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十善法語 / 巻第二・不偸盜戒

日月星辰ノ行度ヲ見テ。古今ニ條理ノ亂レヌコトヲ知ル。山崩レ川竭ルヲ見テ。成壞ノ數アルコトヲ知ル。雷震ヒ地動クヲ見テ。常ト變ト相依ルコトヲ知ル。月盈レハ虧ク物盛レハ衰ルヲ見テ。世相ノ當然ヲ知ル。鳥獸ノ羽毛ソナハルヲ見テ。此身有ハ此服アルコトヲ知ル。蚯蚓ノ土ヲ食トシ。蝶ノ花ヲ吸ヲ見テ。此口アレハ此食アルコトヲ知ル。蜂カ巢ヲ營ムヲ見テ。此衆アルハ此屋宅城邑アルコトヲ知ル。蜘蛛カ蜂ノ毒ニ中テ芋畑ニ走ルヲ見テ。此病アレハ此藥アルコトヲ知ル。條理ノ亂レヌコトヲ知レハ道ヲ守テ疑ハヌ。貧ニ處シテ富ヲ美マヌ。賤ニ處シテ貴ヲ望マヌ。盈虛ノ數アルコトヲ知レハ得失是非ニ心ヲ動セヌ。足テ奢ラヌ。闕テ愁ヘヌ。常ト變ト相依ルコトヲ知レハ事事ニフレテ恐ナク。難ニ處シテ自安ンシ。常ニ處シテ遠ク慮ル。世相ノ當然ヲ知レハ分限ヲ守テ過サヌ。飮食衣服屋宅醫藥ノ具ルコトヲ知レハ外事ニ使ハレヌシヤ。要ヲ取テイハハ。目ニ觸レ耳ニ聞ク。不偸盜戒ノ行相ナラヌコトハナキシヤ。生レ來リシヨリ死シ去ルマテ。不偸盜ノ行相ナラヌコトハナキシヤ。天地開闢ヨリ世界壞滅マテ。不偸盜ノ行相ナラヌコトハナキシヤ。

新字:日月星辰ノ行度ヲ見テ。古今ニ条理ノ乱レヌコトヲ知ル。山崩レ川竭ルヲ見テ。成壊ノ数アルコトヲ知ル。雷震ヒ地動クヲ見テ。常ト変ト相依ルコトヲ知ル。月盈レハ虧ク物盛レハ衰ルヲ見テ。世相ノ当然ヲ知ル。鳥獣ノ羽毛ソナハルヲ見テ。此身有ハ此服アルコトヲ知ル。蚯蚓ノ土ヲ食トシ。蝶ノ花ヲ吸ヲ見テ。此口アレハ此食アルコトヲ知ル。蜂カ巣ヲ営ムヲ見テ。此衆アルハ此屋宅城邑アルコトヲ知ル。蜘蛛カ蜂ノ毒ニ中テ芋畑ニ走ルヲ見テ。此病アレハ此薬アルコトヲ知ル。条理ノ乱レヌコトヲ知レハ道ヲ守テ疑ハヌ。貧ニ処シテ富ヲ美マヌ。賤ニ処シテ貴ヲ望マヌ。盈虚ノ数アルコトヲ知レハ得失是非ニ心ヲ動セヌ。足テ奢ラヌ。闕テ愁ヘヌ。常ト変ト相依ルコトヲ知レハ事事ニフレテ恐ナク。難ニ処シテ自安ンシ。常ニ処シテ遠ク慮ル。世相ノ当然ヲ知レハ分限ヲ守テ過サヌ。飲食衣服屋宅医薬ノ具ルコトヲ知レハ外事ニ使ハレヌシヤ。要ヲ取テイハハ。目ニ触レ耳ニ聞ク。不偸盗戒ノ行相ナラヌコトハナキシヤ。生レ来リシヨリ死シ去ルマテ。不偸盗ノ行相ナラヌコトハナキシヤ。天地開闢ヨリ世界壊滅マテ。不偸盗ノ行相ナラヌコトハナキシヤ。

