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十善法語 / 巻第八・不貪欲戒

且ク事例ヲ言ハハ。花ヲ愛スルモ梅ノ雪中ニ開クヲ賞スル可ナリシヤ。櫻ヲ庭前ニ植ルモ。山林ニ尋ルモ可ナリシヤ。美シキ花樹ノ昔ヨリ庭前ニ在ルヲ。ホリ棄ルデモナキシヤ。春寒ニ花ノ遲ヲ恨ル。風ノ急ナルニ散ルヲ惜ム。騷人ノ一興ハ許スベキシヤ。若他家庭前ノ植木ヲモ奪ヒ。財ヲ費シ力ヲ勞シテ求テ止ヌ類ハ。實ニ灾ノ伏スル處シヤ。甚ニ至テハ。隋煬帝ノトキ秋冬凋落則剪綵爲花葉。綴於枝葉。色渝則易以新者ノ類。齊ノ東昏侯カ金蓮ヲ作テ潘妃ニ踏ミ行シムル類ハ。亡國ノ兆シヤ。

新字:且ク事例ヲ言ハハ。花ヲ愛スルモ梅ノ雪中ニ開クヲ賞スル可ナリシヤ。桜ヲ庭前ニ植ルモ。山林ニ尋ルモ可ナリシヤ。美シキ花樹ノ昔ヨリ庭前ニ在ルヲ。ホリ棄ルデモナキシヤ。春寒ニ花ノ遅ヲ恨ル。風ノ急ナルニ散ルヲ惜ム。騷人ノ一興ハ許スベキシヤ。若他家庭前ノ植木ヲモ奪ヒ。財ヲ費シ力ヲ労シテ求テ止ヌ類ハ。実ニ災ノ伏スル処シヤ。甚ニ至テハ。隋煬帝ノトキ秋冬凋落則剪綵為花葉。綴於枝葉。色渝則易以新者ノ類。斉ノ東昏侯カ金蓮ヲ作テ潘妃ニ踏ミ行シムル類ハ。亡国ノ兆シヤ。

書き下し

且ク事例ヲ言ハハ。花ヲ愛スルモ梅ノ雪中ニ開クヲ賞スル可ナリシヤ。桜ヲ庭前ニ植ルモ。山林ニ尋ルモ可ナリシヤ。美シキ花樹ノ昔ヨリ庭前ニ在ルヲ。ホリ棄ルデモナキシヤ。春寒ニ花ノ遅ヲ恨ル。風ノ急ナルニ散ルヲ惜ム。騷人ノ一興ハ許スベキシヤ。若他家庭前ノ植木ヲモ奪ヒ。財ヲ費シ力ヲ労シテ求テ止ヌ類ハ。実ニ灾ノ伏スル処シヤ。甚ニ至テハ。隋煬帝ノトキ秋冬凋落則剪綵為花葉。綴於枝葉。色渝則易以新者ノ類。斉ノ東昏侯カ金蓮ヲ作テ潘妃ニ踏ミ行シムル類ハ。亡国ノ兆シヤ。

現代語訳

しばらく事例を言えば、花を愛するにしても、梅が雪の中に咲くのを賞するのはよい。桜を庭先に植えるのも、山林に訪ねるのもよい。昔から庭先にある美しい花の木を、掘って捨てるのでもない。春の寒さに花の遅いのを恨み、風の急なのに散るのを惜しむ、風流人の一興は許すべきである。もし他家の庭先の植木までも奪い、財を費やし力を労して求めて止まない類は、実に災いの潜む所である。甚だしいものになると、隋の煬帝のとき、秋冬に草木が枯れ落ちると、綾絹を切って花や葉を作り、枝に綴りつけ、色があせると新しいものに取り替えた類、斉の東昏侯が金の蓮を作って潘妃にその上を歩ませた類は、亡国の兆しである。

解説

美しいものとの付き合い方を、花を例に具体的に示す。雪中の梅を愛で、桜を植え、散る花を惜しむ風流は許される。問題は、他家の植木まで奪い、財と力を費やして求め続けるところにある。隋の煬帝が冬に絹で造花を作らせて枝に綴らせた話、南斉の東昏侯が金の蓮華を作って潘妃に歩ませた話は、美を愛する心が際限を失ったとき、亡国の兆しとなる例である。楽しみを禁じるのではなく、求めて止まない所に境目を置く考え方は、趣味や消費にもそのまま当てはまる。
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この章句が説くこと

風流花煬帝東昏侯亡国貪欲

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