十善法語 / 巻第八・不貪欲戒
驕奢ノ身ニ益ナキコトヲ知ル。常ニ減シテ更ニ減スル。飢テ食スレバ諸味ミナ口ニ適フ。困シテ眠レバ寢席常ニ安キシヤ。文華ノ志ヲ傷ルコトヲ知ル。拙ヲ守テ更ニマモル。器物ノ飾ヲ省ク。衣服ノ飾ヲ省ク。言辭巧ヲ去テ直ニ就ク。進退繁ヲ去テ簡ニ就ク。位ハ居ル處ニシテ足ル。富ハ命アル處ニ足ル。樂ハ四時晝夜ニ具ル。清夜ニ仰テ明月衆星ヲ見ル此莊嚴ハ金銀珠玉ノ及フ所テナイ。丹霞ノ空ニ浮フヲ見ル。輕霧ノ林樹ヲ擁スルヲ看ル。此莊嚴ハ錦繡綾羅ノ及フ所デナイ。此不貪欲戒ヲ以テ心トスルハ面白キコトシヤ。
新字:驕奢ノ身ニ益ナキコトヲ知ル。常ニ減シテ更ニ減スル。飢テ食スレバ諸味ミナ口ニ適フ。困シテ眠レバ寝席常ニ安キシヤ。文華ノ志ヲ傷ルコトヲ知ル。拙ヲ守テ更ニマモル。器物ノ飾ヲ省ク。衣服ノ飾ヲ省ク。言辞巧ヲ去テ直ニ就ク。進退繁ヲ去テ簡ニ就ク。位ハ居ル処ニシテ足ル。富ハ命アル処ニ足ル。楽ハ四時昼夜ニ具ル。清夜ニ仰テ明月衆星ヲ見ル此荘厳ハ金銀珠玉ノ及フ所テナイ。丹霞ノ空ニ浮フヲ見ル。軽霧ノ林樹ヲ擁スルヲ看ル。此荘厳ハ錦繡綾羅ノ及フ所デナイ。此不貪欲戒ヲ以テ心トスルハ面白キコトシヤ。
書き下し
驕奢ノ身ニ益ナキコトヲ知ル。常ニ減シテ更ニ減スル。飢テ食スレバ諸味ミナ口ニ適フ。困シテ眠レバ寝席常ニ安キシヤ。文華ノ志ヲ傷ルコトヲ知ル。拙ヲ守テ更ニマモル。器物ノ飾ヲ省ク。衣服ノ飾ヲ省ク。言辞巧ヲ去テ直ニ就ク。進退繁ヲ去テ簡ニ就ク。位ハ居ル処ニシテ足ル。富ハ命アル処ニ足ル。楽ハ四時昼夜ニ具ル。清夜ニ仰テ明月衆星ヲ見ル此荘厳ハ金銀珠玉ノ及フ所テナイ。丹霞ノ空ニ浮フヲ見ル。軽霧ノ林樹ヲ擁スルヲ看ル。此荘厳ハ錦繡綾羅ノ及フ所デナイ。此不貪欲戒ヲ以テ心トスルハ面白キコトシヤ。
現代語訳
驕りや奢りが身に益のないことを知っている。常に減らして、さらに減らす。飢えて食べれば、どんな味もみな口に合う。疲れて眠れば、寝床は常に安らかである。文飾が志を損なうことを知っている。拙さを守って、さらに守る。器物の飾りを省く。衣服の飾りを省く。言葉は巧みさを去って率直につく。立ち居振る舞いは煩雑を去って簡素につく。位は居る所で足りる。富は命のある所で足りる。楽しみは四季と昼夜に具わっている。清らかな夜に仰いで明月や多くの星を見る、この荘厳は金銀珠玉の及ぶところではない。赤い霞が空に浮かぶのを見る。薄い霧が林の木々を包むのを見る。この荘厳は錦や綾絹の及ぶところではない。この不貪欲戒を心とするのは面白いことである。
解説
この章句が説くこと
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『十善法語』巻第八・不貪欲戒勇烈ノ士モ此生力ナク此死力ナイ。不貪欲戒ノ姿シヤ。智謀ノ士モ此生自ラ知ラズ。此死自ラ弁セヌ。不貪欲戒ノ姿シヤ。枯淡ヲ守ト云モ。慳吝ナルコトデハナイ。慳吝ハ貪欲ニ順スル。反テ自ノ果報ヲ減ズル。窮鬼ガ集テ事ノ成就ヲ妨クル。要ヲ取テ云ハハ。世ニ処シテ此戒ヲ護スル者ハ天地ヲ以テ我心トスルシヤ。天ノ与フル所ハ万乗モ辞セズ。天ノ惜ム所ハ一草一木モ取ラヌ。施ハ天ノ施ニ随フ。恵ミ万民ニ被フ。収ルハ天ノ収ルニ随フ。珠玉ヲ山海ニ置キ。器財ヲ国家ニ布ク。位ト名ト常ニ保着シテ猥ニ他ニアタヘス。金銀貨財上下通用シテ滞ラヌシヤ。
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『十善法語』巻第八・不貪欲戒此戒法我ニ非ス。我所ニ非ス。生生ノ処此戒ト倶ニ生スル。此戒ト倶ニ長スル。富四海ヲ保テ心ニ繋縛ナイ。貴キ億兆ノ上ニ居シテ心ニ倨傲ナイ。心ニ繋縛ナケレハ。此富未来際ヲ尽シテ用ヒ尽サヌシヤ。心ニ倨傲ナケレハ。此位世界ノアラン限リハ尽サヌシヤ。ナゼソ。法性無尽ナレバ戒善モ無尽シヤ。戒善無尽ナレハ善業果モ無尽シヤ。善果戒法ヲ助テ常ニ世界ニ居ス。此位此富生生ノ処ニ随逐シテ影ノ形ヲ逐ガ如クシヤ。戒法善果ヲ助テ常ニ法性ニ順スル。此繋縛ナク。此倨傲ナイ。不貪欲戒ノ法。法トシテカクノ如クシヤ。