書き下し

日月星辰ノ行度ヲ見テ。古今ニ条理ノ乱レヌコトヲ知ル。山崩レ川竭ルヲ見テ。成壊ノ数アルコトヲ知ル。雷震ヒ地動クヲ見テ。常ト変ト相依ルコトヲ知ル。月盈レハ虧ク物盛レハ衰ルヲ見テ。世相ノ当然ヲ知ル。鳥獣ノ羽毛ソナハルヲ見テ。此身有ハ此服アルコトヲ知ル。蚯蚓ノ土ヲ食トシ。蝶ノ花ヲ吸ヲ見テ。此口アレハ此食アルコトヲ知ル。蜂カ巣ヲ営ムヲ見テ。此衆アルハ此屋宅城邑アルコトヲ知ル。蜘蛛カ蜂ノ毒ニ中テ芋畑ニ走ルヲ見テ。此病アレハ此薬アルコトヲ知ル。条理ノ乱レヌコトヲ知レハ道ヲ守テ疑ハヌ。貧ニ処シテ富ヲ美マヌ。賤ニ処シテ貴ヲ望マヌ。盈虚ノ数アルコトヲ知レハ得失是非ニ心ヲ動セヌ。足テ奢ラヌ。闕テ愁ヘヌ。常ト変ト相依ルコトヲ知レハ事事ニフレテ恐ナク。難ニ処シテ自安ンシ。常ニ処シテ遠ク慮ル。世相ノ当然ヲ知レハ分限ヲ守テ過サヌ。飲食衣服屋宅医薬ノ具ルコトヲ知レハ外事ニ使ハレヌシヤ。要ヲ取テイハハ。目ニ触レ耳ニ聞ク。不偸盗戒ノ行相ナラヌコトハナキシヤ。生レ来リシヨリ死シ去ルマテ。不偸盗ノ行相ナラヌコトハナキシヤ。天地開闢ヨリ世界壊滅マテ。不偸盗ノ行相ナラヌコトハナキシヤ。

現代語訳

日月星辰の運行を見て、古今に条理が乱れないことを知る。山が崩れ川が涸れるのを見て、成り立っては壊れる定めがあることを知る。雷が震え地が動くのを見て、常と変とが互いに依ることを知る。月が満ちれば欠け、物が盛んになれば衰えるのを見て、世のありさまの当然を知る。鳥獣に羽毛が具わっているのを見て、この身があればこの衣服があることを知る。みみずが土を食とし、蝶が花の蜜を吸うのを見て、この口があればこの食があることを知る。蜂が巣を営むのを見て、この群れがあればこの家や町があることを知る。蜘蛛が蜂の毒に当たって芋畑に走るのを見て、この病があればこの薬があることを知る。条理が乱れないことを知れば、道を守って疑わない。貧しさにいて富を羨まない。卑しい身分にいて貴い身分を望まない。満ち欠けに定めがあることを知れば、得失や是非に心を動かさない。足りていても奢らない。欠けていても愁えない。常と変とが互いに依ることを知れば、事ごとに触れて恐れがなく、難儀にあって自ら安んじ、平常にあって遠く慮る。世のありさまの当然を知れば、分限を守って度を越さない。飲食・衣服・家・医薬が具わっていることを知れば、外の事に使われないのである。要点を取って言えば、目に触れ耳に聞くもので、不偸盗戒の行いのすがたでないものはないのである。生まれて来てから死に去るまで、不偸盗の行いのすがたでないものはないのである。天地開闢から世界の壊滅まで、不偸盗の行いのすがたでないものはないのである。

解説

自然の観察から不偸盗戒を読み取る美しい段である。天体の運行に乱れぬ条理を、月の満ち欠けに盛衰の定めを、鳥の羽毛に身には衣が備わることを、みみずや蝶に口あれば食あることを見る。蜘蛛が蜂に刺されて芋の葉に走るという観察は、病あれば薬ありの例である。万物にはそれぞれ分が与えられているから、貧にいて富を羨まず、足りて奢らず、欠けて愁えない。天地開闢から世界の終わりまで、すべてが不偸盗戒の姿だという結びは、足るを知る心を宇宙の秩序に結びつけている。

この章句が説くこと

不偸盗条理知足分限盛衰自然

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