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十善法語 / 巻第九・不瞋恚戒

晉ノ平公ノ時。師曠ト云カ樂師ト爲テ仕フ。或時平公出テ獵ス。乳虎車前ニ伏ス。平公悅テ師曠ニ問フ。我聞ク。覇王ノ君ノ出ルトキ猛獸伏スト。我出ルトキ乳虎伏シテ動ヌハイカナル事ソト。師曠云。君ノ駕スルトコロ駁馬ニアラズヤ。平公云。駁馬ヲ驂ニセシト。師曠云。駁馬カ駿ニ似タル故ナルヘシ。駮ト云獸ハ虎ヲ食スト。又或時平公出。朱文ノ鳥來リ繞テ久シク去ラズ。平公悅テ師曠ニ告。覇王ノ君ノ出ルトキ鳳凰下ルト。今日我出ルニ。朱文ノ鳥下リシハ何ナルコトソ。師曠云。君ハ狐裘ヲ服セズヤ。平公云シカリ。師曠云。鳳ニハアラシ。東方ニ文身朱足ノ鳥アリテ。名ヲ諫珂ト云。是ハ鳥ヲ愛セズシテ狐ヲ愛ストキク。此鳥君ノ裘ヲ見テナレナツクナルヘシ。總シテサシテモナキコトヲ。吉事德義ノヤウニ思フハ。灾ノ兆ト告タ。平公心內不悅。

新字:晋ノ平公ノ時。師曠ト云カ楽師ト為テ仕フ。或時平公出テ猟ス。乳虎車前ニ伏ス。平公悦テ師曠ニ問フ。我聞ク。覇王ノ君ノ出ルトキ猛獣伏スト。我出ルトキ乳虎伏シテ動ヌハイカナル事ソト。師曠云。君ノ駕スルトコロ駁馬ニアラズヤ。平公云。駁馬ヲ驂ニセシト。師曠云。駁馬カ駿ニ似タル故ナルヘシ。駮ト云獣ハ虎ヲ食スト。又或時平公出。朱文ノ鳥来リ繞テ久シク去ラズ。平公悦テ師曠ニ告。覇王ノ君ノ出ルトキ鳳凰下ルト。今日我出ルニ。朱文ノ鳥下リシハ何ナルコトソ。師曠云。君ハ狐裘ヲ服セズヤ。平公云シカリ。師曠云。鳳ニハアラシ。東方ニ文身朱足ノ鳥アリテ。名ヲ諫珂ト云。是ハ鳥ヲ愛セズシテ狐ヲ愛ストキク。此鳥君ノ裘ヲ見テナレナツクナルヘシ。総シテサシテモナキコトヲ。吉事徳義ノヤウニ思フハ。災ノ兆ト告タ。平公心内不悦。

書き下し

晋ノ平公ノ時。師曠ト云カ楽師ト為テ仕フ。或時平公出テ猟ス。乳虎車前ニ伏ス。平公悅テ師曠ニ問フ。我聞ク。覇王ノ君ノ出ルトキ猛獣伏スト。我出ルトキ乳虎伏シテ動ヌハイカナル事ソト。師曠云。君ノ駕スルトコロ駁馬ニアラズヤ。平公云。駁馬ヲ驂ニセシト。師曠云。駁馬カ駿ニ似タル故ナルヘシ。駮ト云獣ハ虎ヲ食スト。又或時平公出。朱文ノ鳥来リ繞テ久シク去ラズ。平公悅テ師曠ニ告。覇王ノ君ノ出ルトキ鳳凰下ルト。今日我出ルニ。朱文ノ鳥下リシハ何ナルコトソ。師曠云。君ハ狐裘ヲ服セズヤ。平公云シカリ。師曠云。鳳ニハアラシ。東方ニ文身朱足ノ鳥アリテ。名ヲ諫珂ト云。是ハ鳥ヲ愛セズシテ狐ヲ愛ストキク。此鳥君ノ裘ヲ見テナレナツクナルヘシ。総シテサシテモナキコトヲ。吉事徳義ノヤウニ思フハ。灾ノ兆ト告タ。平公心内不悅。

現代語訳

晋の平公の時、師曠という者が楽師として仕えていた。ある時、平公が出て狩りをした。子連れの虎が車の前に伏した。平公は喜んで師曠に問うた。「私は聞いている。覇王の君が出るときには猛獣が伏すと。私が出るときに子連れの虎が伏して動かないのは、どういうことか」と。師曠は言った。「君が乗っておられるのは駁馬ではありませんか」。平公は言った。「駁馬を添え馬にした」と。師曠は言った。「駁馬が駿(駮)に似ているからでしょう。駮という獣は虎を食べるのです」と。またある時、平公が出ると、朱色の模様の鳥が来てまつわり、久しく去らなかった。平公は喜んで師曠に告げた。「覇王の君が出るときには鳳凰が下ると言う。今日私が出ると朱模様の鳥が下りたのは、どういうことか」。師曠は言った。「君は狐の皮衣を着ておられませんか」。平公は言った。「そうだ」。師曠は言った。「鳳ではないでしょう。東方に体に模様があり足の赤い鳥がいて、名を諫珂と言います。これは鳥を愛さないで狐を愛すると聞きます。この鳥は君の皮衣を見てなれ親しんだのでしょう。総じて、さしたることもないことを吉事や徳義のように思うのは、災いの兆しです」と告げた。平公は心の内で喜ばなかった。

解説

晋の平公と楽師師曠の話である。虎が伏したのを覇王の徳と喜ぶ平公に、師曠は、虎を食う駮に似た駁馬に乗っているからだと答え、鳥がまつわったのを鳳凰の瑞兆と喜べば、狐の皮衣に寄って来たのだろうと答える。そして、何でもないことを吉兆や自分の徳のように思うのは災いの兆しだと告げる。耳に痛い真実を告げられた平公は、心中おもしろくない。成果を自分の手柄と思いたがる心と、それを正す直言が、この後の展開の伏線になる。

この章句が説くこと

師曠直言吉兆慢心縁起平公

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