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十善法語 / 巻第九・不瞋恚戒

此時沙彌龍宮ノ莊嚴。龍女ノ容貌ヲ見テ貪欲相應ス。食時ニ至テ。羅漢ニハ天ノ甘露ヲ供シ。沙彌ニハ人間相應ノ食物ヲ與フ。沙彌此ニテ瞋恚ヲ生シテ。自念言發願ス。食物ハ上座モ下座モ平等ナルヘシ。德アルモ德ナキモ其隔アルマシキ理ナリ。我德ナキヲ侮リ。差別スルハ惡ムベシ。我出家已來ノ持戒誦經ノ功德ヲ以テ。大力ノ龍王トナリ。此龍ヲ殺シ。此龍宮ヲ奪フヘシト。總シテ善願モ惡願モ誠心決定セルコトハ。其感應アルト云コトシヤ。

新字:此時沙弥竜宮ノ荘厳。竜女ノ容貌ヲ見テ貪欲相応ス。食時ニ至テ。羅漢ニハ天ノ甘露ヲ供シ。沙弥ニハ人間相応ノ食物ヲ与フ。沙弥此ニテ瞋恚ヲ生シテ。自念言発願ス。食物ハ上座モ下座モ平等ナルヘシ。徳アルモ徳ナキモ其隔アルマシキ理ナリ。我徳ナキヲ侮リ。差別スルハ悪ムベシ。我出家已来ノ持戒誦経ノ功徳ヲ以テ。大力ノ竜王トナリ。此竜ヲ殺シ。此竜宮ヲ奪フヘシト。総シテ善願モ悪願モ誠心決定セルコトハ。其感応アルト云コトシヤ。

書き下し

此時沙弥竜宮ノ荘厳。竜女ノ容貌ヲ見テ貪欲相応ス。食時ニ至テ。羅漢ニハ天ノ甘露ヲ供シ。沙弥ニハ人間相応ノ食物ヲ与フ。沙弥此ニテ瞋恚ヲ生シテ。自念言発願ス。食物ハ上座モ下座モ平等ナルヘシ。徳アルモ徳ナキモ其隔アルマシキ理ナリ。我徳ナキヲ侮リ。差別スルハ悪ムベシ。我出家已来ノ持戒誦経ノ功徳ヲ以テ。大力ノ竜王トナリ。此竜ヲ殺シ。此竜宮ヲ奪フヘシト。総シテ善願モ悪願モ誠心決定セルコトハ。其感応アルト云コトシヤ。

現代語訳

このとき沙弥は、龍宮の荘厳や龍女の容貌を見て、貪欲の心が起こった。食事の時になって、羅漢には天の甘露を供え、沙弥には人間にふさわしい食べ物を与えた。沙弥はここで瞋恚を生じて、自ら心に念じて願を起こした。「食べ物は上座も下座も平等であるべきだ。徳のある者も徳のない者も、隔てがあってはならない道理である。私の徳のないのを侮って差別するのは憎むべきことだ。私が出家して以来の持戒と誦経の功徳によって、大力の龍王となり、この龍を殺し、この龍宮を奪ってやろう」と。総じて、善い願も悪い願も、誠の心で決定したことには、その感応があるということである。

解説

龍宮の美しさと龍女の容貌に貪りの心を起こした沙弥は、食事で師と差をつけられたことに怒り、持戒と誦経の功徳をすべて懸けて、大力の龍王となって龍宮を奪うと誓う。前に説かれた、貪欲と瞋恚は表裏一体という教えが、そのまま物語になっている。平等であるべきだという主張は一見正論だが、その根にあるのは侮られたという思いと、欲しいものへの執着である。正論の形をとった怒りほど、自分では気づきにくい。善願も悪願も誠心で決めれば感応がある、という一言が重く響く。

この章句が説くこと

瞋恚貪欲差別発願沙弥感応

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