十善法語 / 巻第九・不瞋恚戒
華嚴經ニ。心ハ好畫師ノ如ク。種種ノ五蘊ヲ造ル。世間一切ノ法。法トシテ造ラザルコトナシ。心ノ如ク佛モ亦シカリ。佛ノ如ク衆生モ亦シカリ。心佛及衆生。是三無差別トアル。又經ニ譬ヲ擧テ。畫師カ五彩ヲ以テ夜叉ノ形ヲ畫キナシテ。自ラ怖ルル如クトアル。一切衆生カ自心ニ思ヒヲ起シ。自心ト云名ヲツケテ。此心ヨリ境ヲ生シ。自カラ造作セシ境ニ隨テ愛恚ヲ起ス。此ニ愛ヲ生スレハ。彼モ愛ヲ以テ應シ。此ニ瞋恚ヲ生スレハ。彼モ瞋恚ヲ以テ應ス。境カ心ニ隨テ種種ニ轉變スル。不可得ナルモノカ衆生トナリ來ル。瞋恚心トナリ來ル。瞋恚ノ一念心カアラレヌ姿ヲ成スル。誠ニ愚ナル畫師カ自ラ畫キ出シタ夜叉ニ怖レテ。自ラ夜分ニオソハルル如クシヤ。此ニ一ノ近キ故事カアルシヤ。
新字:華厳経ニ。心ハ好画師ノ如ク。種種ノ五蘊ヲ造ル。世間一切ノ法。法トシテ造ラザルコトナシ。心ノ如ク仏モ亦シカリ。仏ノ如ク衆生モ亦シカリ。心仏及衆生。是三無差別トアル。又経ニ譬ヲ挙テ。画師カ五彩ヲ以テ夜叉ノ形ヲ画キナシテ。自ラ怖ルル如クトアル。一切衆生カ自心ニ思ヒヲ起シ。自心ト云名ヲツケテ。此心ヨリ境ヲ生シ。自カラ造作セシ境ニ随テ愛恚ヲ起ス。此ニ愛ヲ生スレハ。彼モ愛ヲ以テ応シ。此ニ瞋恚ヲ生スレハ。彼モ瞋恚ヲ以テ応ス。境カ心ニ随テ種種ニ転変スル。不可得ナルモノカ衆生トナリ来ル。瞋恚心トナリ来ル。瞋恚ノ一念心カアラレヌ姿ヲ成スル。誠ニ愚ナル画師カ自ラ画キ出シタ夜叉ニ怖レテ。自ラ夜分ニオソハルル如クシヤ。此ニ一ノ近キ故事カアルシヤ。
書き下し
華厳経ニ。心ハ好画師ノ如ク。種種ノ五蘊ヲ造ル。世間一切ノ法。法トシテ造ラザルコトナシ。心ノ如ク仏モ亦シカリ。仏ノ如ク衆生モ亦シカリ。心仏及衆生。是三無差別トアル。又経ニ譬ヲ挙テ。画師カ五彩ヲ以テ夜叉ノ形ヲ画キナシテ。自ラ怖ルル如クトアル。一切衆生カ自心ニ思ヒヲ起シ。自心ト云名ヲツケテ。此心ヨリ境ヲ生シ。自カラ造作セシ境ニ随テ愛恚ヲ起ス。此ニ愛ヲ生スレハ。彼モ愛ヲ以テ応シ。此ニ瞋恚ヲ生スレハ。彼モ瞋恚ヲ以テ応ス。境カ心ニ随テ種種ニ転変スル。不可得ナルモノカ衆生トナリ来ル。瞋恚心トナリ来ル。瞋恚ノ一念心カアラレヌ姿ヲ成スル。誠ニ愚ナル画師カ自ラ画キ出シタ夜叉ニ怖レテ。自ラ夜分ニオソハルル如クシヤ。此ニ一ノ近キ故事カアルシヤ。
現代語訳
華厳経に、「心は巧みな画師のように、種々の五蘊を作る。世間の一切の法は、作らないものはない。心のように仏もまたそうである。仏のように衆生もまたそうである。心と仏と衆生、この三つに差別はない」とある。また経に譬えを挙げて、画師が五彩で夜叉の形を描いて、自ら怖れるようなものだ、とある。一切衆生が自分の心に思いを起こし、自心という名をつけて、この心から境を生じ、自ら作り出した境に従って愛と怒りを起こす。こちらに愛を生じれば、あちらも愛で応じる。こちらに瞋恚を生じれば、あちらも瞋恚で応じる。境が心に従って種々に転変する。得ることのできないものが衆生となって来る。瞋恚の心となって来る。瞋恚の一念の心が、ありえない姿を成す。まことに愚かな画師が、自ら描き出した夜叉に怖れて、自ら夜中にうなされるようなものである。ここに一つの身近な故事がある。
解説

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