女人アリ。貴賤尊卑アリ。苦楽憂喜有テ。皆心ニ適フト適ハヌト差別スル。心ニ適フ境界ニ貪愛ヲ生シ。心ニ適ハヌ境ニ瞋恚ヲ生スル。又カク形カ別別ニ見ヱ分レテ有レハ。此ト彼ト相対シテ。人ニ勝リタキト思フ。左伝ニモ有血気者必相争トアル。此等ヲ貪欲瞋恚。愚痴。僑慢等ト名クル。此カ誰教フルコトヲ待タスシテ。生レシヨリ。此身心ツキソフタル煩悩ナレハ。倶生ノ惑ト云。

現代語訳

この邪見の罪が軽くない道理については、まずこのことを心にとどめて考えなさい。世間一般の者を凡夫と言う。凡は凡庸の意味で、世の常ということである。夫は士夫で、男子を通して呼ぶ名であり、並みの者ということである。この凡夫がこの人間界にいる。生まれた朝から死ぬ夕べまで、こうである。この身があり、この鼻の穴・耳の穴・口がある。世界には色があり、声があり、香りがあり、味があり、男と女があり、貴賤尊卑があり、苦楽や憂い喜びがあって、みな心にかなうものとかなわないものとを区別する。心にかなう境遇には貪りと愛着を生じ、心にかなわない境遇には怒りを生じる。またこのように形が別々に見え分かれているので、これとあれとを比べて、人に勝りたいと思う。左伝にも、血気のある者は必ず争う、とある。これらを貪欲・瞋恚・愚癡・憍慢などと名づける。これは誰かが教えるのを待つまでもなく、生まれた時からこの身心に付き添っている煩悩であるから、倶生の惑(生まれながらの迷い)と言う。

解説

邪見の罪の重さを説く前置きとして、尊者はまず凡夫の当たり前の姿を描く。感覚があれば好き嫌いが生まれ、好きなものには貪り、嫌なものには怒りが起こり、形が分かれて見えるから比べて勝ちたくなる。左伝の「血気ある者は必ず争う」はその裏づけとして引かれる。こうした貪欲・瞋恚・愚癡・憍慢は、教わらなくても生まれつき備わった煩悩で、これを倶生の惑と呼ぶ。自分の反応を責める前に、それが人に生まれつき備わったものだと知ることは、感情と距離を取る第一歩になる。

この章句が説くこと

凡夫煩悩貪欲瞋恚倶生の惑左伝

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