十善法語 / 巻第九・不瞋恚戒
初心ニ此處解シガタクハ。且ク夢ヲ以テ比對シテ解セヨ。睡眠ノ中ニ念想生スレハ。此形ノ外ニ形顯ル。眠ル身ト。夢ノ內ノ身ト。一ト云ヘカラス。異ト云ヘカラス。眠ル形ハ夢ノ形ヲ知ラズ。夢ノ吾身ハ別ニ眠レル姿アルコトヲ知ラヌ。此夢中ニ形生スレハ。山河大地生スル。此吾身ト山河大地ト。一ト云ヘカラズ。異ト云ヘカラズ。山ニイロイロノ山アリ。河モイロイロノ姿ヲ見ル。山河大地生スレハ。或ハ他ノ有情生スル。此吾身ト他ノ有情ト。一ト云ヘカラス。異ト云ヘカラス。有情生スレハ親疎分ル。親シキ人ニアヘハ悅フ。豺狼猛獸ニアヘハ怖畏ヲ生スル。此怖レラルル猛獸ニ實體ナキノミナラス。怖ルル吾身モ實體ナキシヤ。此ハ何ノ處ヨリ現ズルナラバ。睡眠ノ中。念想轉變ニ由テコレ有シヤ。今日目前ノ境界モカクノ如クシヤ。
新字:初心ニ此処解シガタクハ。且ク夢ヲ以テ比対シテ解セヨ。睡眠ノ中ニ念想生スレハ。此形ノ外ニ形顕ル。眠ル身ト。夢ノ内ノ身ト。一ト云ヘカラス。異ト云ヘカラス。眠ル形ハ夢ノ形ヲ知ラズ。夢ノ吾身ハ別ニ眠レル姿アルコトヲ知ラヌ。此夢中ニ形生スレハ。山河大地生スル。此吾身ト山河大地ト。一ト云ヘカラズ。異ト云ヘカラズ。山ニイロイロノ山アリ。河モイロイロノ姿ヲ見ル。山河大地生スレハ。或ハ他ノ有情生スル。此吾身ト他ノ有情ト。一ト云ヘカラス。異ト云ヘカラス。有情生スレハ親疎分ル。親シキ人ニアヘハ悦フ。豺狼猛獣ニアヘハ怖畏ヲ生スル。此怖レラルル猛獣ニ実体ナキノミナラス。怖ルル吾身モ実体ナキシヤ。此ハ何ノ処ヨリ現ズルナラバ。睡眠ノ中。念想転変ニ由テコレ有シヤ。今日目前ノ境界モカクノ如クシヤ。
書き下し
初心ニ此処解シガタクハ。且ク夢ヲ以テ比対シテ解セヨ。睡眠ノ中ニ念想生スレハ。此形ノ外ニ形顕ル。眠ル身ト。夢ノ内ノ身ト。一ト云ヘカラス。異ト云ヘカラス。眠ル形ハ夢ノ形ヲ知ラズ。夢ノ吾身ハ別ニ眠レル姿アルコトヲ知ラヌ。此夢中ニ形生スレハ。山河大地生スル。此吾身ト山河大地ト。一ト云ヘカラズ。異ト云ヘカラズ。山ニイロイロノ山アリ。河モイロイロノ姿ヲ見ル。山河大地生スレハ。或ハ他ノ有情生スル。此吾身ト他ノ有情ト。一ト云ヘカラス。異ト云ヘカラス。有情生スレハ親疎分ル。親シキ人ニアヘハ悅フ。豺狼猛獣ニアヘハ怖畏ヲ生スル。此怖レラルル猛獣ニ実体ナキノミナラス。怖ルル吾身モ実体ナキシヤ。此ハ何ノ処ヨリ現ズルナラバ。睡眠ノ中。念想転変ニ由テコレ有シヤ。今日目前ノ境界モカクノ如クシヤ。
現代語訳
初心の者にこの所が解しがたければ、しばらく夢に比べて解せよ。眠りの中で念や想が生じれば、この形の外に形が現れる。眠っている身と、夢の中の身とは、一つとも言えず、異なるとも言えない。眠っている形は夢の形を知らない。夢の中の我が身は、別に眠っている姿があることを知らない。この夢の中に形が生じれば、山河大地が生じる。この我が身と山河大地とは、一つとも言えず、異なるとも言えない。山にはいろいろな山があり、河もいろいろな姿を見る。山河大地が生じれば、あるいは他の有情が生じる。この我が身と他の有情とは、一つとも言えず、異なるとも言えない。有情が生じれば親疎が分かれる。親しい人に会えば喜ぶ。豺狼や猛獣に会えば怖れを生じる。この怖れられる猛獣に実体がないだけでなく、怖れる我が身も実体がないのである。これはどこから現れるのかといえば、眠りの中の念想の転変によってあるのである。今日の目の前の境界も、このようなものである。
解説
この章句が説くこと
