十善法語 / 巻第七・不兩舌戒
經ニ佛言。人於世間不取他人財物。道中不拾遺。心不貪利。從是得五善。何等五。一者財物日增。二者不亡遺。三者無所畏。四者得上天。天上多珍寶。五者從天上來下生世間保守其財產。縣官盜賊不敢侵犯取其財。今現在保財至老者。皆故世宿命不敢取他人財物所致。亡無多少。令人憂惱。亡遺不如保在。如是分明。愼莫取他人財物トアル。若偸盜ノ者ハ此ニ反シテ。一ニ財物日ニ耗減スル。二ニ王法ノ疾ム所。覺知セラレテ罪ニ當ル。三ニ身常ニ安カラス。心常ニ恐怖シ。亦自ラ欺ク。四ニ死後惡趣ニ入ル。五ニ惡趣ヨリ出テタマタマ人中ニ生スルモ。或奴婢トナリテ他ニ役使セラレ。或貧賤ニシテ衣食常ニ足ラヌトアル。
新字:経ニ仏言。人於世間不取他人財物。道中不拾遺。心不貪利。従是得五善。何等五。一者財物日增。二者不亡遺。三者無所畏。四者得上天。天上多珍宝。五者従天上来下生世間保守其財産。県官盗賊不敢侵犯取其財。今現在保財至老者。皆故世宿命不敢取他人財物所致。亡無多少。令人憂悩。亡遺不如保在。如是分明。慎莫取他人財物トアル。若偸盗ノ者ハ此ニ反シテ。一ニ財物日ニ耗減スル。二ニ王法ノ疾ム所。覚知セラレテ罪ニ当ル。三ニ身常ニ安カラス。心常ニ恐怖シ。亦自ラ欺ク。四ニ死後悪趣ニ入ル。五ニ悪趣ヨリ出テタマタマ人中ニ生スルモ。或奴婢トナリテ他ニ役使セラレ。或貧賤ニシテ衣食常ニ足ラヌトアル。
書き下し
経ニ仏言。人於世間不取他人財物。道中不拾遺。心不貪利。従是得五善。何等五。一者財物日增。二者不亡遺。三者無所畏。四者得上天。天上多珍宝。五者従天上来下生世間保守其財産。県官盗賊不敢侵犯取其財。今現在保財至老者。皆故世宿命不敢取他人財物所致。亡無多少。令人憂悩。亡遺不如保在。如是分明。慎莫取他人財物トアル。若偸盗ノ者ハ此ニ反シテ。一ニ財物日ニ耗減スル。二ニ王法ノ疾ム所。覚知セラレテ罪ニ当ル。三ニ身常ニ安カラス。心常ニ恐怖シ。亦自ラ欺ク。四ニ死後悪趣ニ入ル。五ニ悪趣ヨリ出テタマタマ人中ニ生スルモ。或奴婢トナリテ他ニ役使セラレ。或貧賤ニシテ衣食常ニ足ラヌトアル。
現代語訳
経に、仏は言われた。人が世間で他人の財物を取らず、道で落とし物を拾わず、心が利を貪らなければ、これによって五つの善を得る。何を五つとするか。一つには財物が日に増す。二つには失ったり落としたりしない。三つには恐れるところがない。四つには天上に生まれ、天上には珍しい宝が多い。五つには天上から下って世間に生まれれば、その財産を保ち守り、役人や盗賊があえて侵してその財を取ることがない。今、財を保って老いに至る者がいるのは、みな前世の宿命で、あえて他人の財物を取らなかったことによる。失うことは多少にかかわらず人を憂え悩ませる。失い落とすのは保っているのに及ばない。このように明らかである。謹んで他人の財物を取ってはならない、とある。もし盗む者はこれに反して、一つには財物が日に減っていく。二つには王法の憎むところで、発覚して罪に当たる。三つには身が常に安らかでなく、心は常に恐れ、またみずからを欺く。四つには死後悪趣に入る。五つには悪趣から出てたまたま人の中に生まれても、あるいは奴婢となって他人に使役され、あるいは貧しく賤しくて衣食が常に足りない、とある。
解説
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『十善法語』巻第七・不兩舌戒経ニ云。仏言人於世間不犯他人婦女。心不念邪僻。従是得五善。何等五。一者不亡費。二者不畏県官。三者不畏人。四者得上天。天上玉女作婦。五者従天上来下生世間。多端正婦。今尊者見有若干婦端正好色。皆故世宿命不犯他人婦女所致也。見在分明。慎莫犯他人婦女トアル。若邪婬ノ者ハ此ニ反シテ。一ニハ家室和セス。夫婦シハシハ闘ヒ。シハシハ銭財ヲ費ス。二ニ王法ノ疾ム所。県官ノ罰スル所。身罪ニ当リ。死亡ヲ招ク。三ニ自カラ身ヲ欺キ。常ニ人ヲ畏ル。四ニ悪趣ニ入ル。五ニ悪趣ヨリ出テ。タマタマ人中ニ生シテモ。自ラ婬蕩不羈。随意ノ眷属ヲ得ズ。タマタマ有モ柔順ナラス。婦容色ナク。悪性嫉妬ス。設シ女人トナレハ独一主人ナラス。多人共シテ婦トシ。常ニ捶杖ニ遇フトアル。此業果面白キシヤ。天地ミナ分界アリ。万物各各主アル。守レハ此処ニ福智生スル。侵セハ此処ニ罪累起ル。此等ノ事。真正ノ道人ノ世間ニ在テ常ニ咲ヲ含ム処シヤ。
