十善法語 / 巻第九・不瞋恚戒
一微塵ノ中。此法門アリテ大小麁細互ニ融シ。三世起滅互ニ攝ス。一世界ノ中此法門アリテ三世互ニ攝シ。麁細互ニ融ス。一切世界ノ中此法門アリテ麁細互ニ融シ。三世互ニ攝ス。經中ニ毛孔ニ世界ヲ含スト。維摩居士カ方丈室中ニ八萬四千ノ師子座ヲ容ト。劫數ヲ食頃ニ經ト。有志ノ者ハ法ノ趣ヲ知ルヘキコトシヤ。世ノ愚癡ナル者ハ。凡夫カ功德滿足シテ聖域ニ入ルコトヲ。蝮蜻カ蟬ニナリ。蝸牛カ柱ヲツタヒ軒ヲツタフテ屋ニ登ル如クト思フハ不是シヤ。若輕躁ナルモノ空腹高心ニ是心是佛ト說キ。煩惱卽菩提ト說ハ不是シヤ。衆生界ノ外別ニ佛界アルニ非ス。佛界ノ外ニ衆生界アルニ非ス。佛界ト衆生界ト元來一異ヲ云ヘカラス。迷フ者ハ諸佛ノ無上正覺ノ中ニ居テ三毒ヲ起ス。此三毒衆生ヲ惱亂スルコト。屠者ノ鮮肉ヲ燒煮スルカ如シ。諸佛ハ常ニ衆生三毒ノ中ニ在テ。無漏大定智悲ニ安住ス。此無漏大定智悲。衆生界ニ應現シテ。月ノ萬水ニ影ヲウツス如クシヤ。
新字:一微塵ノ中。此法門アリテ大小麁細互ニ融シ。三世起滅互ニ摂ス。一世界ノ中此法門アリテ三世互ニ摂シ。麁細互ニ融ス。一切世界ノ中此法門アリテ麁細互ニ融シ。三世互ニ摂ス。経中ニ毛孔ニ世界ヲ含スト。維摩居士カ方丈室中ニ八万四千ノ師子座ヲ容ト。劫数ヲ食頃ニ経ト。有志ノ者ハ法ノ趣ヲ知ルヘキコトシヤ。世ノ愚痴ナル者ハ。凡夫カ功徳満足シテ聖域ニ入ルコトヲ。蝮蜻カ蟬ニナリ。蝸牛カ柱ヲツタヒ軒ヲツタフテ屋ニ登ル如クト思フハ不是シヤ。若軽躁ナルモノ空腹高心ニ是心是仏ト説キ。煩悩即菩提ト説ハ不是シヤ。衆生界ノ外別ニ仏界アルニ非ス。仏界ノ外ニ衆生界アルニ非ス。仏界ト衆生界ト元来一異ヲ云ヘカラス。迷フ者ハ諸仏ノ無上正覚ノ中ニ居テ三毒ヲ起ス。此三毒衆生ヲ悩乱スルコト。屠者ノ鮮肉ヲ焼煮スルカ如シ。諸仏ハ常ニ衆生三毒ノ中ニ在テ。無漏大定智悲ニ安住ス。此無漏大定智悲。衆生界ニ応現シテ。月ノ万水ニ影ヲウツス如クシヤ。
書き下し
一微塵ノ中。此法門アリテ大小麁細互ニ融シ。三世起滅互ニ摂ス。一世界ノ中此法門アリテ三世互ニ摂シ。麁細互ニ融ス。一切世界ノ中此法門アリテ麁細互ニ融シ。三世互ニ摂ス。経中ニ毛孔ニ世界ヲ含スト。維摩居士カ方丈室中ニ八万四千ノ師子座ヲ容ト。劫数ヲ食頃ニ経ト。有志ノ者ハ法ノ趣ヲ知ルヘキコトシヤ。世ノ愚痴ナル者ハ。凡夫カ功徳満足シテ聖域ニ入ルコトヲ。蝮蜻カ蟬ニナリ。蝸牛カ柱ヲツタヒ軒ヲツタフテ屋ニ登ル如クト思フハ不是シヤ。若軽躁ナルモノ空腹高心ニ是心是仏ト説キ。煩悩即菩提ト説ハ不是シヤ。衆生界ノ外別ニ仏界アルニ非ス。仏界ノ外ニ衆生界アルニ非ス。仏界ト衆生界ト元来一異ヲ云ヘカラス。迷フ者ハ諸仏ノ無上正覚ノ中ニ居テ三毒ヲ起ス。此三毒衆生ヲ悩乱スルコト。屠者ノ鮮肉ヲ焼煮スルカ如シ。諸仏ハ常ニ衆生三毒ノ中ニ在テ。無漏大定智悲ニ安住ス。此無漏大定智悲。衆生界ニ応現シテ。月ノ万水ニ影ヲウツス如クシヤ。
現代語訳