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『学問のすゝめ』六編・国法の貴きを論ず・指一本を賊の身に加うることをも許さず罪人を罰するは政府に限りたる権なり、私の職分にあらず。ゆえに私の力にてすでにこの強盗を取り押え、わが手に入りしうえは、平人の身としてこれを殺しこれを打擲すべからざるはもちろん、指一本を賊の身に加うることをも許さず、ただ政府に告げて政府の裁判を待つのみ。もしも賊を取り押えしうえにて、怒りに乗じてこれを殺し、これを打擲することあれば、その罪は無罪の人を殺し、無罪の人を打擲するに異ならず。譬えば某国の律に、「金十円を盗む者はその刑、笞一百、また足をもって人の面を蹴る者もその刑、笞一百」とあり。しかるにここに盗賊ありて、人の家に入り金十円を盗み得て出でんとするとき、主人に取り押えられ、すでに縛られしうえにて、その主人なおも怒りに乗じ足をもって賊の面を蹴ることあらん、しかるときその国の律をもってこれを論ずれば、賊は金十円を盗みし罪にて一百の笞を被り、主人もまた平人の身をもって私に賊の罪を裁決し足をもってその面を蹴りたる罪により笞うたるること一百なるべし。国法の厳なることかくのごとし。人々恐れざるべからず。
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『十善法語』巻第七・不兩舌戒経ニ云。仏言人於世間不犯他人婦女。心不念邪僻。従是得五善。何等五。一者不亡費。二者不畏県官。三者不畏人。四者得上天。天上玉女作婦。五者従天上来下生世間。多端正婦。今尊者見有若干婦端正好色。皆故世宿命不犯他人婦女所致也。見在分明。慎莫犯他人婦女トアル。若邪婬ノ者ハ此ニ反シテ。一ニハ家室和セス。夫婦シハシハ闘ヒ。シハシハ銭財ヲ費ス。二ニ王法ノ疾ム所。県官ノ罰スル所。身罪ニ当リ。死亡ヲ招ク。三ニ自カラ身ヲ欺キ。常ニ人ヲ畏ル。四ニ悪趣ニ入ル。五ニ悪趣ヨリ出テ。タマタマ人中ニ生シテモ。自ラ婬蕩不羈。随意ノ眷属ヲ得ズ。タマタマ有モ柔順ナラス。婦容色ナク。悪性嫉妬ス。設シ女人トナレハ独一主人ナラス。多人共シテ婦トシ。常ニ捶杖ニ遇フトアル。此業果面白キシヤ。天地ミナ分界アリ。万物各各主アル。守レハ此処ニ福智生スル。侵セハ此処ニ罪累起ル。此等ノ事。真正ノ道人ノ世間ニ在テ常ニ咲ヲ含ム処シヤ。
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論語・八佾篇林放礼の本を問う。子曰く、「大なるかな問いや。礼は其の奢らんよりは、寧ろ倹せよ。喪は其の易めんよりは、寧ろ戚めよ。」
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『呻吟語』外篇・治道・公私の二字は宇宙の人鬼關公私の兩字は、是れ宇宙の人鬼關なり。若し朝堂より以て閭裡に至るまで、只だ公の字を把持し得て定まれば、便ち自ら天清く地寧く、政清く訟息む。只だ一個の私の字にて、擾攘して世界を成さず。
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『呻吟語』外篇・人情・爾我の二字今人の骨肉の好の終はらざるは、只だ爾我の二字を看得ること太だ分曉なるが為なり。
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『十善法語』巻第十・不邪見戒之上此盤水ヲ彼甕ニウツストキ。此月影カ彼ヘ移リ往ニ非ス。当処ニ滅シテ当処ニ生スル。念想モ亦如是看ヨ。声ノ念カ去テ香ニ移リ往ニハ非ス。香ノ念カ去テ味ニ移リ往ニハ非ス。声ノ念ハ声処ニ生シテ声処ニ滅スル。味ノ念ハ味処ニ生シテ味処ニ滅スル。一ノ器ニ水ヲ貯レハ一ノ影有リ。百千ノ器ニ水ヲ貯レハ百千ノ影有ル。念想モ亦カクノ如シヤ。一境ヲ縁スルトキハ。此念ハ一相ニ似テ現スル。百千ノ境ヲ縁スレハ。此念ハ百千ニ似テ現スル。広大ノ境ヲ縁スレハ。此念ハ広大ニ似テ現スル。微細ノ境ヲ縁スレハ。此念ハ微細ニ似テ現スル。