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『十善法語』巻第二・不偸盜戒是ニ由テ見ヨ。此不偸盗戒甚深シヤ。大機大用ノ人ナラスハ。ソノ源底ヲ尽ストハ云レヌシヤ。初メ他ノ物ヲ盗マヌヨリ。終リ羅漢ニ至リ菩薩ニ至リ。逈然独脱シ。諸仏ノ法蔵ヲ開キテ。一切衆生ヲ救済スルマテ。此不偸盗戒ノ戒相ナラヌコトハナキシヤ。華厳経ニ。偸盗ノ罪。又衆生ヲシテ三悪道ニ堕セシム。若人中ニ生スレハ二種ノ果報ヲ得ル。一ニハ貧窮。二ニハ共財自在ヲ得ストアル。此偸盗ノ罪ノ悪趣ヲ現スルコトモ。通途ノ者ハ信シ難キカ。世間ノ道理ヲ以テ看ヨ。少少ノ盗ヲ作ス者ハ必ス国ノ常刑有テ許サヌ。何レノ国ニモ古今違ハヌ。周ノ末ニ田氏カ斉ヲ奪ヒシ。韓魏趙カ晋ヲ分チ領セシ類ハ。国ノ常刑ヲモ合セ盗ム。此等ハ業果ト云コトナクハ。大悪ハ却テ福ト成ルト云モ可ナリシヤ。
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『十善法語』巻第二・不偸盜戒仏物ヲ法ニ用フルモ盗シヤ。僧ニ用ルモ盗シヤ。法物ヲ仏ニ用ルモ僧ニ用フルモ盗シヤ。僧物ヲ仏若ハ法ニ用ルモ盗シヤ。此類経論律蔵ノ中ニ微細ニ演説アルシヤ。此仏物ヲ法ニモ用ヒス僧ニモ用ヒス。法物ヲ僧ニモ用ヒス仏ニモ用ヒヌ様ナルコト。愚者庸人ハ窮屈ニ思フヘケレトモ。サウテナイ。是等カ法性等流ノ法シヤ。仏法ノ仏法タル。十善ノ十善タル此ニ在シヤ。道ノ道タル。人ノ人タル。爰ニ至テ天地位定ル。梵王帝釈ハ此世界有ン限ソノ位ニ処シテ動セヌト云コトシヤ。日月星辰ハ此世界有ン限。規度定テ乱レヌシヤ。向上ノ趣ハ且ク略ス。此人界ノ中。近クハ身ヲ百年ニ修シテ。家ヲ千歳ニ守リ。国ヲ万万世世伝フル道シヤ。
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『十善法語』巻第七・不兩舌戒此業果面白キシヤ。天地此富アリテ人間ニ付与スル。偸盗ノ者バカリガ用ルコトナラヌシヤ。業障ノ者カ饑寒スルシヤ。人君此仁慈アリテ万民ヲ撫育スルニ。偸盗ノ者ガ自ラ刑ニアタルシヤ。父母仁慈アリテ児孫ニ付与スルニ。盗心ノ者ガ自ラ耗減スルシヤ。上下互ニ仁慈アリテ世人ヲ輔助スルニ。盗心ノ者カ自ラ隔ツルシヤ。真正ノ道人此ヲ看テ実相ニ達スル。日夜常ニ足ル。身心常ニ富ム。財物法ノ如クニ用フル。此中是非得失テナイ。自他隔歴テナイ。一炷ノ香十方諸仏ニ供養スルト云モ。一茎草ヲ丈六ノ金身ト作シ用フルト云モ。ソノ理アルト云コトシヤ。
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『十善法語』巻第二・不偸盜戒地ヲ盗ムト云ハ農人カ田地ノ畔際ヲカスメ侵スル類。水ヲ盗ムト云ハ。五六月早魃ノ時。他ノ田作ルヘキ水ヲ我方ニ引類。火ヲ盗ムト云ハ。暗夜ニ他ノ灯光ヲヒキ。寒天ニ他ノ炭火ヲ妄ニ用フル類。風ヲ盗ムト云ハ。炎暑ノ時凉風ヲ我家ニ引ク類。多般ノ事皆準シテ知ルカヨイ。又他ノ智慧ヲモ盗ム。禄ヲモ盗ム。其功ヲモ盗ム。位ヲモ盗ム。官ヲモ盗ム等。ミナ此ニ例シテ知レ。
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『十善法語』巻第二・不偸盜戒業ハ心相ヨリ起ル。事ニ大小アレトモ。理ニ巨細ナイ。此心有処此業アル。理ニソムキ法性ニ違フ。地獄モ有ヘキコトシヤ。餓鬼畜生モ有ヘキコトシヤ。此三途ニ堕スルヲ異熟果ト云。此不偸盗戒ヲ犯スル者ハ。タマタマ人間ニ生スルモ貧窮ナリ。資財ニ自在ヲ得ヌ。此ヲ等流果ト云。国ニ在テ植ル所ノ五穀モ霜雹ヲ被ムルヲ。增上果ト云。謬ル者ハ。本体カケメナキ仏性ニ背テ。生生ノ貧窮下賤ノ身トナル。唯謹慎奉持ノ士ノミ有テ。自家屋裏ノ宝蔵永ク損減ナキシヤ。