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『十善法語』巻第八・不貪欲戒ヨク此戒ヲ護持スル者ハ。家宅十分ノ安ヲ求メヌ。病アルトキ医ニ十分ノ功ヲ求メヌ。人ニ交リテ十分ノ親好ヲ求メヌ。臣佐ヲ用ルニ各ソノ長スル処ヲ取ル。器財ヲ用ルニ唯時ノ用ニ達スルヲ取ル。奴僕ヲ役使スルニ十分ノ労ヲ為シメヌ。軍ニ臨ンテ十分ノ勝ヲトラヌ。敵ヲ亡スニ其遠裔ヲ殺シ尽サヌ。書ヲ読ニ解シ尽コトヲ求メヌ。事ニ臨テ十分ノ才ヲ尽サヌ。十分ノ名ニ居ラヌ。十分ノ功ニ居ラヌ。万般ノ事。此守ヲ失ハヌト云コトシヤ。子弟ヲ導クモ。沙門ノ弟子ヲ度スルモ。此不貪欲戒ヲ以テ主トスルト云コトシヤ。
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『十善法語』巻第八・不貪欲戒此正法ノ処ヨリ看レバ。天地モ全ク不貪欲戒ノ姿シヤ。日モ中スレバ傾ク。月モ満レバ虧ル。物盛ナレハ衰フ。草木モ花ノウルハシキモノハ果カ美ナラヌ。禽獣モ用アル者ハ牙ヲ略ス。珠玉ノ多キ国ハ必ス五穀衣服ニ乏シ。寒雪ノ国ハ暴風少キト云シヤ。人間モ全ク不貪欲戒ノ姿シヤ。生スルトキ唯独リ生スル。眷属ト共ニ生ルル者モナイ。衣食玩具ヲ持テ生ルル者モナイ。死スルトキ唯独リ死スル。眷属僕従ヲ将テ死スル者モナイ。衣食玩具ヲ将去ル者モナイ。思ハ面白キコトシヤ。富栄ノ人ハ短命ナルカ多イ。貧賤ノ家ハ多ク子孫ニ乏カラヌシヤ。多事ナレバ身ヲ損スル。多慮ナレバ心ヲ労スル。華奢ヲ好ム者ハ多其家ヲ亡ス。枯淡ヲ守ル者ハ多ク一世ヲ全クスルシヤ。此中ニ独生レ独死シテ。眷属衣食ヲモ身ニ従ヘヌト云ハ畜生ナトノヤウニ無福テ生ルルト云テハナイ。此人間界福分高下差別アレトモ。不貪欲戒ノ姿ナルコトハ一シヤ。千乗ノ主モ独死シ独生スル。不貪欲戒ノ姿シヤ。万乗ノ君モ独生シ独死スル不貪欲戒ノ姿シヤ。千金ノ子モ一銭ヲ将来ラス。一銭ヲ将去ラヌ。不貪欲戒ノ姿シヤ。
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『十善法語』巻第八・不貪欲戒大抵高位大禄ノ人ハ過去十善ノ余慶ナルニ由テ。貪欲薄ク華奢ニ随順セヌモノシヤ。下賤困窮ノ者ハ宿縁ツタナキ故ニ。慳貪深ク華麗ヲ好ムモノシヤ。世ニ高貴ノ人ノ財利ニ耽リ。華奢ヲ好ミ事ニ貪欲ニ随順スルハ。多クハ奸佞ノ小臣ニ誘ハルル故ト云コトシヤ。又念ノ生スルモ其分限不相応ナル事ハ。多ハ凶事ノ兆ト云コトシヤ。若貪欲相応スレバ。此戒ノ違犯トナル。增上スレバ身ヲ亡シ国家ヲ敗ル。此ヲ初ニ慎マネバ。終ニ救フベカラザルニ至シヤ。
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『十善法語』巻第八・不貪欲戒此身有テ衣ル。其限ヲ知ル。身ニ適ヘハ止ム。此衣服十分ノ好ヲ求メヌ。華麗ハ一向所論デナイ。沙門法ノ中ハ。染壊割截等ノ儀アル是シヤ。殷ノ紂王カ衣珠玉トハ。愚ノ甚シキシヤ。此口有テ喫フ。其限ヲ知ル。十分ノ好味ヲ求メヌ。若其味甚口ニ適フトキハ。三分ニシテ一ヲ減スル。沙門法ノ中ハ。節量食ノ式。水浄ノ儀アル是シヤ。外国ニ六畜ヲ常食トスルハ。十善ノ儀テハナイ。斑足王ガ人肉ヲ食スル。易牙カ其子ヲ煮ハ。尤モ甚シキコトシヤ。此眼有テ見ル。五采ノ明ヲ害スルコトヲ知ル。十分ノ好色ヲ求メヌ。若其色甚タ眼ニ適フトキハ其守ヲ知ル。沙門法ノ中ハ。金銀荘飾具等ヲ好マヌ。是シヤ。東昏侯カ園中ノ石五色ノ彩ヲナス。蜀主王衍カ絵ヲ結テ山ヲ為リ。其上ニ酒宴スル類ハ。甚シキコトシヤ。