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十善法語 / 巻第八・不貪欲戒

此正法ノ處ヨリ看レバ。天地モ全ク不貪欲戒ノ姿シヤ。日モ中スレバ傾ク。月モ滿レバ虧ル。物盛ナレハ衰フ。草木モ花ノウルハシキモノハ果カ美ナラヌ。禽獸モ用アル者ハ牙ヲ略ス。珠玉ノ多キ國ハ必ス五穀衣服ニ乏シ。寒雪ノ國ハ暴風少キト云シヤ。人間モ全ク不貪欲戒ノ姿シヤ。生スルトキ唯獨リ生スル。眷屬ト共ニ生ルル者モナイ。衣食玩具ヲ持テ生ルル者モナイ。死スルトキ唯獨リ死スル。眷屬僕從ヲ將テ死スル者モナイ。衣食玩具ヲ將去ル者モナイ。思ハ面白キコトシヤ。富榮ノ人ハ短命ナルカ多イ。貧賤ノ家ハ多ク子孫ニ乏カラヌシヤ。多事ナレバ身ヲ損スル。多慮ナレバ心ヲ勞スル。華奢ヲ好ム者ハ多其家ヲ亡ス。枯淡ヲ守ル者ハ多ク一世ヲ全クスルシヤ。此中ニ獨生レ獨死シテ。眷屬衣食ヲモ身ニ從ヘヌト云ハ畜生ナトノヤウニ無福テ生ルルト云テハナイ。此人間界福分高下差別アレトモ。不貪欲戒ノ姿ナルコトハ一シヤ。千乘ノ主モ獨死シ獨生スル。不貪欲戒ノ姿シヤ。萬乘ノ君モ獨生シ獨死スル不貪欲戒ノ姿シヤ。千金ノ子モ一錢ヲ將來ラス。一錢ヲ將去ラヌ。不貪欲戒ノ姿シヤ。

新字:此正法ノ処ヨリ看レバ。天地モ全ク不貪欲戒ノ姿シヤ。日モ中スレバ傾ク。月モ満レバ虧ル。物盛ナレハ衰フ。草木モ花ノウルハシキモノハ果カ美ナラヌ。禽獣モ用アル者ハ牙ヲ略ス。珠玉ノ多キ国ハ必ス五穀衣服ニ乏シ。寒雪ノ国ハ暴風少キト云シヤ。人間モ全ク不貪欲戒ノ姿シヤ。生スルトキ唯独リ生スル。眷属ト共ニ生ルル者モナイ。衣食玩具ヲ持テ生ルル者モナイ。死スルトキ唯独リ死スル。眷属僕従ヲ将テ死スル者モナイ。衣食玩具ヲ将去ル者モナイ。思ハ面白キコトシヤ。富栄ノ人ハ短命ナルカ多イ。貧賤ノ家ハ多ク子孫ニ乏カラヌシヤ。多事ナレバ身ヲ損スル。多慮ナレバ心ヲ労スル。華奢ヲ好ム者ハ多其家ヲ亡ス。枯淡ヲ守ル者ハ多ク一世ヲ全クスルシヤ。此中ニ独生レ独死シテ。眷属衣食ヲモ身ニ従ヘヌト云ハ畜生ナトノヤウニ無福テ生ルルト云テハナイ。此人間界福分高下差別アレトモ。不貪欲戒ノ姿ナルコトハ一シヤ。千乗ノ主モ独死シ独生スル。不貪欲戒ノ姿シヤ。万乗ノ君モ独生シ独死スル不貪欲戒ノ姿シヤ。千金ノ子モ一銭ヲ将来ラス。一銭ヲ将去ラヌ。不貪欲戒ノ姿シヤ。

書き下し

此正法ノ処ヨリ看レバ。天地モ全ク不貪欲戒ノ姿シヤ。日モ中スレバ傾ク。月モ満レバ虧ル。物盛ナレハ衰フ。草木モ花ノウルハシキモノハ果カ美ナラヌ。禽獣モ用アル者ハ牙ヲ略ス。珠玉ノ多キ国ハ必ス五穀衣服ニ乏シ。寒雪ノ国ハ暴風少キト云シヤ。人間モ全ク不貪欲戒ノ姿シヤ。生スルトキ唯独リ生スル。眷属ト共ニ生ルル者モナイ。衣食玩具ヲ持テ生ルル者モナイ。死スルトキ唯独リ死スル。眷属僕従ヲ将テ死スル者モナイ。衣食玩具ヲ将去ル者モナイ。思ハ面白キコトシヤ。富栄ノ人ハ短命ナルカ多イ。貧賤ノ家ハ多ク子孫ニ乏カラヌシヤ。多事ナレバ身ヲ損スル。多慮ナレバ心ヲ労スル。華奢ヲ好ム者ハ多其家ヲ亡ス。枯淡ヲ守ル者ハ多ク一世ヲ全クスルシヤ。此中ニ独生レ独死シテ。眷属衣食ヲモ身ニ従ヘヌト云ハ畜生ナトノヤウニ無福テ生ルルト云テハナイ。此人間界福分高下差別アレトモ。不貪欲戒ノ姿ナルコトハ一シヤ。千乗ノ主モ独死シ独生スル。不貪欲戒ノ姿シヤ。万乗ノ君モ独生シ独死スル不貪欲戒ノ姿シヤ。千金ノ子モ一銭ヲ将来ラス。一銭ヲ将去ラヌ。不貪欲戒ノ姿シヤ。

現代語訳

この正法の立場から見れば、天地もまったく不貪欲戒の姿である。日も南中すれば傾く。月も満ちれば欠ける。物は盛んになれば衰える。草木も花の麗しいものは実が美しくない。鳥獣も役立つもの(角など)を持つ者は牙を欠く。珠玉の多い国は必ず五穀や衣服に乏しい。寒く雪の多い国は暴風が少ないと言う。人間もまったく不貪欲戒の姿である。生まれる時はただ独り生まれる。眷属と共に生まれる者もいない。衣食や玩具を持って生まれる者もいない。死ぬ時はただ独り死ぬ。眷属や召使いを連れて死ぬ者もいない。衣食や玩具を持って行く者もいない。思えば面白いことである。富み栄える人は短命であることが多い。貧しく賤しい家は、多くは子孫に乏しくない。事が多ければ身を損なう。思い煩いが多ければ心を疲れさせる。華美を好む者は多くその家を滅ぼす。枯淡を守る者は多く一生を全うする。この中で、独り生まれ独り死んで、眷属も衣食も身に従えないと言うのは、畜生などのように福がなく生まれるという意味ではない。この人間界には福分の高下の差別があるけれども、不貪欲戒の姿であることは一つである。千乗の主も独り死に独り生まれる。不貪欲戒の姿である。万乗の君も独り生まれ独り死ぬ。不貪欲戒の姿である。千金の子も一銭を持って来ず、一銭を持って去らない。不貪欲戒の姿である。

解説

尊者は天地と人間そのものに不貪欲戒の姿を見る。日は中天に至れば傾き、月は満ちれば欠け、一つを得たものは別の一つを欠く。自然はどこかで独り占めをしないようにできている。人もまた、王であれ千金の子であれ、独りで生まれ独りで死に、一銭も持って来ず持って去らない。これは貧しさの話ではなく、福分の差を超えて誰もがそういう形で生きているという指摘である。多くを抱え込もうとする心を、生と死の事実の側から静かに緩める一節である。

この章句が説くこと

天地生死不貪欲枯淡盛衰独生独死

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