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十善法語 / 巻第八・不貪欲戒

此戒善日夜ニ增長スル。四海ミナ十善ノ民シヤ。奸臣ノ苛政ヲ設ケ。貪吏ノ賄賂ヲ求ル樣ナコトハ。其名タモ聞ヌト云コトシヤ。廊廟ニハ篤行ノ輔佐ヲ見ル。山林ニハ禪定ノ沙門ヲ見ル。人事全シテ天氣應スル。五星ノ逆行水旱諸灾ハ。其名ヲモ聞ヌト云コトシヤ。天氣正シテ地氣應スル。田野關ケ諸穀成就シ。海中ニ珠寶ヲ出シテ。地上ニ醴泉ヲ出ス。器財其宜ヲ得ル。人物其宜ヲ得ル。人人端麗。正直美貌。諸ノ惡疾醜陋ハ其名ヲモ聞ヌト云コトシヤ。諸ノ盲聾頑囂叛臣賊子ノ類ハ。其名ヲモ聞ヌト云コトシヤ。機有テ感ゼザルコトハナイ。賢聖必此地ニ迹ヲ垂レ。諸天神祇此國ヲ守護スト云。不貪欲戒ノ法。法トシテ如是シヤ。華嚴經ニ。貪欲之罪亦令衆生墮三惡道トアル。是カ異熟果シヤ。若在人中得二種果報。一者心不知足。二者多欲無厭トアル。是ヲ等流果ト云シヤ。他ノ經ニ。世界ノ五穀ノ實ノリ惡ク。官位俸祿モ減ストアルハ。增上果シヤ。

新字:此戒善日夜ニ增長スル。四海ミナ十善ノ民シヤ。奸臣ノ苛政ヲ設ケ。貪吏ノ賄賂ヲ求ル様ナコトハ。其名タモ聞ヌト云コトシヤ。廊廟ニハ篤行ノ輔佐ヲ見ル。山林ニハ禅定ノ沙門ヲ見ル。人事全シテ天気応スル。五星ノ逆行水旱諸災ハ。其名ヲモ聞ヌト云コトシヤ。天気正シテ地気応スル。田野関ケ諸穀成就シ。海中ニ珠宝ヲ出シテ。地上ニ醴泉ヲ出ス。器財其宜ヲ得ル。人物其宜ヲ得ル。人人端麗。正直美貌。諸ノ悪疾醜陋ハ其名ヲモ聞ヌト云コトシヤ。諸ノ盲聾頑囂叛臣賊子ノ類ハ。其名ヲモ聞ヌト云コトシヤ。機有テ感ゼザルコトハナイ。賢聖必此地ニ迹ヲ垂レ。諸天神祇此国ヲ守護スト云。不貪欲戒ノ法。法トシテ如是シヤ。華厳経ニ。貪欲之罪亦令衆生堕三悪道トアル。是カ異熟果シヤ。若在人中得二種果報。一者心不知足。二者多欲無厭トアル。是ヲ等流果ト云シヤ。他ノ経ニ。世界ノ五穀ノ実ノリ悪ク。官位俸禄モ減ストアルハ。增上果シヤ。

書き下し

此戒善日夜ニ增長スル。四海ミナ十善ノ民シヤ。奸臣ノ苛政ヲ設ケ。貪吏ノ賄賂ヲ求ル様ナコトハ。其名タモ聞ヌト云コトシヤ。廊廟ニハ篤行ノ輔佐ヲ見ル。山林ニハ禅定ノ沙門ヲ見ル。人事全シテ天気応スル。五星ノ逆行水旱諸灾ハ。其名ヲモ聞ヌト云コトシヤ。天気正シテ地気応スル。田野関ケ諸穀成就シ。海中ニ珠宝ヲ出シテ。地上ニ醴泉ヲ出ス。器財其宜ヲ得ル。人物其宜ヲ得ル。人人端麗。正直美貌。諸ノ悪疾醜陋ハ其名ヲモ聞ヌト云コトシヤ。諸ノ盲聾頑囂叛臣賊子ノ類ハ。其名ヲモ聞ヌト云コトシヤ。機有テ感ゼザルコトハナイ。賢聖必此地ニ迹ヲ垂レ。諸天神祇此国ヲ守護スト云。不貪欲戒ノ法。法トシテ如是シヤ。華厳経ニ。貪欲之罪亦令衆生堕三悪道トアル。是カ異熟果シヤ。若在人中得二種果報。一者心不知足。二者多欲無厭トアル。是ヲ等流果ト云シヤ。他ノ経ニ。世界ノ五穀ノ実ノリ悪ク。官位俸禄モ減ストアルハ。增上果シヤ。

現代語訳

この戒の善が日夜に増長する。四海の民はみな十善の民である。奸臣が苛政を設け、貪欲な役人が賄賂を求めるようなことは、その名さえ聞かないということである。朝廷には行いの篤い補佐の臣を見る。山林には禅定の沙門を見る。人の事が全うされて、天の気が応じる。五星の逆行や水害・旱魃などの諸々の災いは、その名さえ聞かないということである。天の気が正しくて、地の気が応じる。田野は開け、諸々の穀物は実り、海中には珠宝を出し、地上には甘い泉を出す。器財はその宜しきを得る。人も物もその宜しきを得る。人々は端麗で、正直で美しい容貌である。諸々の悪疾や醜さは、その名さえ聞かないということである。諸々の盲聾や頑なで道理に暗い者、叛臣賊子の類は、その名さえ聞かないということである。機縁があって感応しないことはない。賢聖は必ずこの地に迹を垂れ、諸天や神々がこの国を守護すると言う。不貪欲戒の法は、法としてこのようなものである。華厳経に、「貪欲の罪は、衆生を三悪道に堕とさせる」とある。これが異熟果である。「もし人の中に生まれれば、二種の果報を得る。一つには心が足ることを知らない。二つには欲が多くて飽くことがない」とある。これを等流果と言うのである。他の経に、世界の五穀の実りが悪く、官位や俸禄も減る、とあるのは、増上果である。

解説

不貪欲戒が国中に行き渡ったときの理想の世を描き、最後に貪欲の報いを三つの果に分けて結ぶ。賄賂も苛政もなく、朝廷に篤実な臣、山林に禅定の僧がいて、天地の気が応じて実りが豊かになる、という描写は、戒と国土の安穏を結びつける当時の仏教の世界観による。病や障りのある人の名も聞かれないという表現も、その時代の見方として読むべきである。後半の、三悪道に堕ちる異熟果、足ることを知らない心が続く等流果、世の実りが減る増上果という整理は、欲が心の癖として残り、周囲にまで及ぶという見取り図として今も示唆に富む。

この章句が説くこと

十善果報等流果華厳経貪欲国土

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