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十善法語 / 巻第九・不瞋恚戒

久シカラヌ間ニ。又疫疾ノ患ヲ忘レテ。萬事唯己カ欲ニ從フ。父子或ハ相傷フ。鴟鴞ノ母ヲ食スル如ク。君臣或ハ相陵ク。豺狼ノ食ヲ爭フ如ク。人民ノ私增長シテ。十惡ノミノ世界トナル。同シ十惡ト雖トモ。今ノ十惡ヨリハ又更ニ熾盛ナルコト百千萬倍トアル。人機モ劣リテ。少分ノ道理モ一向通セス。飮食衣服モイヨイヨ麁ニナリ下テ。草葉ヲ以テ身ヲ掩ヒ。草實ヲ以テ口腹ヲ養フ。相好モイヨイヨ醜陋ニナリ下テ。今ノ人ヨリ視レハ畜生ニモ類ストアル。此時人壽マタ減シテ十歲トナル。生レテ五月ヲ經レハ。男女婚嫁ヲナス。十歲ヲ滿スル者ハ少ク。十歲ニ滿セスシテ命ノ終ル者ハ多シ。一向惡事ノミノ中ニ。殊ニ瞋恚增長ス。父母ソノ子ニ於テ害心ヲ生シ。子ソノ父母ニ於テ害心ヲ生ス。兄弟姊妹君臣夫婦ノ中ニ於テ。互ニ誹謗シ。罵詈シ。打傷シ。損害スルニ獵師ノ鹿ヲ逐フ如トアル。此時世界ニ刀兵灾起ルトアル。

新字:久シカラヌ間ニ。又疫疾ノ患ヲ忘レテ。万事唯己カ欲ニ従フ。父子或ハ相傷フ。鴟鴞ノ母ヲ食スル如ク。君臣或ハ相陵ク。豺狼ノ食ヲ争フ如ク。人民ノ私增長シテ。十悪ノミノ世界トナル。同シ十悪ト雖トモ。今ノ十悪ヨリハ又更ニ熾盛ナルコト百千万倍トアル。人機モ劣リテ。少分ノ道理モ一向通セス。飲食衣服モイヨイヨ麁ニナリ下テ。草葉ヲ以テ身ヲ掩ヒ。草実ヲ以テ口腹ヲ養フ。相好モイヨイヨ醜陋ニナリ下テ。今ノ人ヨリ視レハ畜生ニモ類ストアル。此時人寿マタ減シテ十歳トナル。生レテ五月ヲ経レハ。男女婚嫁ヲナス。十歳ヲ満スル者ハ少ク。十歳ニ満セスシテ命ノ終ル者ハ多シ。一向悪事ノミノ中ニ。殊ニ瞋恚增長ス。父母ソノ子ニ於テ害心ヲ生シ。子ソノ父母ニ於テ害心ヲ生ス。兄弟姊妹君臣夫婦ノ中ニ於テ。互ニ誹謗シ。罵詈シ。打傷シ。損害スルニ猟師ノ鹿ヲ逐フ如トアル。此時世界ニ刀兵災起ルトアル。

書き下し

久シカラヌ間ニ。又疫疾ノ患ヲ忘レテ。万事唯己カ欲ニ従フ。父子或ハ相傷フ。鴟鴞ノ母ヲ食スル如ク。君臣或ハ相陵ク。豺狼ノ食ヲ争フ如ク。人民ノ私增長シテ。十悪ノミノ世界トナル。同シ十悪ト雖トモ。今ノ十悪ヨリハ又更ニ熾盛ナルコト百千万倍トアル。人機モ劣リテ。少分ノ道理モ一向通セス。飲食衣服モイヨイヨ麁ニナリ下テ。草葉ヲ以テ身ヲ掩ヒ。草実ヲ以テ口腹ヲ養フ。相好モイヨイヨ醜陋ニナリ下テ。今ノ人ヨリ視レハ畜生ニモ類ストアル。此時人寿マタ減シテ十歳トナル。生レテ五月ヲ経レハ。男女婚嫁ヲナス。十歳ヲ満スル者ハ少ク。十歳ニ満セスシテ命ノ終ル者ハ多シ。一向悪事ノミノ中ニ。殊ニ瞋恚增長ス。父母ソノ子ニ於テ害心ヲ生シ。子ソノ父母ニ於テ害心ヲ生ス。兄弟姊妹君臣夫婦ノ中ニ於テ。互ニ誹謗シ。罵詈シ。打傷シ。損害スルニ猟師ノ鹿ヲ逐フ如トアル。此時世界ニ刀兵灾起ルトアル。

現代語訳

久しくないうちに、また疫病の患いを忘れて、万事ただ自分の欲に従う。父子があるいは互いに傷つけ合う。梟が母を食べるように。君臣があるいは互いに侮り合う。豺狼が食を争うように。人民の私心が増長して、十悪ばかりの世界となる。同じ十悪といっても、今の十悪よりはまた更に盛んなこと百千万倍とある。人の機根も劣って、少しの道理も一向に通じない。飲食や衣服もいよいよ粗末になり下がって、草の葉で身を覆い、草の実で口腹を養う。相好もいよいよ醜くなり下がって、今の人から見れば畜生にも類するとある。このとき人の寿命はまた減って十歳となる。生まれて五か月を経れば、男女が婚姻をする。十歳に満ちる者は少なく、十歳に満たずに命の終わる者は多い。ひたすら悪事ばかりの中で、殊に瞋恚が増長する。父母がその子に対して害する心を生じ、子がその父母に対して害する心を生じる。兄弟姉妹、君臣、夫婦の中で、互いに誹謗し、罵り、打ち傷つけ、損ない害することは、猟師が鹿を追うようだとある。このとき世界に刀兵災が起こるとある。

解説

疫病が去るとまた忘れ、人は欲のままに生き、親子は梟が母を食うと言われたように傷つけ合い、君臣は豺狼のように争う。衣食も容貌も衰え、寿命は十歳まで縮み、十悪の中でもとりわけ瞋恚が盛んになる。親が子を、子が親を害し、兄弟も夫婦も君臣も、猟師が鹿を追うように罵り傷つけ合うとき、第三の災い、刀兵災が起こる。不瞋恚戒の講話にこの描写が置かれている意味は明らかで、怒りは最も身近な関係から壊していくという警告である。

この章句が説くこと

瞋恚刀兵災減劫十悪親子争い

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