一つの微塵の中に、この法門があって、大小・粗細が互いに融け合い、三世の起滅が互いに摂め合う。一つの世界の中にこの法門があって、三世が互いに摂め合い、粗細が互いに融け合う。一切世界の中にこの法門があって、粗細が互いに融け合い、三世が互いに摂め合う。経の中に、毛穴に世界を含む、と。維摩居士が方丈の室の中に八万四千の師子座を容れた、と。劫の数を一食の間に経る、と。志のある者は法の趣を知るべきことである。世の愚かな者が、凡夫が功徳を満足して聖域に入ることを、蝮蜻(地中の幼虫)が蝉になり、蝸牛が柱を伝い軒を伝って屋根に登るようなものと思うのは、正しくないのである。もし軽はずみな者が、腹の中は空なのに心だけ高くして、この心がこれ仏であると説き、煩悩即菩提と説くのは、正しくないのである。衆生界の外に別に仏界があるのではない。仏界の外に衆生界があるのではない。仏界と衆生界とは、元来一つとも異なるとも言うべきではない。迷う者は、諸仏の無上正覚の中にいて三毒を起こす。この三毒が衆生を悩み乱すことは、屠殺する者が鮮肉を焼き煮るようである。諸仏は常に衆生の三毒の中にいて、無漏の大定と智慧と慈悲に安住する。この無漏の大定と智慧と慈悲が、衆生界に応じて現れて、月が万の水に影を映すようである。
解説
この章句が説くこと
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『十善法語』巻第十一・不邪見戒之中十方世界種種国土有ルモ。妄心夢中ニ色色ト現スルハカリテ。実体ナキコトシヤ。此モ能思惟スレハ。廓然トシテ開解セネハナラヌシヤ。百里千里カ遠クナキコトヲ知レハ。支那天竺モ法ト成リ来ルシヤ。新羅百済モ法トナリ来ルシヤ。見ヌモロコシカ法トナリ来レハ。名ヲ聞ヌ世界モ法トナリ来ルシヤ。眼前咫尺カ近キデモナキコトヲ知レハ。隣里郷党モ法ト成リ来ルシヤ。五尺ノ小身モ法トナリ来ルシヤ。目ニ見ヱヌ微塵極微モ法トナリ来ルシヤ。此法ト云ハ羸劣ノ法デハナイ。諸仏ノ無上正覚ノ法シヤ。
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『十善法語』巻第九・不瞋恚戒此衆生界。往処トシテ地大ナラサルナク。一切衆生見ル処トシテ地大ナラサルナシ。自心ニ自心ヲ執スレハ。目前ノ境界染汗法トナル。是地大沈重愚痴トナリ来ル。愚痴ノ境界自心ヲ熏シ。心ヨリ又愚痴ノ境界ヲ造シテ。乃至地中ノ蠢動トナル。刧ヨリ刧ヲ累テ。此地大ノアル処ハ愚痴ノアル処シヤ。若ミツカラ回光反照セハ。此心地万徳ヲ生ス。此地大ノアル処直ニ禅定ノアル処シヤ。此衆生界。往処トシテ水大ナラサルナク。看処トシテ水大ナラサルナシ。若流ニ随テ止コトナケレハ。此水ハ愛欲トナリ来ル。愛心ヨリ愛境ヲ造立シ。愛境ヨリ愛心ヲ相続シテ。乃至愛相応ノ世界。魚竜ノ身心トナル。刧ヨリ刧ヲ累テ。此水大ノアル処ハ愛欲ノアル処シヤ。若自ラ回光反照セハ。此水大慈悲ト相応ス。衆生ヲ摂取シテ悉ク救抜ス。経中ニ仏心トハ大慈悲コレナリトアルシヤ。
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『十善法語』巻第九・不瞋恚戒元来一微塵ノ中ニ。堅湿煖動ノ相離レヌ故ニ。水ト成テ湿ホシ。火ト成テ煖メ。風ト成テ長養シ。地ト成テ其形ヲ生スル。大ニモアレ小ニモアレ。此四大互ニ因トナリ縁トナリテ万物ヲ造作スルシヤ。正眼ニ看来レハ。此心微妙ナル物テ。一塵ノ中ニ入テ世界成立ノ因トナリ。世界壊滅ノ縁トナル。何ノ入トカ説ヘキ。一塵直ニ自心ノ性相シヤ。世界直ニ自心ノ性相シヤ。若ハ成立スルモ自心ノ性相ト知シヤ。若ハ滅壊スルモ自心ノ性相ト知ルシヤ。一類ノ衆生アリテ。此世界百千万刧確乎トシテ住スト見ル。一類ノ衆生アリテ。此世界念念転変スト見ル。自性空中各自ノ業アリテ此見差別ス。面白キコトシヤ。此中若自ラ達スレハ。法法解脱シ。万境自ラ如如シヤ。
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『十善法語』巻第八・不貪欲戒華厳ニ。衆生妄ニ分別スレハ。仏アリ世界アリ。若真法性ヲ了スレハ。仏モナク世界モナシトアル。此法性カ直ニ是縁起シヤ。仏果究竟モ一物鎮長霊デナイ。頑空無体テハナイ。此縁起カ直ニ是法性シヤ。凡夫身心従来ノ面目ヲ改ルコトデハナイ。此縁起不思議ノ中。業相ノ影ヲ現ス。流ヲ逐テ止ルコトヲ知ラネハ。此業相衆生ヲ昇沈シテ。累却窮リナキシヤ。若本源ニ達スレハ到処カ解脱大海シヤ。末ノ末マテ解脱大海シヤ。
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『十善法語』巻第九・不瞋恚戒此人ノ此世ニ在ル。貴賤相従ヒ。老少相随フ。人畜交リ生シ。万物布列スルコト手足ノ一体ヲ共ニシ。二十指二十爪ノ各各布列スル如クシヤ。右辺是非ナク。左辺是非ナシ。其是非ヲ見ル者ハ見ル者ノ過シヤ。其瞋恚ヲ生スルハ生スル者ノ過シヤ。骨肉相纏縛シテ其中念相ノ仮ニ相続スルコト。海水ノ一波纔ニ動スレハ万波随フ如シ。前波ハ後波ノ起ルヲ知ラズ。後波ハ前波ヨリ動シ来ヲ知ラズ。前念ヲ縁トシテ後念続テ起ル。或ハ慳貪ムネヲ焦シ。瞋恚事ヲ敗ル。正念ニ思惟スレハ前念我他彼此ナク。後念我他彼此ナシ。唯慳貪ヲ起スハ。起ス者ノ失シヤ。瞋恚ヲ生スルハ。生スル者ノ過シヤ。
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『十善法語』巻第一・不殺生戒経論ノ中ニ。無色界ノ衆生ハ此山林土田ノ中ニ在テ。常ニ虚空シヤトアル。餓鬼趣ノ衆生ハ。此山川池沼ミナ大火聚ヲ見ルトアル。維摩経ニ。身子ノ見ルトコロハ草木瓦礫ニシテ螺髻梵王ノ見ルトコロハ七宝荘厳トアル。面白キコトシヤ。此業相縁起ノ中ニ。先人間ト云者ハ。其姿ニモ十善ハアラハレテアル。其世界ニモ十善ハ顕ハレテアルシヤ。経ノ中ニ。三悪趣ノ者ハ其身モ麁獷臭穢ナルトアル。其世界ニモ熱鉄煨河黒風熱沙シヤトアル。此中地獄餓鬼ハ。肉眼ニ見エヌコトナレハ且ク置テ。畜生ニ比対シテ此人間ヲ知レ。